第10話 事件の黒幕

どれくらいの時間が空き去ったのか

数分か数十分なのか

それは定かでわないが しかし

暗くて深い落とし穴に落ちた子犬が

主人の声に気が付くように

心の片隅で知らないうちに探しもとめている

切れない因縁従順さを秘めた声の持ち主耳元での 

囁きで、俺は目覚める事が出来た。

「たける

たける

お願い

目を覚ましてっ

 

かわいそうに

また私のために・・

こんなめにあわせてしまったのね

 

瞼をゆっくり開くと

視野いっぱいに女の顔が映った

女の両手が俺の顔の上で

しなやかに動きまわり

倒れた時に、もろに顔面にこびり付いた砂を

器用に払い除けた

何やら後ろ頭の底に

柔らかくて温もりのあるものが頭を包むように敷かれていた。

それは子宮のように本能的な柔らかさに満ちていると 感じていた

それは膝だった

そう の膝枕の上で 俺は目覚めた

 

 

「よせよー

またお前が こんなに近いから

俺は またついていない一日を過ごすはめになるじゃないか」

 

「そんなぁ〜

でも・・・考えてみりゃ そうよねっ

私が近寄ると

貴方は 間違いなく不幸になってしまったわ

それは判っているのよ・・・そう わかっていたの

それなのに・・何でっ思うでしょ?

まるで悪女ね 私

途中で 何もかも投げ出した私は

何を 言っても信用されないって立場なのに

また性懲りもなく貴方の前に立ちはだかって

貴方の気持ちを ボコボコにして凹ますことになる

なのに あえて

 また 武をここまで連れてきた訳はね

真由美の変わり果てた態度に触れて

私は 知って欲しかったの

あの時の 私の気持ちを・・・・

・・いいえ ぁぁっ

そうじゃなくてっっ

やつばり違うわ

どうしょう

 

結局

それも 私の大きな過ちなのかもって....今・・・

 

 

 

たける

私のこと

憎いでしょ

憎くてしょうがないでしょ・・・」

 

「・・・・」

言葉に詰まった俺は、瞳から視線を逸らすために

頭を持ち上げて、自分のからだが瞳の真正面にくるように座って

両手で瞳の肩を掴み取り 瞳の体を引き寄せようとした。

と その時

夜風に乗って

遠くからキャンプハァイヤーの様子を伺わせる声が

 

「〜あなたとどこかで愛し合える予感〜♪」

それは

のびやかな真由美の歌声だったが・・

途中でパッタリと止んでしまった。

その後 ため息を付くぐらいの僅かな時間に

熱湯をひっくり返したような

異変を告げるような数人の悲鳴が聞こえてきた。

俺は 真由美のことを気にかけながらも

無視して瞳との会話を続けた

「・・・

 

 

俺は

お前のお陰で

身も心もボロボロだー

俺に

もう

これ以上 一ミリでも近づくなって・・・

言いたいところだけど...

 

 

 

今お前の 柔らかな膝枕の中で

 気持ちが 変っちまった

 

上手くは 言えないけど

 

・・・

俺の人生

皮肉と苦痛の連続だけど

 

 

お前に めぐり会えたことを 後悔していないよ

なぜかって

お前に会う前の俺はさぁ

 

・・・

学校では 誰とも口聞かず

担任教師の授業ですらノートの半分も書き写すこともできないで

ただ黙って聞いているだけ

そのくせチャイムなるとまっさきに教室をでてコンビニの勤め時間が来るまで

誰も居ない美術室でひとり週間漫画を読むんだ

それが一日の中で唯一の楽しみ

後は またゼンマイ仕掛けの人形のように無表情でコンビニに行き

コンビニでも同世代のスタッフとも挨拶もろくにしない擦れ違うのが日課の生活

家に帰れば コンビニから貰った期限切れの弁当を録画したミュージック番組みながら

食べてそのままテーブルに頭をつけて朝まで寝ることも頻繁だ゜ったんだ。

そんな独り言すら無縁の無機質な世界で

俺は時間だけを費やしたのさ

 

 

瞳っ

 

なぁ

俺の傷口を探して心配するのは やめて

俺たちの真上を

見上げてごらん」

 

「えっ  」

星 だょ

今夜は 雲ひとつなくて、

息を飲む輝きだ」

「わぁー

ほんとね

綺麗っ」

「感じる?

 

よかった 瞳

お前 まともだよ

ろくな事にならないからっ

人の心の裏側など過敏に心配しすぎるなょ

話しがあるんだろっ

 

そんな目してないで

いいから

俺を こんなめに合わせてまで

どうしても話したかったこと

早く

教えてくれよ」

「・・・

たける

肝心なことから話すは

 

私の父は、私に交際を申し込んだ貴方の勇気

鬼のように恨んでいるは

父の気性から察して

彼の今の最大の関心事は 私のことでなくて

貴方よ

たける

きっと寝ても覚めても

貴方への憎悪で

頭の中が溢れている事でしょう

信じられる?」

「娘の瞳のことより

赤の他人の 俺のことが

そんなわけないだろう

一度も会っていないのに

いくら親だからっいったってそこまで言い切れるのか?」

「判っるよ 武が疑る気持ち

でも 私 見ちゃったの

あれは ・・・半年前の

武と初デートした翌日の夜中のことなの・・・

父はダイニングルームのテーブルの上に載せた何かに向かって

果物ナイフをかざしてその一点めがけてそのナイフを振り下ろしていたの

普段物静かな父の

憎しみ満ちたなんとも恐ろしい形相をその時生まれて初めて見たの

父はナイフを夢中で何度も何度も振り回した後

切り付けた物を細かく引き裂いてビニール袋に入れてゴミ箱に捨てしまったの

父はその後、棚からカァティーサークを取り出しウィスキーグラスに半分ほど注いで一気に飲み干し

小声で

・・・・覚えていろよ」と

天井の方を見上げながら囁き、千鳥足で寝室に引き上げてしまったの

数分後に私は父に気づかれないように注意深くゴミ箱に捨ててしまったものを取り出して

切れ切れになった紙切れを繋ぎ合わせてみたの

それは生徒手帳からカラーコピーした半紙で

顔半分がナイフで刻み込まれた 

武 貴方の写真だったの」

 

「つまり 親父さんは 俺のこと殺したいぼと

憎んでいるって言いたいのか?」

 

 

 

 

「父は 日常生活や言動のうわべは常識人でも

影に隠れると豹変する

パラノイア(妄想症)なの

彼の作り出す世界の妄想のお陰で

私も

そして哲も

・・・轟も

犠牲になった

武 貴方はそれだけで済まないはず

父は貴方を社会的に抹殺するつもりよ」

「社会的に抹殺??

俺そんなに 偉くないし??」

「油断しちゃ駄目

人を人として殺すには

拳銃や刃物は要らないわ

その人の持っている信頼や財力を奪えばいいのよ」

「どういうこと???」

「お兄さんからの毎月の仕送りは

実は私が武と交際しだした時から、途絶えているの」

「何をデタラメ言い出すだ。

そんな訳ないぜっ

毎月減ってはいるけど銀行口座振込みで入金してもらっているし」

「そのお金は

・・・

ほとうは

ごめんなさいね

わたしが DreamBoxS夜の部でスタッフとして

働いて稼いだお金よ

哲のRoseWaterを使って貴方の兄さんに成りすまして毎月振り込んでいたの

その実情は 愛華だけには 知ってもらっていたの」

DreamBoxSの夜の部 ?・・・

つまり、ガールズバーみたいに接客して稼いだお金で

半年以上の間 お前から養ってもらっていた言うのか??

てことは、愛華は客引き目的であんな派手な格好してたってわけ

それに親父のヒロも未成年者を唆して誘う

客引きが目的の最低の汚い大人の豚野郎っことか?」

 

「そうは 言いたくないけど...」

 

「なんだょ

その顔は 認めてんじゃないか

 

まっ たく

俺の周りは

どいつも こいつも

ろくでもない クズ野郎ばかっかだなぁ

 

あー

どうして そんな大事な事

今まで隠してたんだ」

「言い訳に聞こえるかもしれないけど

まだ完全に

瞳の状態でいれるわけじゃなかっし」

「いい加減な事ばかり言って

・・・

俺も また

どまでお前を信じていいか

わからないくなったぜ

ちきしょう

気に入らないなっ

面白くない話しだ

 

変だ 変だ 変だ !

 

兄は どうなったんだ?」

「お兄さんは リストラで子会社に左遷されて大阪

仕送りできなくなった趣旨のメールは

哲から入手して私が改ざんして減額仕送りの文言にして送り直したの

「信じらんねっ

まさか・・・

俺の兄の人生まで操作出来る

とでも言うつもりか???」

「それは できないと思う・・・

実はね

父は もう既に悪人なの

 

父は自分の店での売上げの他に

株の売買で富を築いていたの

でも、

それは哲のRoseWaterをつかっての違法株式取引をやっていたって

哲が教えてくれた

だから

 

お兄さんの営業成績の妨害や担当部門の株価の操作は

簡単かもって・・・もしかしたらって思うの

「ばかげてる・・・

唯一納得できるのは

愛華が馴れ馴れしく俺に近づいてきた理由ぐらいで

他の全部は 確信のもてる話しじゃな」

「じゃ

これだけは信じて

貴方が 轟と戦えば

間違いなく 身体的に今以上のダメージを受けるは

私は 真実を知ってもらうために此処まで呼んだけど

目的を達したから、勝ち目の無い勝負は捨てて

逃げて、

それでも轟が追ってくるようだったら

暴行事件として警察に訴えればいいのょ

そのことで、私や哲が警察に告訴されても

貴方をけして恨まないわ」

「・・此処まで来て

そんなこと言うな

もう引き下がるわけにはいかないんだ

俺を バカにするなょ

頭にきたーぞ

 

絶対 轟と勝負して

お前の親父さんと決着を付けてやる

「駄目よ

たける の わからずやっ」

 

瞳は、泣き出しそうなかん高い声で怒鳴り

俺の顔を平手打ちした。

 

「ちきしょう

また また また

女に殴られた

なんで 俺だけ いつもこうなんだ。」

 

 

やーだー

もう

ちっと 貴方達っ

そんな暗がりに隠れて

何 いちゃいちゃしてるの?」

その声は 暗がりから月明かりにシルエットを表した

デティールが崩れて弦が切れうずを巻いている 無残なフォークギターを肩越し抱えた

亡霊のような悲壮感漂う真由美の姿だった

「真由美っ

お前こそ 何しに 俺たちの後追って来たんだ?

さっきお前が言ったように

俺は お前の友達以下の存在なんだろ

だったら俺が瞳と此処で何しようとお前には 関係ない話しじゃないのか

お前は キャンプファイヤーで気持ちよく歌ってればいいさ」

「そうなんだけど...

なんか

変なの??

わけわかんないけど??

 

わたし 歌っている途中で

胸がキュンと締め付けられるような電気が走って

 急に武のとこ

気になりだして・・

もう

歌ってられなくなったんだもん

 

・・

それに明菜たちなんか 歌ってる最中にひそひそ話して

私の歌なんか聞いてくれてないしー

 

 

きっと 武達のこと話してると思うの

もうー

やになったんだもん!」

真由美っー マジでそんなこと思っているの??」

「もう やめてょっー

その名前 呼ばないで」

真由美は 突然 

両手で耳を塞ぎ

地面にしゃがみこんだ

咳払いをしだした。

「胸が 苦しいよーぅ

「真由美っ

それじゃ まるで心臓に欠陥のあると言いふらした瞳が人格転移した時の嘘つき洋子みたいじゃないか」

洋子!!

そう・・

私は 洋子よ 武」

 

真由美は 背中を丸めてはき捨てるように咳き込み

俺の足元まで来てジーンのすそ元を掴みながら

その場に倒れこんでしまった

「たけるっー

もう

駄目みたいっ

・・・・・・・・・・・お願いっ

と息絶え絶えに呟くと

目を閉じて 眠り込んでしまった。

(瞳)

「大変よ

たける

催眠誘導に掛けられている私だから唯一

真由美の今気持ちが

判って上げられるけど

 

・・・

真由美のこの症状は

催眠誘導の作られた感情と

本来の武に対する強い愛情の

葛藤の危険な徴候だわ」

「なぁー も  もう少し判りやすく言ってくれ」

「真由美は今の無理やり作られた感情に耐えられなくて

たける 貴方の事を意識して・・・

逃げ道に洋子の人格に成りすます事を 本能的に選んだのよ」

 

 

『なんでっ

なんで

俺の人生いつも こんなにまで

運命を決める神様も

想像付かない展開になるんだ?』

 

「瞳っ 

わるぃーけど・・・

真由美をもっと安静できる場所で

横にさせてやりたいんだけど

手伝ってくれるか?? 

この近くで そんな場所といったら

浜茶屋 南十字星

しかないわ

でも  真由美をそんなとこに連れて居てって いいの?

轟が貴方との決闘に選んだ場所でしょ」

「・・・

たぶん 運命さ その場所は

はははぁー

そうだよ

そうにきまっている

それに 雨上がりのを見るには

冷たい雨に濡れなきゃなんないかもね」

「・・??

 

たける 急に

落ち着いた顔しちゃって

大丈夫?

しんどいでしょけど・・私みたいに壊れないでね」

「バカー

 

 だから

心配するなって

俺は 強くないけど

唯一の取り得

素直で単純だから

そんなに簡単に 壊れないよ

そんなことより

真由美の体が心配だ

早く安静できる場所に移そう

第1話 南十字星

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(2014年4月4日 水曜日)

瞳は失踪の理由の一つを武に告げるのだが

納得のいかない武は あえて轟の対決を強行しようとする

 

 

 ここまで読んでくれてありがとう・★

それでは・・・

読んでくれた貴方に、ときめきの小さな灯りが、悪戯な風に惑わされて、消えないように願っています・・・続く

Hiko・★