第9話 轟の罠

狭い部屋での受身は、足が周りの家具に当たって

とんでもない激痛をともなってしまう

 

「たける、体が丸くなっていないから、手足が家具にあたるんだ

ベルトの辺りを見ながら頭を打たないようにして

猫のように丸くなって回転しろ

マットに触れたら落ちた方の手で

反動で体が浮き上がるほどマットを思い切り叩け

 

「そんなこと体育の授業で 習ってるぜ」

 

「確かに、そうだなっ

武 轟も一番最初に それを習っていることを忘れるな

どんなに強い相手でもバランスを崩して倒れそうになれば

反射的に受身の態勢を取ってしまうはずだ

組み手からの 崩し 膝車なんかは 膝を支点にして相手のバランス崩す

大外刈 大内刈 背負い投げも全部

相手の足や腰を支点にしてバランスを崩させることだ

そうだろ  武 ?」

 

「・・・・   まあなっ」

 

「轟が お前の何処を支点にして崩しに掛かっているかを、見極めて

その力を利用してその逆技を仕掛けて、

相手が受身の態勢になるようさせることた゛。」

 

「簡単に 言うけど・・・そんなの練習してないから出来ないぜ」

 

「轟も同じさ、

毎日柔道の試合をしているわけじゃないはずだ

過去の経験が体に染み込んで

勝てるという自負で落ち着いているだけだ

柔道の技にない 1回だけ反則技を使え

なんでもいい、キックボクシングの蹴りでもいい

轟は 必ず一瞬 逆上して冷静さ失い

体勢を崩してまでも攻撃してくるはずた゛

投げ技のコツを教えてやるから

そこを 狙って 勝負しろ」

 

「最低・・最悪のアドバイスだな

本気で言ってるのが?

そんな卑怯なことしたら

反則技で俺の負けになるじゃないか?」

 

 

「判らない...そんなことしても轟には 効果ないかも・・・

ただ 轟は 少なくとも自分が決めた柔道という格闘技で投げられてしまった

ことの敗北感に悩むはずだっ」

 

「・・・・俺の 気持ちは どうなるんだ」

 

「真由美を 救いたくないのか?」

 

俺は勇輝のアドバイスには納得しなかったが

ゆっくりと首を 振って真由美のことを心配した

 

「勇輝君 そんなun ・fairなこと

武君に教えちゃ駄目っ」

愛華は そう叫んで 二人の間に割って入り込んだ

真由美のことがあるので、それ以上は 愛華も突っ込めなかったと思っていたが....???

言うだけ言ってら

黙って隅で二人の練習を見守っていた。

その横顔は半端なく不安に満ちていた。

愛華はなぜ必要以上に この騒動に首を突っ込んでくるんだろう?

俺はその時 有り得ないその答えを思い浮かべ

直ぐに心の底に仕舞い込んだ。

 

俺は 、勇輝からの投げ技の特訓を疲れきってしまうまで受けた。

その後は

明日はもう無事で自分の家に帰れるか判らないという悲壮感かんからか?

逆にみように、明るく振舞った

 

「勇輝 ありがとう

少し気持ちが 落ち着いたよ

 

勇輝の教え方が、担任の吉田先生よりうまいし

愛華は、友達思いの優しい女

だみたいな事を言って二人を褒め契って

和やかな雰囲気を作り

下世話なことは何も気にせず三人並んで川の字つくり寝た。

 

目覚めると、同学年の女と男の友達が寝ているいうことは

今までの俺の孤独な人生でなかったことで

最悪の状況なはずなのに、絶望感は少しも感じなかった。

約束の時間に間に合うように勇輝のバイクを借りて

「武君 気おつけて」

と言って手を振って見送る複雑な表情の愛華を後にした。

 

海岸道路は沈みかかった日の光りで水平線が紫に輝いて眩しいなつてきた。

『澄んだ青い風が 少し冷たい』

クリスタルゴーグルを眼前に下げてバイクを転がす

 

しばらく海岸の景色を無心で見ていたが

カーブに差し掛かってRを作ってバイクの車体を傾けた時

後方から、いたたまれない騒音と情念の追尾のような必死さを感じ

バックミラーに見覚え有る輝きの一つのライトが 反射した。

危険な速度で加速してそのライトは接近してくる

どうやら、カーブ付近なのに無謀にも俺のバイクを追い越しに掛かってきたみたいだ。

 

カーブ寸前で革ジャンを来た女ライダーが 俺のバイクを抜き去り

カーブを曲がり切った所で、

バイクのステップを路面に擦りつけて火花を弾き飛ばしながら

急激に制動をかけ

左足を軸にして360度回転させて

片手を上げて俺のバイクを止めた。

 

俺は衝突を避ける為に急ブレーキを掛けハンドルを内側に切った

タイヤが横滑りしてブレーキの軋む音が響き

バイクはついに横倒しになった

 

咄嗟の判断でバイクから離れて受身でアスファルトを回転した。

その勢いはそれだけではとても止められず

余った力は俺の体をガーターのボーリングの玉のように一直線に

ガードーレールの端の崖まで飛ばした。

 

腰から下がガードーレールからはみ出して、

重力に逆らいきれずに体全体が崖から落下しようとした時

      「たけるー」    と叫びながら

女ライダーが-ボルトの速さで、駆け寄り

俺の右手を引っ張り上げた。

左手が崖の淵に手おかけれるまで引っ張られると

後は自力でアスファルトの上に舞い戻った。

 

俺は怪我が無いか確認しながら体についた埃を払いのけ立ち上がると

ヘルメットを道路に叩きつけて女ライダーに詰め寄る

「武 大丈夫」

「バカ野郎 そんな気取ったこと言うなら

初めから危ないことすんなょ

・・・・そんなことりよ

お前は 轟の手先だろ

真由美を 

早く 帰せよ」

女ライダーはヘルメットを取り、金髪のウィッグをも取り去った

その容姿は 正に洋子だった。

「・・・やっぱり よ よっ 洋子かっ お前が犯人だったのか?」

と言って

本当のことは 切なくて知りたくないから

心とは反対の事をその場に合った当然の言葉に摩り替えて、叫んだ。

女は態度とは裏腹に 悲しげな憂い満ちた目つきでウインクしながら

 

「そうよ 武 

真由美の所まで、案内するから

私に

       ね 

付いてらっしゃい

・・・・

ついていくけど...

その先に待っているのは

あぁぁ〜

あんなゴリラ野郎に勝てるわけが無いしぃー

こんどこそ駄目さぁ 俺は・・・

死んでしまうか かたわになるかもなぁ

なのに

怖くない

どうかしてる

 

行き成り

瞳の牛乳みたいに可愛そうなぐらい白くて 

夏に相応しくない弱弱しい色の手が

俺の手首を包み込むように添えられ。

「お前っ

瞳だろぅー

騙されないぞっ」

 

「・・・・・・

また

貴方を巻き込んでしまったわ

瞳の心を取り戻したことを

気づいてくれたのね・・・

外見は洋子のふりしているけど

そう・・今の私は 貴方と出会ったときの瞳の心でいるの

 

覚悟きめたの

これから先 計画された事態は

もう 私の力では 止められないから

命に代えて

償うつもり 」

と言いかけて 瞳は俺の胸元に大胆に飛び込んできた。

 

俺は 「我慢」という手綱が切れた馬のように

警戒心を捨て

両手で瞳の背中を

何も言わず 抱きしめて引き寄せた。

瞳の胸の鼓動が寄せた胸から胸へと伝わり

俺の命の炎を 焚きつける

俺は成り行きに身を任せるように目を閉じて

瞳の体温だけを受け止めた

 

過去という隔たりが消えるまで

抱きしめ続けた

薄目を開けると瞳の白いはずの右腕と俺の右腕が

区別ができないくらい

赤く染まっている。

頂点を残して水平線のかなたに姿を隠してしまった太陽と

その周囲を紫色に染めた大空

時折ひんやりした海風が重なった二人の体の僅かな隙間を吹き向ける

 

 

指先に触れた、瞳の背筋はしっかりと真っ直ぐに大切なもの全てのを支えていて

繊細でしなやかな手首とは対照的に彼女の生き方を示していた。

許されるなら永遠にこうして抱きしめていたい

瞳との隙間を少し広げるて、風で目元が隠れた前髪を掻き分けてあげると

指先にが触れて路面に飛び散る。

やがて 瞳は俺から離れて

跨ったバイクの向きを また左足を軸に360度回転させて

アクセルを吹かし急発進した。

 

 

 

後を追うことに

   迷いはなかった

     どんなに辛い運命が待ち構えていたとしても

              今 この女を追わなければ

俺は

これからさき生きる意味を失う気がした。

どうして こんなことになってしまったんだろう...

 

平凡な夏休みを選ぶチャンスはいくらでもあったのに・・・

 

後を追うというよりは、

彼女がアスファルトに指紋のように描いた

見えないタイヤのラインをイメージして

 俺の頭の中で蛍灯として描く

  出会いの時のように闇のなかで

儚くも

狂おしく輝いて見える。

そういえば、この二三日 俺はろくに寝ていない

心も

         体も 

   あぁー

          大分バランスを崩しているはずだ。

俺は マジ大丈夫じゃない  

しかし・・・

それが、どんなに

混沌とした世界にはまり込ん行く

警告だとしても

おそらく俺の人生の中で一番

 夢中で突っ走しっている

掛け替えの無い

瞬間だと想えた

 

紫に照らし出されたガードーレールが猛スピードで後ろに飛ばされていく

今 俺は彼女と同じスピードで

同じ目的地に向かって

夕風を切っているのかっ  と想うと

後姿が 妙に懐かしく感じる

それは

地下街のローさでの「出会いの広場」までの競争で競り負けて

俺を追い越していった  を

どきどきしながら追いかけた あの時の後姿だ。

瞳 っ 辛いだろ

一人にして ごめん

皆 俺の意気地なしのせいさぁ

今・・・

欲しいのは

明日の命など考えない

無謀な勇気

 

しばらくして、反対車線から革ジャン姿のバイク集団が すれ違いおうとしていた。

先頭を走っているリーダーが、俺達に向かってピースサインで敬礼する。

すると後続のバイカー達も一斉にピースサインを投げかける。

すると 先頭を走っていた瞳が大きく右手を上げて

空に向かって人差し指で小さな円のサインを描く

すかさずバイク集団は瞳のサインどおりにUターンして俺のバイクの後方についた。

バックミラーで確認するとヘルメットから長髪がはみ出して風に舞い上がらせている

呼び戻された鮮明な記憶

真由美を拉致したあの時のバイク集団だ

瞳が言ったように事態は単なる失踪事件だけに収まらない様相を呈してきた。

 

単調な道のりの景色が徐々に林道へと姿を変えていく

やがて曲がりくねった道路左側に「海辺の森 キャンプ場」の木製の看板が見えて

緑の匂いがする「海辺の森」オートキャンプ場に瞳は突き進んでいった。

 

耳元を覆いたくなるようなバイク集団の騒音が風に乗って拡散する

それに怯む様子もなく、金髪のウィッグを付け直した瞳は

目的地に付くと手早く指示してバイク集団を空き地の一角に整列させて

集団催眠に掛かったスキップビートのメンバーの威厳あるライダーの頭を演じ始めた。

 

「お前ら 此処で暫く 休憩に入る

この場所を離れず ジュースでも飲んで休んでいなっ

 

、瞳のウィッグが取れそうな勢いで浜風が俺達を吹き抜けて

瞳は頭を押さえた

俺は 両手で瞳のウィッグが飛ばないよう瞳を包みこんだ。

瞳は震えていた

肌から肌へその気持ちは伝わり

瞳が愛しく想えた。

またこれからどうすればいいのか まったくわからなくなった。

深く息を吸って空に輝きだした星を見上げた時

ポケットの中で着信音が唸り

同時に瞳の着信音も鳴り出した

二人は メールを読むために肌を離した。

 

 

『武 すまないが

俺は 少し考えが変えることにしたよ

お前にとって もしかすると今夜が 輝いてる青春の最後になるかもしれないから???


お前に 人間としての情けを あげる事にした

お前が救いたがつていた真由美と瞳に そのキャンプ村でお前は逢う事が出来るはずだ

ただ真由美は お前のことが好きになった あの日の真由美でわないことを忠告しておく

お前が どちらを選ぶかによって

俺がお前のに 姿を現す時間を決める事にした

お前にとっても

この俺にとっても 

時間大切なものだ

そうだろ武

だがな       武

・・・言いたくはないが お前は瞳と出会う前は

母親のことが原因で籠もりきりになり

学校もでられなかったことがあるそうじゃないか

よく考えてみろ瞳のお陰で 苦しくても誇らしい青春を生きてるのと違うか

 

つまり少しだけ自分の生き様を考える

余裕をあたえてやる

しかし それは絶望の戦いの前の 引き伸ばしでも有るかもなっ?

その時間を何に使うかは お前のものだ

せいぜい苦しんで決めろ 

余計なお世話だが 「後悔」だけはするなよ

俺は もしかするとこのまま現れずに

瞳と真由美を引き渡すかもしれないよ

・・・・・・冗談だが

そうそう

俺が会われるまで間

そのキャンプ場の案内役は

真由美に任せておいたからなっ」

横に居た瞳も同時にこのメールをCCで受けている様子だ

「何だって 真由美がここに居る?

そう思ってもう一度回りを見返すと

スキップビートのメンバーの中から真由美が一人抜き出て

俺に近づいてきた。

「武君

ようこそ 

海辺の森 キャンプ場へ」

「ま 真由美じゃないかっ

そこにいたのか 気がつかなかったよ

大丈夫なのか?

どうして そんな族の服を着ているんだ?」

「族?

何言ってるの 武君

知らなかったの

私たちスキップビートは昔からダンスだけじゃなくて

バイクツーリングの仲間でもあるのよ」

「そうかっ

でも洋子に拉致された時は あんなにレッドスネークの暴走族として

明菜たちを怖がっていたじゃないか」

 

「?? 何の話し

私が拉致されたつて」

「マジで!!

この四日間のことおぼえてないのか?」

 

「それが 私 困っちゃってるの

へんな病気掛かったみたいに

どうしても思い出せないだもん・・・

武君にDreamBoxsへの誘いのメール貰ったまでは

はっきり記憶があるけど・・・

その後は・・・まるっきり駄目なんだもん

気が付いたら布団の中で居たの

それで・・・ カレンダーと腕時計の日付を照合したら

四日間あっというまに 経過してたって判っちゃった

あぁ なんか

変な夢を見てずーと寝てたって気分

夢の内容は 全然思い出せないし

思い出そうとするとイライラするの

判ってくれる

武君っ」

 

「えっ

 

それじゃ

 

二人では入った喫茶店でアイスパフェとクリームソーダーを店員白い目を気にしながら

注文して瞳の消息話したことも

 

DreamBoxSでの轟との初乱闘に立ち会ったとも

 

俺の右手を黙って握り締め続けて

病院で添い寝してくれたことも

 

ふ    二人だ コンビニの窓から   夜明けの空を見たことも

 

地獄の坂道競争の後

一日だけの恋人契約を延長して

告白してくれたことも

 

・・・・

 

 

頼む

もう俺を これ以上

 

 

 

喋らせないでくれ

 

いっそ

口を引き裂いてくれ

 

・・・・・・・・

 

「武君 

どうして

訳のわからない事言って

泣いているの?」

「うるせっー」

「おかしいよ 武

これから皆でキャンプファイヤーやるの

武君も 準備手伝って」

「何

お前を 命がけで助けに来たのに

できるかそんなこと

・・・・

あぁ死にてえよ

 

 

どうせ俺は アルチュウの母親に育てられた

切れたら何するかわからない引籠り男だからな

そんな洒落たことできないよ

ほっといてくれ」

 

もう 何かも いやになった」

 

もうこれ以上真由美の側にいるとは 耐えられなかった

真由美の少しかん高い声が

まるでナイフのように鋭い衝撃波となって

傷だらけで赤く腫上った俺の感情の襞

また突き刺して容赦なく痛めつける

 

俺は ふらふらと泥濘を歩くような足取りで

暗い林道の中へ逃げた

木々の僅かな隙間を見つけると

腹部をライフルで撃たれた兵士のように

体をくの字に曲げ

砂地に顔を擦り付けて倒れ

それから腹ばいになって

目を閉じた

第10話 事件の黒幕 へ続く

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(2013年12月8日 日曜日)

目的地に勇んで着いた武の元に

轟からのこれからの展開が全く読めなくなるメールが届く

 

 

 ここまで読んでくれてありがとう・★

それでは・・・

読んでくれた貴方に、ときめきの小さな灯りが、悪戯な風に惑わされて、消えないように願っています・・・続く

Hiko・★