第4話 衝突

やがてステージでは 愛華とその友達の手話ソングが終わり

愛華だけステージ中央に残ってMCを続け次の出番の亜美をコールした。

 

「あっ

出番みたい

そんじゃー 私頑張ってくるから

洋子も いろいろと頑張るのょ」

 

と亜美は逆に私を励まして、さっきまでの姿が嘘のように

確りした足取りで凛々しくステージ中央に向かった。

私は亜美の励ましの言葉で何かふっきれて思いがして

武に対して、いちかばちかの賭けをすることにした。

それは

恥ずかしいけど...

ステージ衣装をキュウティーハニー的な胸元チラ見えのコスプレに変えることにした。

目的はギリ胸元近くの付けたホクロを取ることにしたの

つけホクロは 全裸になった時の洋子と瞳の違いをつけること

て言うかっ 

この違いを見破れる人って

やっぱり

私の究極のパーソナルスペースを突破して来た人になるはずだから...

武の前でそれは無いけど..

たけるは あの日の私を覚えているだろうか?

 

 

ホクロと洋子の生徒手帳は

 

哲が

勝手に作り上げた洋子という架空の女のための小道具だった。

それをRoseWaterの力を使って玲奈達の生活パターンの細部を盗み取り

洋子と瞳というよく似た女が別々の高校に居ると思い込ませたかったからだ

放課後などの時間を狙ってわざと一年上の玲奈に校門の前で偶然のように

出くわしたりした。

その全てが哲のシナリオで

哲は私が 瞳に戻ることを死ぬほど恐れていた

私の監視役だったは瞳である私に まったく興味を示さなかった

失恋の後遺症を引きずったままの私に

哲は催眠誘導で 洋子 という人格を作り上げ、それに異常なほどの興味をしめした。

 

私は哲から逃れことができない。

それは哲のマインドコントロールの力のせいだけじゃなくて

親友の道子でさえ私の監視役であるという裏切りの事実

クラスメイトの苛めが原因かも・・・

耐えて待つだけの女から

滝から水がより低い場所を求めて流れ落ちるように 夜遊び小町キャラで思いのままに生きれる

そんな奔放な洋子という人格への憧れに変っていったのだと思う。

 

私を 哲から救って欲しい

控え室に帰り、祈るような思い

おじぎすると胸の谷間がはっきり見えるコスプレに着替えた。

 

ステージの様子が判る化粧台の壁の角上に備え付けられたモニターには

愛華とステージで踊っている亜美が映っている、

押しているのか時計ばかり気にしている愛華が

舞台裏のモニターカメラの位置に向かって出番のキューを手でだした。

気合を入れるために、兎のように二三回ジャンプして拳を握り締めてから駆け足でステージに向かう。

 

センターに寄ってくる私をの胸元を 見つめて愛華が

小声で耳元で呟いた。

「貴方 誰 洋子じゃないよね」

脅威の観察力でホクロを付けていない私を 洋子じゃないと見破ってしまった。

どうして 判ったの?

とそんな事有り得ない、と心の中で呟いた。

 

昨日のゲネプロで愛華といっしょに着替えした時に愛華が話したことを咄嗟に思い出した。

聴覚障害者は 音声言語が聞き取れない代わりにビジュアル的にものが健常者より優れている

細かな動作さや その場出来事を全部映像で記憶すると言っていた。

もしかしたら・・・ホクロがないことに気がついたのかもしれない。

なんてことだろう

けど いまさら愛華には真実を打ち明けるわけには行かない

ここは否定して しらばっくれるしかないかも。

それに

ものは 考えよう

一人 私の味方が増えたんだと思うことした。

それほど私は 人間愛に飢えていた。

苦労人の愛華なら、そんな私の立場を語らずして判ってくれる気がする

案の定 強くて優しい愛華はそれから騒ぐこともなくにこやかな顔して

私を洋子として紹介した。

 

間接照明的に散らばっていた七色のスポットライトが

全て赤一色に変り私一人に纏まって降り注いだ。

オーナーのヒロがベースを引き出し、後ろからドラムが鳴り出す。

 

少し勇気をだして後ろを素早く振向くと

なんとそのドラマーは昨日のゲネプロには居なかった滝本君だ

 

なぜ?

秋葉での追っかけ止めて、わたしの為に戻ってきたの??

それ程 私の写真撮りたいのかなぁ?

わかんないけど誰かに呼び寄せられたような気がする。

まさか またお節介やの愛華の仕業??

勇輝君だって 玲奈さんだって きっとそうよ 

そんな一瞬の思いに駆られたまま 心の内を覗き込むようにステージ左袖の愛華を見つめ

アドリブのインスタルメンタルのギター弾くために

右手を派手に振り回してからライトハンドで掻き鳴らした。

 

アンプからギター音が巨大に増幅されて返ってくると

もう私の頭の中は 時空を超えて無心の世界を作って真っ白になる

ただ感じるのは 発散させたいと願う命のエナジー

私にへばり付いた 今 過去も 未来も 全部ぶ飛んでっ

ステージの天井突き抜けて この鎖の街の遥か上空を赤く染めるようにエナジーを燃焼させる。

 


(ここから同時刻の同一場所に武目線で)

目の焦点があっていなような恍惚とした顔

ギターのリフのリズムにあわせて体が揺らし

その長い髪が視界を覆ってはまた

骨盤を官能的にくねらせ髪の間から顔を覗かせる

挑発する卑猥な身のこなしはまるで男をねう野獣だ。


 

 

 

気がつくと私は汗で 前髪が濡れて目元を塞ぎ、魂抜け殻のマネキンように演奏を終えて佇んでいた。

前髪を そっと掻き分けると

たける真由美の姿が 空白の頭の中に進入してきた。

不幸にも耳のいい私は

観客席の最前列にいる二人の会話を聞くことになってしまった。

「たける 洋子の演奏すごかったね

どうしたの 唖然とした顔して」

 

       「    洋子じゃない・・・

 

「えっ 何て言った」

「・・・」

「ね たけるってば

何 無視してるの

今日は 私たち恋人どうしでしょ

 

  

 

二人の会話を聞いた私は 臨界点に達した原子炉のように

身を焦がすジェラシーの熱で理性の格納容器の壁をメトルダウンさせてしまった。 

ギターを肩から外してハンマー投げのように、ネックを軸にして回転させ

思いっきり床に叩き付けた。

観客のどよめきの声の中 私はたどり着く目的地を失い

それでもステージ右端まで千鳥足でどうにか歩いて

袖に入る一歩手前で意識を失った

 


(ここから また武目線で)

これぞ男の本能のなせる業なのか

俺は人目も憚らずステージよじ登って

倒れている洋子 いや 瞳を抱きかかえようした。

その 瞬間

この世のものとは思えない強靭な力で俺は 

瞳から引き離されて2メートルもの後方に吹き飛ばされた。

一体何がおこったのか

仰天の衝撃から立ち直り状況を確認しようとした。

すると

瞳を 覆い隠すように

犀のようにいかつい体格の大男が

ステージの照明から外れて薄暗くなった袖付近で

俺と瞳の間に立ちはだかっていた。

男は 

その闇の空間で 後悔も失意も通り越した

まさに絶望というオーラを漂わせて

威嚇する目つきで俺の方を睨んだ。

 

「この女に 近づくな」

 

「誰だ お前」

 

「二度同じことを言わせるなっ」

 

男の言葉を無視して近づこうとすると、男は俺の左手を鷲掴みにして

親指の付け根を万力のような握力で捻って顔を近づけ

「初めっから お前の負けだ」

ボキーっと 鈍くて嫌な音がして、激痛が手から走った

 

「痛っ  指が 指が 折れる

ぱか野郎ー   

離せよー」

 

俺の親指が見ている間に根元から引き裂かれそうになっている。

咄嗟に

足で男の腹を蹴りつけたが、腹筋の壁厚く、少し体が揺れただけで

手は握られたままだ。

右手で肘打ちを男の顔面めがけて食らわしたら

顔を仰け反らせて

やっと左手を 離した。

 

観客席から見た この様子は男が

ただ俺の手を握っているだけで

俺が男に対して突然 暴力を振るっているように見えたらしい。

俺に 怒号が浴びられた。

 

「おー 降りれよ

そんなとこでもめてんじゃねよ

ショーの邪魔すんなよ」

 

手の激痛と観客の野次の惨めさで

俺は客席に向かって叫んだ

「何だとーっ

暴力ふるったのは奴が

先だー」

 

と握りつぶされて青く変色左手の親指を客席に向けた

 

「二人とも やめて ー

轟(とどろき)君

彼は 私の友達よ」

 

事態をまじかで静観していた愛華が飛んできて

男を俺から離した。

 

「武君 大丈夫

轟君は このショーの警備係のバイトよ

私もよくわからないけど

洋子の紹介で?

今日来てもらってるの」

 

愛華は男を全身を使って跳ね除けて

ステージから引き摺り下ろそうとした。

男は女には力ずくの行動がとれないらしくて

別人のように愛華の要求を応諾して引き下がった。

戻ってきた愛華は俺の耳元まで口を寄せて小声で

 

彼は不良少年で格闘家よ

だから まともに  

喧嘩しちゃだめっ

洋子のことは 私に任せて

ここは ステージから降りて

お願い」

ここで大人しく愛華の言うこと聞いて無難にすまそうとすれば

俺は悔しさとプライドの傷で、発狂すると思えたので

一端ステージから降りて、席に戻るふりおした。

 

愛華は失神している瞳を抱き起こして

「洋子 洋子」叫び続ける

瞳の頬を引っ叩て 無理やり覚醒させて

肩に瞳の手をわまして、自分より身長の高い瞳を

小さな体で支えながら引き摺る様に控え室に向かった。

 

俺は その様子を見ながら席に戻ると直ぐ

真由美達が訳を聞く間も与えず

トイレに行くふりして反対側の通路から控え室に突っ走った。

 

控え室のドアには張り紙があり

関係者以外の出入りを禁ずる」と朱書きしてあったが

一瞬立ち止まっただけで直ぐに張り紙を 引き契り

ドアを思いっきり開いて

鼻息荒く中に進入した

途端に

幼きもの心を支離滅裂に傷つけた

憎悪の匂いが鼻を突き刺した。

床を見ると やはりビール缶が転がっている。

 

鏡台の脇に座っていた意識の回復した瞳と愛華が

同時に振向いて

佇む俺の方を見た。

愛華は俺に 何か言おうとしたが

当惑して喋れない様子だ。

補聴器だー

補聴器を 途中できっと落としたんだ。

 

愛華は両手の人指し指を×しるしに交差させたり

拳を作って上下させて 俺に訴えている

何の意味なのか 判らないが 俺を拒否していることは確かだ。

愛華は意志の疎通ができないことに 耐えられず

鏡台の上に散らばっていた口紅で大きな化粧鏡に

泣きそうな顔して

武君  出ていって

と殴り書きした。

俺は この時愛華の優しさの全てを承知して無礼者になるしかなかった。

愛華には 聞こえない言葉を選んだ。

 

 

瞳 

なぜだ」

愛華の必死の拒否手話も無視して 瞳の迫ろうと

俺は愛華を加減を気にしながら押しのけて

瞳の鼻先まで近づいた。

すると服からの瞳の汗とビールの匂いが、まじって奇臭を放ち

俺をさらに苛立たせた。

瞳の目は 濡れて青く光っていた。

 

「そんなことしてまで 演じたいのか?

 

俺なんか どうでもよくなったんだな

二人で約束したものを 放り投げて

酒びたりしたいんだろ

お前 高校生だろ?」

「ビールの匂いは 訳ありなの 

わかって」

「判んないね

いいさ 不良少女に

酒を飲む理由なんていらない

好きにやったらいい」

 

『酷い  武だけは 違うと思ったのに

どうしてわかってくれないの

 

「何 むきになった怒り顔してんだ

愛華を よく見ろよ

耳が悪くなっても

必死で話しかけてこようとするじゃないか

俺が どれだけ心配して

それでもお前からの連絡を待ち続けたか?

判んのか

「私の こと

         誰だと思ってるの   」

「瞳

洋子のふりするのはもうよせ」

「洋子のふりしてる?

そんなの言いがかりよ

ふりなんかしてないわ」

 

「お前 俺のこと

元引き籠もりの問題学生だと思って

ばかにしんだろ

あー 確かに お前から

声かけてくれなかったら 友達も作らず登校拒否していたかもしれない

親のことで クラスメイトの目が気になり

隣の席の男と一言も喋れなかった時期があるんだ。

そん時の俺 マジやばかったんだ。

それが マジ信じらんねー偶然の事故が切っ掛けで

ひとみ・・・と知り合えた

てっ言うか 触れてしまった

どきどきしたぜ

目を瞑っている姿

 女の子の肌の温もり

 

俺の暗黒の学生生活の中では奇跡だんだー

嬉しかったぜ

ローサのデート

あの時から 俺は 初めて高校生らしい気持ちで

毎日を まともに生きれた

友達も作れるようになった。

だから さぁ

許せねんだょ 瞳

お前が人が変ったように俺から逃げまくるのが

いったいどんな理由が あるっていうんだ。」

瞳は吐き出すような口調で答えた。

 

「知らないわ 私は

私は 洋子よ

本となんだから」

「まだ そんな事言うのか

誤魔化そうとしても だめだ

証拠がある

その胸元だ」

「いーゃっ」

と常軌を逸した俺は 胸元を露にしようと手を胸に掛けかけた時

 

愛華の小さな平手が俺の顔にヒットした。

お袋が真ともだったら たぶんこんな顔して叱っただろう

そんな ほろにがい痛さが胸に響いた。

 

今の俺は お袋の酔いどれ姿より醜いことに 気がつかされた。

首を左右に大きく振って自分を取り戻そうとした。

 

 

「ごめん・・

情けないよ

俺 って なんて弱いんだろ

お前が 

瞳でも

洋子でも

どっちでもいいさぁ

話せない・・・訳ありでのことだろ?」

 

「      たける 君 

 

    ありがとう

 

 

 

 

私が 悪いの

私は ほんとは・・・」

 

瞳の言葉を遮るように

ドアが大きな音を立てて開いて

発情期の犀が縄張り争いで激突する勢いで

一直線に武だけを目掛けて

また轟が乱入してきた。

 

「洋子さん それ以上その男と

何も話しちゃだめだ

誓いを 思い出すんだ」

 

 

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第5話 微妙な関係