第12話 洋子登場

(ここから勇輝目線で)

俺の名前は 佐久間勇輝

武達の作ったオレンジエードに加入してもう3ヶ月になる。

道子から誘われた時は 即断った。

バンド組むなんて全然俺の生き方に合わないし、一人で路上ライブやっている方が楽だったから

けど...

美形で成績優秀のなのに親のせいで、「がり勉小町なんて呼ばれる過去の噂が蔓延するお陰で

親父さんを恐れて男子は誰も寄り付かない瞳と とっぽくて内気な感じの武が 噂のことなんか全然気にせず交際を続ける姿には

マジ 興味があった。

というのも、俺の家庭は 

母親は体が弱くて、病院の入退院を繰り返して不在のことが多く

父親は短気で意見が合わないと直ぐ手を出す男で

そんな家庭にいやけがさして

反発して何度と無く家出を繰り返し、補導された。

家出少年というレッテルを貼られた俺は 世の中が面白くなくなり

悪の道に 染まりかかったこともあったが

母親がそのたびに俺に言った

『ユウー 人ほど同じようで差のある生き物は ないんだよ

同じ夜空を見ても そこから物語を作る人もいれば

下を向いて石ころを蹴っ飛ばす人もいる

自分の気持ちを大切にしなさい

そしてその気持ちをわかってくれる人を それ以上に大切にしなさい』

自分の居場所を探していた俺は 路上で自分の作った歌を 歌うようになってから

たった一人足を止めて最後まで俺の歌を聴いてくれた玲奈と交際するようになり

家出を 止めた。

だから・・・

玲奈と俺の関係が 孤独な者どうしの武と瞳の関係とダブり

一人っ子の俺が なぜか弟のように武のことが気になって 俺は『オレンジ゜エイド』に入った。

そんな気持ちを 武に明かすことは 絶対に無いけど

玲奈が親父さんの仕事の都合で 大阪に転勤になり社宅に住んでいた玲奈も大阪にいく事になってしまった。

玲奈は卒業なので俺の為に 一人新潟に残って仕事を探すと言い張ったが

まだ高2俺は 玲奈を守れる自信がなかった。

結局 無難な遠距離交際という方法を俺は 選んでしまったが...

 

荒れた生活を過ごし

家出を繰り返し同級生とささいなことで直ぐ喧嘩した俺が 

『この時 ほど自分に生きる力がないこと』 が悔しくてしかたなかった。

別れの朝 人けの少ない紫色に染まったプラットホームで玲奈は春風に長い髪をなびかせその表情を隠していた。

 

「着いたら 必ず連絡しろよ」

「・・ うん」

「レイナ なんだよ その顔・・・」

玲奈は両手でまるで祈るように俺の左手を握り締めて

「ねっ ユウー 私と離れても 諦めないで

歌作り 続けて・・・」

「心配するな レイナの歌作って送ってやるから

じゃ また・・・」

 

抱きしめると一つ年上の玲奈が 幼子のように大声で泣き始めた。

俺の胸板を幾度と無く叩いて首を振り 「別れたくない」のポーズをした。

涙が そのたびに飛び散って熱くなった胸に解ける。

列車に乗り込もうとした乗客が 振り返り俺達に視線を向けた。


(ここから武目線で)

待ち望んでいた春休みが、カゲロウの短さ思わせるように終わり

二人とも新高校2年の自覚とともに初々しい気持ちで勉強に交際に過ごす毎日だった。

芽生えた恋心は、いつの間にかバンド活動スケジュールの中に飲み込まれていった。

それが二人にとって幸せの頂点だと気づかないまま 優しい時間は流れ

 

やがて、

白い半袖を眩しい日の光りが照り付ける季節になり

  カレンダーには夏休みの計画が書き込まれていた。

 

そんなある日の夕暮れ時・・すべてが茜色からモノトーンに変わろうとしていた薄暗い日差しの中で

俺は下校するのが、少し遅くなり

近道を選んでバイト先に向かって、自転車を走らせていた。

カトリック教会が脇にある、急な下り坂のヘアピンカーブ

曲がりきって、視界が安心を誘ったその瞬間

運命の衝突

 

わぁー

      ああっ

 

 

目の前の道路に、 ひらひらと紙きれがそよ風に舞い上がって

 

俺は 衝突避けるために急ブレーキを掛けたが、遠心力を抑えきれず

歩道に乗り上げて、

道路わきの柳の木に

体の何処かをぶつけたような鈍い音がして

自転車ごと横転した。

 

「OhーMy God・・・」

 

景色が90度傾斜した。


柔道を少しだけ習ったことがあるので、受身をして転び

頭は強く打たなかったはずだ?

でも自信が無い

急に 数秒?

意識が遠のく

 

 

 

 

自転車の車輪が空回りするが 耳に強調して

まるで目覚まし時計のように

侵入し

さっき見た紙きれの一枚が舞い戻って

俺の目の前にふわふわと渦巻きながら落ちた。

先ほど彼女が、目の色を変えて追っていた。

その紙を拾いもせず踏みつけて

俺の前で、ひざまずいて・祈るように腰をまげ顔を近ずけた。

声を震わせて

「ごめんなさい

だいじょうぶ・・・ですか?」

「瞳・・どうして・・こんな所にいるんだ!」

「me?

No No My name is Youko.」

よく顔みると

瞳に似ているが、その雰囲気は

別人格の女だと 野性の本能が悟らせた。

それに、よく見ると胸に付けているバッチは

玲奈の高校のものだ。


これが、アメリカからの帰国子女の洋子との衝撃の出会いだった。

 

「ごめんなさい、・・ほんとに ごめんなさい 怪我は有りませんか?」

「  怪我は足を少し擦りむいたぐらいで 今のところ他は無いみたい

自転車も壊れなかったみたい

それにしてもびっくりしたよ

行き成り飛び出して来るんだから・・・

気お付けてくれよなーぁっ

いったい何を追って、道路に飛び出したんだい?」

 

「譜面です・・すいません立ち読みしてたら

風で飛んじゃって、作りかけの曲だったので

夢中になってしまって・・あー・・それと

ごめんなさい

私・・興奮すると つい 英語で話しちゃって」

 

「曲作ってたんだ !!

 

『運命の皮肉 興味あることまで瞳と同じだ』

作り出すと、何もかも忘れて・・夢中になる



「痛いほど判るよ・・その気持

 

・・俺もそうだから」

 

腕時計みると、バイトの時間15分前だ。

俺は、平静を装ってあまりにも瞳に似すぎたこの少女に

その動揺を気づかれないように

事故に遭遇した場合のマニュアル通りのような言葉を並べ立てようとした。

 

「もうバイトの時間なんで、今日はこれでいいから

なんかあった場合の君の連絡先、教えてもらえないか?

俺の名前は早川武といいます。 」

 

「all right あー、ごめん、わかりました。

今度は、ちゃんと・・日本語で

洋子といいます。それで・・連絡さきは・・ えーとー」

 

洋子は携帯を取り出して、連絡先を教えようとて自局番号表示画面を俺の顔先に突きつけた。

俺は自分の携帯に、なぜか急いで打ち込み、

確認の為にその場で、打ち込んだナンバーでコールすると、洋子のケイタイがけたたましく鳴り響いた。

 

滲み出た額の汗を手で拭って

一息付くと、安心したのか? さっきのすり傷が 急に痛み出した。

改めて、あまりにも瞳に似ている洋子の顔を穴が開くほど見つめながら佇んだ。

「私の顔に 何か着いていますか??」

「連絡先はわかったけど・・・あのー 悪用しないから写メ一枚いいですか?

実は 俺の知っている人に 君がそっくりなのもで」

「・・・ほんとに?

もしかして・・・あ・・・

いいですよ 撮って」

洋子を写メする時に 事故の後のせいなのか緊張して手が震えた。 

 

バス亭に洋子の隣りで並んで待っていた男が 様子を見て突然、慌てて駆け寄ってきた。

「洋子・・何しているの?」

洋子は 親しそうにアイコンタクトをその男に送った。

バス亭の木陰に隠れて顔がよくわからなかったが、

近づいたその男は なんと加藤だった。

奴は 瞳との運命に複雑に絡んでいるように思えてならない

そして 今度もこの洋子という女との出会いに絡んできた。

瞳と一緒に居た時出合った様子と違って

草むらに、身分証明書を落としたような顔つきで哲は話し掛けた。

(哲)

「武君じゃないかっ

また 予期せぬ出会いになってしまったね」

(洋子) 日疎費ひ

「哲とは 友達なの?」

「そんな仲じゃないけど...

面識は あるよ

君と哲君とは どういう関係?」

 

「あー boyfriendかなぁー。

私がアメリカから日本に帰国したばかりの時から

日本のこと右も左もわからない・・そんな、ぎこちない私のことを 彼が黙って見てられなかったのか?

一つ一つ親切にいろいろと・・教えてもらい面倒みてくれたの! 」


彼が話すその瞬間も 自然に洋子は哲と手を絡めていた。

俺は、彼の中で薄紅色に頬を染めた洋子の可憐で純心な仕草に、これ以上二人の関係に詮索を入れることを躊躇った。

「やっぱー急ぐから

体は なんでもないから気にしなくていいよ」

俺は、少し痛い左足をかばいながら、ペダルを回してバイト先へ向かった。

第13話 異変


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