第11話 スキップビートとの合同練習

 


 

(瞳の視点で)

軽音楽部の窓ガラスが冷たさでぼやける日々が続いても

バイトで武が欠席する日も

勇輝が代わってベースをやりスキップビートとの合同練習は続けられ 私は 休まなかった。

練習メニューは まずスキップビートが男子を部室の外に放り出して着替え終わるとまた呼び込んだ。

4人はダブダブのジャージ姿でまとまっていたが

明菜は少し大きめの黒いキャップを被り 真由美は髪をポニーに纏め

登美子と瑠奈は髪を縛らず、踊りだすと顔が髪で覆いかぶさった。

 
直接 本踊りの練習を始めるのではなく、底広台形に並びCDからラップを流しながら、

単純な足のサイドステップと体全体の上下のリズムトレーニングを5分間続けアップしていく

私達は 何もすることなく黙って肌寒い部室の中で待っていなければならなかったけれど..

明菜がアップの途中で私の顔を見て 

その寒さに気づき、親指を立てて「いっしょに踊れ」の合図をしてくれたので、慌てて5人は参入た。

練習が終わってから 明菜が道子に相談を事をもちかけた。

(明菜)

「ねー部長 インストたけだと何か 暖かくないだよね

もう冬が近いし見るだけじゃ寒くて・・・

参加した皆がステップだけでも踊れるクリスマスソングの生歌入れない?」

(道子)

「悪くないけど・・ 適当なクリスマスソングある?

マライア・キャリーぐらいしかわかんない

でも 難しいで ・・・たぶん・・・瞳 歌ってみる??」

(瞳)

「あんまり聞かないんで ・・・ごめんなさい」

(道子)

「ほらねっ 

(真由美)

「横から口出し手悪いけど..

JUDY AND MARY の『クリスマス』なんか どう?」

(瞳)

「?    知らないょ そんな曲」

(真由美)

「そうかもね・・・私も8歳年上の姉貴から貰ったCDだから

じゃー まずJUDY AND MARY の『小さい頃から』聞いてみたら

ギターめっちゃ カッコイイよ

それに 歌詞が 微妙に深くて お勧めなんだけど...

きっと 瞳は この曲好きになる気がするー

そしたら 

へへー 納得して「クリスマス」歌う気になるかも・・・」

 

そう言って前から、明菜と相談して心に決めていたらしい用意してきたCDを 私に貸した。

翌日の練習の時に 私は目を赤くしてまで聞き込んだCDを真由美に返し

 

(瞳)

「真由美 っ 『小さな頃から』聞いたよー

夢みがちでちっと孤独な女の子の歌ね」

(真由美)

「やっぱり 共感してくれた。

夢に傷ついた少女が 転機で 立ち上がる歌

瞳のこと歌ってるみたいじゃない?」

(瞳)

「えー そんなふうに 見えちゃうの? 私」

(真由美)

「あっ ごめん 言い過ぎたかなぁ

.私 まだ瞳のこと何にも知らないのにね...私って ・・・いつもこんな風に

独りよがりで先走るの...」

真由美は焦った様子で 言葉を濁した。

 

「真由美 大丈夫よ

私って そんなに 繊細じゃないから 結構いいかげんなBタイプのABなの」

 

「わーぁ 私もABなの」

 

「マジ 〜」

 

私と真由美は練習の時意外でも好きなCDを交換するようになった。

真由美は武より上手にマイケルのムーンウォークの歩き方を私に 伝授してくれて

私は 真由美が立てノリのヒップホップの動きをしている時に

踊りの最中に近づいてふざけた、お茶目な顔してムーンウォークした。

反対に、私がギターの練習している時には、真由美が近づいて

マジ顔のエアーギターで、私を笑わせた。

 

やがて、二人はケイタイのアドレスを教えあい

日々変化していくお互いの肉体と心の成長のギャプを埋めようになっていった

 

すべてがクリスマスパーティーに向けて順調に進んでいくかのように思えた。

私は女子高校生の特権みたいな 自由で現実の痛さを忘れるような

夢中で一つのことに集中できるそんな時間を

たけるや真由美達と共有していた。

気持ちも 体も もしかしたらゆるんでいたのかもしれない。

 

『勇輝君って ギターうまいなぁー

なんか とんがった感じで 最初怖かったけど

いっしょに練習していると そんな印象ぶっ飛んじゃう

勇輝君の彼女って どんな感じの子なのかなぁ〜

たけるが 子供っぽく見えたりする

私 こんなこと考えたりするの


変かなー

そんなこと ないゃー 興味もって当然だと思うけど..??


滝本君から 写真撮られるの 最初はずかしかったけど

今 撮られないと なんか寂しくなってしまう

オシャレしなきゃて 思ったりして・・・』

 

私は もう冬なるのに初夏の海辺で 麗らかな南風を 頬に感じるような

はずんだ気持ちで 練習していた。

けど それはクリスマスパーティーの1週間前になって急変してしまった。

それは勉強が終わってからも練習したり別の曲を歌ったりして

夢中になりすぎて、私は睡眠時間が3から4時間と言う日が めずらしくないくらいの日々が続いた。

自分は丈夫で風邪などひかないほうだと疑心暗鬼していたのが ヤバかったのかもしれない

朝起きて、ペットボトルのお茶を 飲んだ時 喉に激痛が走った。

あわてておでこに手をあてると、やっばり熱がある。

『わー どうしょう マジヤバー』

その日いつもの通りに、練習曲を歌おうとしたが声が掠れてうまく歌えない

私の異変に気がついた道子とタケルがすぐ側に寄ってきて

(道子)

「どうしたの?」

「大丈夫 ちっと 歌詞忘れそうになってただけ・・・」

と誤魔化したが

歌い続けると、咳き込んで声が 裏返る

(武)

「瞳 無理するなよ 少し休んでからにしたら? 」

「大丈夫 何でもないよ」

私は 意地をはって歌い続けようとしたが、咳き込んだせいで、熱が頭に上り

足元がふらついて、寝起き直前のように平衡感覚が揺らぎはじめた。

また咳きが込み上げて、とうとう膝を床につけて歌の途中でうずくまってしまった。

真由美が椅子を持って駆け寄り

「瞳 休まなきゃだめじゃないー」と私を椅子に座らせた。

武は私のおでこに手を当てて

「瞳 これは風邪だよ 熱がだいぶある

あんなに練習して 直前になって無理する気持ちは わかるけど...

今日は 見学にして早く家に帰って寝たらいいよ」

結局 その後の練習はギターは勇輝君が弾いて

ボーカルはスキップビートの中では一番の歌好きの真由美が代役を勤めた。

真由美はスキップビートの他の連中とカラオケで遊んでいるらしく

慣れた感じでその代役を務めた。

その日は直ぐに家に帰って寝て、焦る気持ちを抑えて勇気をだして練習を三日間休んだ

その間パティーの一週間前に行われる期末試験の勉強の準備をして無理やりバンドのことは忘れるようにした。

けどやっぱり気になる...

真夜中に真由美にケイタイして皆の練習が上手くいってるか? 確認したりした。

見えない真由美にケイタイに向かって何度も頭を下げ

「ごめん」の連発

私の高校生活の中で 勉強よりいつの間にか武や新しい友達のことが上位になってしまったことが

なんだか 不思議と当たり前のような気がしてその変化が嬉しくなったりもした。

期末試験が始まり武達の練習も中止されて

試験あけのバンド練習再開の時には 私の風邪も治っていた。

久しぶりの練習のせいか 武達の様子も 変化したように感じる

武はベースを弾く前に 勇輝君から教わったのか?

ギターのペンタトニックスケール弾いて指慣らしをするようになっていた。

アドリブで勇輝君と絡んでチョーキングヴィブラートやピッキング・ハーモニックスを決めている。

真由美が 武の様子を見て微笑んでいる。

「タケル すごいね 」

「瞳やってる?

スケール弾きすると ギターが体に吸付く感じになるんだぁ

そんな感じしない?」

「うーん そんな感じね」

と その時

練習の途中で、私よりも髪の長い女子が入ってきて勇輝君と目でコンタクトをとった。

全員が この乱入にびっくりして練習を止めて振り返ったが

勇輝君が慌てて 紹介した。

「あの 皆に言ってなかったけど...

俺と付き合ってる玲奈です 

今日 見学に連れてきたんだ。 ・・・ よろしく」

「突然 驚かして ごめん 玲奈でーす。」

そう一言 顔を軽く20度ぐらい左に傾けて会釈しながら自己紹介すると

少し恥ずかしそうに勇輝君の側に寄り添った。

「 ユウー またボタン外してる」

と言いながら慣れた手つきで、胸のボタンを1個優しく止めてやった。

二人はそんな親密な関係なのだと見せ付けられた感じた゛。

(道子)

勇輝君 彼女は 内の高校の生徒じゃ ないよねー」

「中央区に新しくできた高校の3年生」

(瞳)

「えっー 高3??」

(勇輝)

「驚くだろ マジ ベビーフェイスなのに来年の春は 卒業しなきゃならないんだ

まあー そんなんで 皆 気にせず練習続けてくれ」

(玲奈)

「ごめん あんた 名前は?」

(瞳)

「飯田瞳といいます どうかしましたか 驚いた顔して」

(玲奈)

「えっ ちっと あまりにも似ているで驚いただけなんだけど...

・・・でもよくあること気にしないで

あっ  私は川崎 玲奈 よろしくね。」

と言って黙り込んでしまった。

この予期せぬ来客に 私は少し緊張したのか?

その後の練習が 上手くいかなくなってきた。

玲奈を観客にみたててイントロとともにスキップビートが 踊り始める。

そして道子の目の合図で声出しに入ろうとしたのだけど..

声が裏返って、音程が外れてしまう

「だめ だめ

瞳 まだ風邪が治ってないしゃないの?」

と道子が しかめ顔で歌を止めた。

2〜3回同じように歌ってみようとしたが、やはりうまくいかない。

真由美が思いつめたように私の側にきて

「今日は 私が歌ってあげるから

瞳は ギター演奏だけにしたら?」

「瞳  お前の思ったとおりにしな

無理したいなら 歌ってもいいし」

と武はぎこちなく微笑んで、心配を隠すように即目線をそらした?。

 

私は その一言で  


なぜか張り詰めていた思いが緩んで   


歌を真由美に譲ってしまった。

 

一歩マイクから後ずさりして真由美をマイクの前に立たせ

背中を見るのを躊躇するようにギターのフレットだけを見つめ

がむしゃらにカッティングした。

私は 噂で孤独になり閉ざされた中三から脱出できる

大切な晴れ舞台の目前で

またトラブってしまう自分の運の悪さが、

悔しくて

悔しくて

しかたなかった。

いつしかギターを弾く左手にも 一筋の涙は 毀れ落ちて心に染み込んでいった。


(武目線で)

玲奈は練習が終わると、真由美に近づき顔見知りの挨拶を交わした。

ひそひそ声だが、俺の距離からはっきり判る会話だ

「真由美、 驚いたよ

私の学校の洋子という子と 瞳がマジで似てるよ」

「へーえ そうなんだ

じゃー 瞳に 教えてあげればいいじゃない?」

「よした方がいいよ

洋子って女、帰国子女でちっと変っていて

男友達しか作らないかったんだって・・・

それが哲という あんたの学校の生徒と付き合ってから

洋子の今までの男友達が 偶然かもしれないけど

瞳みたいに次々と転校させられていったんだって。

なんか ヤバそうだよ」

その会話を 瞳に教えたかったが哲の名前を聞いて、俺はためらった。


(瞳目線で)

 

予想したことだけど私の風邪のせいで、やはり声は直らずパティーに間に合わなかった。

結局 真由美は 歌の曲だけはダンス止めて、ボーカルでセンターに立って歌うことになった。

 

 

スポットライトを浴びて誇らしげに歌う 真由美

けたるが その姿をベースを弾きながら見守っている

気になるけど..

自然な流れで、いやな感じにはなれない

 頑張って欲しい・・・

 

真由美って いつたい どんな女の子なんだろう ??

私の閉ざされた心に入り込んで あっという間に 私のベストフレンドになってまったけれど..

スキップビートでは 踊りが特別うまい方じゃない と゛ちかっというと時々振りを間違えたりして

おちゃめに笑う 普通の女の子

そういば期末テストの時 数学の教科書の練習問題を 私にケイタイで質問してきたっけ

理数系がにがてみたい。

仲のいい兄貴いて、槍投げの選手でインターハイで上位の成績を残しているらしい 

その兄貴が密かに見ていたグラビアアイドルの写真誌の捨てた古いものを

驚く事に 

内緒でゴミ箱から抜いて、武達にバンド練習の休憩の時に渡していた。

龍馬は「自分に気があるのかと?」勘違いして言い寄ったたら

あっさり

「貴方みたいなオタク写真マニアは 私のタイプじゃない」と断っていた。

まったく普段大人しいのに、時々マジで以外な行動する変な子の側面も持ち合わせている

でも 悪気が全然なくて許せる

不思議なキャラの持ち主だと私は思う

 

 

 

 

やがてインストのJUMPの曲時間となり

真由美が明け渡した センターに立ち

私は 後ろでギターボリュームをフル近くこにあげ演奏を始めた。

 

会場全体も

 

私の頭の中も

 

ギター音が鳴り響き、

痞えていたストレスが頭の先から噴水のように吹き飛んでいく爽快感に酔いしれた。

 

その時

チョーキングした一番細い1弦が突然 

プッツリと微かな音をたてて目の前で切れた。

私は曲のラストまであと少しだつたので、

ヒップホップを踊るようにステップして

 体をリズムに乗せて首を大きく振り 

決めのポーズで 

ハイジャンプした。

わざと目立つパフォーマンスをしたわけじゃない ??と思う。

焦ってほとんど無意識そうしたのだ。

マイクスタンドより体半分の高さまでジャンプしたので、側にいた たけるも 勇輝君も

私の方を ビックリして振向き

ノリでジャンプしたと思ったのか?

また自分達の演奏を続けた。

着地した数秒後で、演奏は運良く終わることができたので、

見に来ていた生徒達にはギターの弦が切れたトラブルに気づかれずに済んだ。

 

 

幸せの時間は 今がその時だと気づかずに 駆け足で過ぎ去るもの

パティーは 真由美のお陰で無事に終わり。

歌は歌えなかったくやしさは 残ったけど

ギターは思いっ切り弾けて充実感を味わい

『ギターは武からもらった大事な私の気持ちを表現できるアイテム』

だと感じるようになっていった。

私は いろいろあったけどその後もよりいっそうギター演奏に専念した。

 

この時から きっとこのバンドの運命は真由美中心に回りだしたのかもしれない??

私よりキーが高くて歯切れのいい発音で歌うことのできる真由美は

スキップビートの練習が終わってから 時々私達のバンドに遊びにくるようになった。

私もそれが いつの間にか自然にあたりまえだのことだと思うようになっていた。

 

 

昼休みの廊下の窓から見える景色は暖かな日差しで根雪も消え去っていた。 

校庭の木々が花の蕾を芽吹く準備するように

ケタルも私も 春休み直前で高校2年生として新学期を迎える心の準備していたが...

勇輝君だけ一人 バンド練習にも身が入らない様子

浮かない顔で、ギターのカッティングも走りがち・・

『勇輝君 いったいどうしちゃったんだろう?

そういえば 最近 見学に来ていた玲奈が顔みせなくなった

もしかして・・

二人の仲が 上手くいってないのかなぁ?』

 

第12話 洋子登場

 

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