第10話 勇輝のバンド加入

滝やんこと「滝本 龍馬」は 彼ほど名前とその行動に違和感を受ける奴はいないと俺は思っている。

軟派でジャンルを超えた幅広い映画、音楽メディアの収集家というか・・・要するにオタクなのだ、

なかでも美少女系の写真収集は 彼が今一番熱中していることだった。

なんでも日曜日に一眼とハンディービデオカメラ携えて古街モールの歩行天を歩き、

好みの美少女を見つけると、所かまわず、頭を下げて

「写真一枚撮らせて下さい」と言い寄る。

OKを貰って気を良くすると、驚く事に調子に乗って

「Tou Tubeにのせたいのでビデオカメラに向かって 猫か 犬の鳴きまねしてくれませんか?」

とか、いきなり路上パフォーマンスを迫り、結局 大抵の女の子は 引いて逃げてしまう。

その勇気が あれば彼女など即できそうなのだが、運命は写真収集の方を手助けした。

彼が写真の話しをし出すと 止まらなくなる。

先日もバンド練習の帰りに こんな話しをした。

 

「たけ 写真って 不思議だよなぁ〜

街角で撮らせて貰った初対面の少女の写真みていると、なぜかその子の性格とか

人柄まで、わかってしまう気がする。

撮ってから じっくり話す事ができると、決まって直感で感じた性格とぴったり一致してるんだ。」

俺は 話しがながくなるのが嫌だったから、適当な思いつきのデタラメ話して切り抜けた。

「それは写真のせいじゃなくて お前が年頃だからさ。

ファインダー覗く距離に 生身の女の体から発散するDNAの見えない信号を お前のDANが本能で瞬時に解読してるからさぁ」

「なるほど・・・そうだったのか〜」

このデタラメ話しを 真顔で納得してる龍馬が なんか可笑しいくて、心配になる。

 

その龍馬は オレンジエードではドラムを担当することになり、リズムが走り出すと

道子から 

「今度 リズム走ったら ぶっ飛ばすよ

慌てず 足から先リズムボックスで練習しろー」

と怒られていたが

「はい はい」

笑顔で答え、休憩になると瞳ばかり撮っていた。

女子の本性とは不思議なもので、撮られると

「DNAを揺さぶるような、それらしい表情」?   

を自然に作ってしまうものなのだろうか。

瞳は オレンジエードの練習の回数を重ねるたびに 美少女系の健康的なその表情をするようになった。

俺は 瞳がそうして変っていく姿を見るのが嬉しかったが、

道子だけは 滝やんが、瞳の写真を撮るたびに機嫌が悪くなり頬を膨らましてソッポを向いたり、ドラムのリズムを注意したりしていた。

 

瞳と俺の仲は オレンジーエードのバンド活動が中心の毎日なっていった。

そのことは、二人の関係が上っ面の浅いものから、時には練習のことで意見をかわし、不機嫌になるまでの深いものになった。

野の花のように、いろんな表情を見せる瞳

道子の提案で、バンドの練習の時には天井窓側の床に大きな立て鏡を備え付

自分達が プレイする姿を映し出して自意識を高めるようにした。

そんな事に 影響されるまでもなく、瞳はずば抜けてギターに熱中していく。

俺も 気がつくと鏡に写し出された姿に瞳がいっしょにいる時間が 自然体となった。


龍馬は相変わらず道子に睨みつけられながらも、ドラム練習より瞳の写真ばかり熱中して撮っていた。

ある日 珍しく龍馬の家に 遊びに行った時、龍馬の個室に案内された。

壁に張り出された数々の美少女系写真の中央に他の写真りよプリントサイズを拡張させて瞳の写真を発見。

「武 お前 瞳ちゃんの写真って いくら仲よくても照れてなかなか撮れないだろう?

このナイスショット 全部お前にやるよ 保存版にしておけよ」

そう言って渡された写真には 

 

『瞳が、俺に向かって おやつの飴玉を投げつけるシーン』

『ビックを口元に銜えて 頭かきむしるシーン』

『歌っている時 思わずギターを立てにして抱きかかえるシーン』

   そこには、取り戻せない青春の一ページに 

    音をだす楽しさに満たされて輝いている瞳がいた。

 

「ありがとう 龍馬  瞳が こんなに綺麗に・・・」

俺は 『男の優しさ』の意味を 初めて知った。 

俺は これから先の高校生活の中で、ほんとの男友達は 唯一龍馬ぐいと思っていたのだが...?


迷い込んだ風が、襟元から忍び込み心地よい冷たさだと感じさせる頃

白井先生がダンス部ガールユニットの引き連れて打ち合わせスキップビートのキャプテンの明菜、と真由美、登美子、瑠奈をにやってきた。

軽音楽部を再生する為に白井先生が発起人となって

新企画の学校主催のダンス部と合同の2ヶ月先のミニクリスマス・ダンスパーティーのバックミュージックを

軽音部活動としてやる事になったという話しらしい。

(たぶん白井先生として廃部寸前の軽音楽部の来年度の予算を貰いたかったのだろう?)

まだオレンジエードの演奏技量が未熟なので、最初の1ヶ月は各々の部室で練習して、一ヶ月後に

体育館のステージで合同練習しようということになった。

キャプテンの明菜は、マイケルの「Beat it」とかヒップホップ系の曲をバックミュージックして演奏して欲しいと道子に要望したが

瞳は 是非YouTubeで検索したヴァン・ヘイレンの『Jump』を ボーカル抜きで やりたいと言い出し

「最初からは 無理」という道子の忠告を 頑固に聞き入れず

「そんなの いや」と意地を張って部長とキャプテンを困らせる。

瞳の一途な表情を見て 明菜は しばらく考え込んでから

「踊りの方を Jumpにあわせるように変えてみるわ」

と言って

ついにロック系を一曲だけという条件つきで、しぶしぶOKして話しをまとめた。

それからというものは 道子からコピーしてもらったJumpの譜面で俺達は練習に明け暮れた。

道子がキーボードでメロディーを弾き、瞳は間奏のハイポジションから入るギターフレーズからライトハンドを鮮やかに奏でてみせた。

ギターテクの上達の早さに驚いた道子は 瞳のギタープレー中心の他のヒップホップ系の曲を追加選択した。

白井先生のアドバイスで軽音楽部としてやるので、学校の部室で堂々と練習する事になり、

放課後は部室に直行する毎日が続いた。

すると軽音部を素通りしていた、男達が廊下の窓際で立ち止まり

やがて・・・へばりついて瞳のギタープレーを覗き込むようになった。

部室の外窓から毀れ吹き込む風の冷たさに、反比例して瞳のスカートは膝上に余裕のある夏用の短さになっていた。

それは年頃の女子の違反覚悟の作戦でなく本能なのだから・・・しかたないのだろうけれど...。

形良く伸びた真白い足と少し大きめのスニーカーは 息を呑むほどの 思春期の憧れを呼び起し 龍馬より練習に集中できなくなる。

部室の内窓は 女子も立ち止まるようになって俺は なぜか救われた気持ちになった。

 

全員の演奏が瞳に合わせられるようになった頃 あの 佐久間 勇輝 がひょっこり部室に見学に来て

練習中の瞳の 『Jump』 を聞いて、

突然「入部してやっていいょ」と不貞腐れた顔で道子に言い出した。

白井先生は、素行の悪い問題を抱えた勇輝が、学校の軽音楽部に入って練習するのは

更生面でいい事だと言って 入部の一発OKを認めた。

 

勇輝が入部してからオレンジエードの雰囲気は一変してしまった。

龍馬と勇輝は性格も生き方も水と油ほど異質で、リズムギターを担当した勇輝とドラムの龍馬は

練習するたびに、呼吸が合わなくてすぐどちらかが演奏を止めてしまう。

道子が二人の対立に、割って入って練習続けるように忠告しても、特に龍馬の方は

怒って投げ出して帰ってしまうことが、多くなった。

そんなトラブルメーカーの勇輝が、瞳に対しては優しく接していた。

ギターのリードーの細かなテクを教えたり

好きなギタリスト情報を交換したりて、二人はなごんでいた。

龍馬が瞳の写真を撮るのとちがって、それが悔しくてしまらなかった。

俺は ベースをやっとの思いで、もどかしく弾いるのに、そんな感情は大人気ないと自分の気持ちを騙した。

俺が瞳と付き合いだして一つだけ心に決めた事がある。

それは、俺と同じように親の為に、青春の大切な自由を束縛され続けているのだから

瞳に近づこうとする男を瞳が嫌がらなければ、俺だけの感情でそれを邪魔することはだけは避けようと思った。

それは冷たい優しさでやりきれない苛立ちを覚えた

恋にはエゴがつきもので、相手への危険なほどの束縛が 時に愛情となりうることもあるのだから  。

クリスマスパーティーまであと1ヶ月をきった頃

俺は 分別くさい大人に近づこうとするより、恋に燃える男になった。

(勇輝)

「瞳 好きな曲の耳コピーが 上達の近道だぜ。

自然と何度も何度も聞いて体で覚えるからさぁー」

(瞳)

「うんー 私 やってるよ」

俺は その会話を聞いて頭に血が昇って何も考えられなくなるくらい激怒した。

「勇輝 俺の前で瞳の名前を呼び捨てにするなっー

と言って勇輝を突き飛ばし、瞳から離した。

以外にも俺を止めに入ったのは龍馬だった。

「武 止めとけ 勇輝には付き合ってるがいるんだぞー」

 

「たける ー」 

 

と呟いて、握り締めていたギターを手放し

瞳は寄り添って俺の後ろ肩を無言で抱きしめた。

 

恋慣れしていない俺は 瞳との関係は運命の出逢いで結ばれた見えないバリアが渦巻いて

誰も二人の領域に侵入してこないだろうという、妄想を抱いていのかもしれない.... 

銃弾の飛び交う、戦場に咲く野花の写真を撮りに行く戦場カメラマンのように

恋とは 覚悟と周囲の状況を頭に叩き込んでおかないと怪我することになると わかった。

 

俺と瞳で交わした歌作りの約束は、棚上げにする形になり 目前に迫ったパーティーに集中した。

練習中に勇輝は

「口ずさめるフレーズは 必ずコピーできるぜ」

と俺の肩を軽く叩き 俺のベースに合わせてリズムカツトする。

バラバラだったオレンジエードの演奏も皮肉な事に、俺が勇輝を突き飛ばしてから、

雰囲気が微妙に和らぎ、本音を出せるバンドに纏まりだした。

 

約束の1ヶ月になり 瞳を4人まとめたような美少女系ダンスユニット スキップビートが部室に遊びに来た。

俺達は ほとんど身内のスキップビートの前で練習曲を披露することになり、

瞳のギターがメインの「Jump」の他に

勇輝がリードで瞳がリズムギターのマイケルの「Black or White」のインストを2曲を演奏した。

目の前は女の子たった4人なのに、曲の頭では 地に足が着かない緊張感を味わったが、

演奏が終わると雲の上まで揚がったような高揚と開放感に包まれた。

聞き終わった明菜は

「まとまった練習僅か1ヶ月で いい感じに仕上がってるね

この調子なら いけるかも」

と白くて小さな手で OKサインのポーズを作って道子を喜ばせた。

真由美が、瞳のギターに興味をしめして、近寄り

「ギター カッコよかったね

マジ ギター初めて1ヶ月ぐらいなの?」

「うん そんな感じ」

「ヤバーっ 私も できるかな?」

「気持ちがあれば 大丈夫」

「へへー ちっと触っていい」

「えっ」

瞳は 俺の方を見て 少し首を傾げた。

俺は 目で合図してやったら

瞳は 髪が舞い上がるくらい素早く真由美に向き直って 

「Emの弾き方 教えてあげる」

と言ってギターを手渡した。

瞳は これが切っ掛けで道子以外の真由美という親友を手にいれた。

第11話 スキップビートとの合同練習

 

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