第9話 理由

道子は 俺の肩を かるく叩いて

瞳から少し距離のある所まで 引っ張りこんで

耳元で囁いた。

「練習終わったら、瞳を先に帰して 武君だけ残ってね

大事な話しが あるの。」

この後 俺と道子は 好きな歌を歌って、

瞳が持ち込んだ、お菓子やジュースを飲みながら

今後の部活の打ち合わせをした。

「瞳 ごめん

曲作りのことで部長に聞きたいことがあるから、今日はいしょに帰れないよ」

「  へぇー ・・・       あんまり遅くならないようにね」

「かわった そうする」

瞳を 戸口から門まで見送ると

「瞳 暗いから気つけて帰れよ」

「じゃ またねー」

と瞳は 進行方向に背を向けて、後ろ歩きしながら俺に向かってを振り続けた。

 

瞳の姿が見えなくなると、大切なものが胸からすり抜けた脱力感が俺を 襲ったが、

残りの気力を振り絞って道子の話しを聞くことにした。

 

「武君 この前 瞳の過去を 言いかけて途中で止めたから気になっていたでしょ

でも 武君の瞳への想いが本物だってわかったから

どうしても話さなきゃ って思ってるの」

「聞くのが・・正直怖くなった」

「私も 出来れば言いたくないけど...」

 

 

 


 

(道子が瞳の父から聞いた 瞳の過去)


親の期待を一心に受けて、英才教育に明け暮れる15才の瞳が、

その親の定めた掟を破って、クラスメイトの少年 (いや彼はもう大人の分別がある青年とった方がいいかもしれない) と恋に落ちた

青年は学級委員長、瞳は副委員長で二人は勉強でも良きライバルで 一番 を競い合っていた。

学年委員長会議に・・そろって、出席した後デートするはずだった。

親の門限を気にした瞳は学校祭のことで残った青年を後にして一旦帰宅したが

実は『同じ高校に進学して欲しい』という告白の手紙を渡さないまま

約束していたコンビニの裏の従業員駐車で、青年を待っていた。

しかし、いくら待っても..青年は来なかった。

瞳はその日を最後に二度と青年に逢えなくなった。

翌朝、青年が不整脈急性心不全で、帰らぬ人なったことを聞き


瞳は

「昨日を返して・・」 と叫びながら倒れて三日間眠り続けた

そして

眠りからさめると..瞳は青年の事を  何も覚えていない

いつものように、元気に学校に行った

つまり、瞳はショックで中学三年生で知り合った青年の全ての時間の記憶を無くした

それから瞳は 時々意識を 失って倒れ

無くした記憶を取り戻すように、深夜に家を飛び出して

夜の街に一人彷徨うようなことを 周期的に繰り返したらしい

、高校に入学と同時に その習慣はなくなった?


 

「と言うのが 瞳のお父さんからの話しなの

だけど・・・瞳の本人の話しは少し違っていたの

 


三日眠り続けたその時から記憶を無くした事は認めているけど、

夜遊びで夜の街を彷徨ったということは無いと言っているの。

それなのに 瞳のお父さんは 必要以上に瞳を男女交際を禁止して

近寄ってくる男子に 瞳の了解を得ずに絶交宣言をするって言ってたわ。」

俺は 道子の話しで

瞳と死に別れた恋人が「雨道 武」であることを確信した。

二人は瞳の父のお嬢様教育のこともあって

周囲に知られないように秘密に付き合っていたんだろう。

わからないのは

記憶喪失になった瞳に なぜ 恋人との経過の事をことを教えないのか?

ほんとうに・・瞳の体が心配でそうしているのか??

そうは思えない 

何か 冷たい計算を 感じる

俺の直感なのだが

『瞳の親父さんは 瞳を憎んでいる気がする

きっと瞳が 過去に傷を負った記憶喪失の問題少女のままで生きてほしいのだ

親として 守ってあげなければならない瞳の大切な気持ちを わざと放任している気がする。

なぜ ?』

 

「部長は 瞳の記憶喪失事件のことを唯一知ってる友達なのに

なぜ

瞳に教えないの ?

俺に言えないことが あるんじゃないのか?」

 

 

「・・・やっぱりね

そこまで気づくなんて 鋭いね

見直したよ」

 

「前置き いいから話せよ」

 


「私は もちろん瞳を 信じたいかったけれど..

記憶喪失という瞳本人には どうすることも出来ない事情を

よくよく考えて

私は、瞳の体のことを思って 瞳に内緒で瞳のお父さんからの

とても恥ずかしい依頼を受けたの

私は 瞳との信頼関係を裏切って

瞳の監視役を 引き受け記憶喪失後の瞳の行動を密かに瞳の父に報告していたの

ところが

とんでもないことが 瞳のお母さんの無二の親友の手紙で判ったの」

 

「瞳のお母さんの友達って どんな人?」

「うん・・・その事を話すにはどうしても・・・

まず瞳のお母さんの若い頃の話しをしなきゃね

 

瞳のお母さんはアメリカのロス生まれの三世で高校時まで向こうで生活していたらしいの

大学の時に 母国日本に成績優秀で特待生として日本文化の江戸中期を研究するために

留学しに東京に来たらしいの

美人で頭いいから、男子学生からもてもてだっらしいけど...

女子の友達は 逆に少なかったみたいで...

見かけとは裏腹に 孤独な留学生活だったらしいの、

つまり、

その 単身で心細い生活をして 男子学生よりも年の差のある頼れる独身の大学教授との恋に落ち

周囲の目を気にする教授からの頼まれて、それは秘密交際になっていたの

ところがそんな事情を知らない今の瞳のお父さんに、

見初められて交際を申し込まれていたらしいけど

情熱的にアタックするの断りきれずに悩みが二重に深まったらしいの

誰にも言えない、そんな経緯を 幼い時からのロスの同じ三世の親友の「美紀 ウィリアム」という友達に手紙で打ち明けたのよ

 

それが・・・つまり瞳のお母さんの無二の親友つてわけ

 

「・・・なるほどねっ

実は 俺も 瞳から直接

瞳のお母さんの無二の親友の話しや

瞳のお母さんに秘密の死に別れの恋人がいて記憶喪失になりそのまま今の瞳のお父さんと結婚してしまった話し

きいてるんだ」

「えー

・・・じゃ

話が わかってもらえそうね

 

瞳は 可愛そうに・・

今の瞳のお父さんの子供じゃないの

死に別れた恋人の子らしいの

血液型がどうしても合わないの

瞳は それでもしかしたらお父さんから恨まれたままで

息も詰まるほどの家族生活を送っているかもしれないの

 

私の他に 哲君も瞳の父から監視役を頼まれたみたい

きっと哲君の場合は ハッカー前歴があるから

その能力で瞳の情報を収集依頼したのかも・・

 

だから信じて

今はほんとに瞳の味方よ 武君と同じくらい瞳を

心の底から心配してるの」

 

 

「・・・ 武君 瞳をバンド活動に集中させて、 

瞳をこれ以上危険から遠ざけなきゃー

記憶を無くしてまで精神のバランスを保とうした心の傷を 蘇らせてしまえば

瞳は 今度はほんとに壊れてしまうかもしれないの

今 瞳を救えるのは 武君だけよ」

「わかってるよ ・・・」

「私は 瞳が中三の時、倒れて記憶を失ってから

唯一記憶の残してくれた友達として

どうしても瞳を助けたいの

瞳は純粋で一途な女だから

人一倍 人間関係で傷つくのかもしれない。」

 

「なんか 複雑過ぎる話しだね」


「そうでなくても 恋は不思議の連続を引き起こすもの

つまり・・・その これは私のただの根拠のない直感なんだけど...

瞳のお母さんからの遺伝と

中三の恋人と武君がだぶってしまつたじゃないかと思うの」


 

(月日が流れて)

紫の日の出が電波目覚まし時計の6時より遅くなった頃

瞳は 快活で積極的に学校生活を過ごせるようになり、道子以外のクラスの女子の輪に溶け込むようになった。

それは蕾の花が咲き誇るような可憐な日々の変化だった。

その理由は 気取った気持ちで考えてる訳じゃないけど..

たぶん  俺と交際しだしたからだと思っている・・・

 

おまけに、噂の元だった瞳の父親から絶交宣言が無くなって、俺が交際を続けていられるとう噂が広がると

今まで、そっぽを向いていた男達は 積極的に元々美形だった瞳に近づき始めた。

そんな噂に アイドル写真収集マニアの俺の友達の滝本が 急にバンドに加入したいと申し出た。

瞳の変化に気およくした道子は しぶっていた勇輝のバンド加入を 決意。

だが 勇輝と直接交渉しても

 

「そんな 芋みたいな素人バンド全然 興味ない

とあっさり断られたしまったらしい。

 

しかたなくバンドは女2と男2人 道子以外は音楽素人のバンド編成でスタートした。

瞳の発案で「オレンジエード」と命名して同名の預金オレンジエード口座を作り

俺達は バイト代や余ったお小遣いを積み立てて、欲しい楽器を一つ一つ揃えていった。


 

第10話 勇輝のバンド加入

 

 

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