n3章 真夏の出来事

第1話 真由美に接近

夏休みに入って、けだるさが体に染み込む暑さが続いたせいで、

とにかく瞳のことは 暫く考えない方がいいかもっ。

と 

たぶん?無意識に自分の健康をかばって、アルバイトに打ち込む生活が続いた。

洋子のライブの日が近づきオレンジエードのメンバーに連絡をつけたが、

滝本は追っかけや写真で新潟にもう居ないし、道子は用事があって行けないという返事

勇輝は 保留にしてくれと曖昧に答えたのでチケットだけはとりあえず渡しておいた。

 

結局、俺は心のどこかで望んでいたのか?

真由美一人といっしょにライブにいくことになってしまった日から

落ち着きを取り戻した。

俺は思い切って 約束の日の前の日なって真由美にメールした。

 

「真由美 今晩わー(^^)/

元気してる?

この前メールした洋子のライブの件たけどさぁ

ステージまで 少し時間あるから万代のFMサテライトスタジオ前で待ち合わせしてから

いっしょに行かないか?」

 

「武君 

こんなメールを 

待ってたの

実は(・ ・;)

直接 話したいことがあの 」

 

話しって何だろう?

と素朴な疑問が消えないかったが、

直ぐにカレンダーに明日の予定を書き込んで

吹っ切れた気持ちなつたのか?

「よしっー」

って自分に掛け声を掛ける


当日、俺は珍しく安眠できなくて 予定より速く目が覚めた。

久しぶりの真由美との再会を待ちきれずに、予定より少し早めに家を出た。

真紅のボックスに大きなガラス貼りのサテライト前には

人だかりが出来ていて、人気DJを囲んでいる。

その群れの外れに一人だけ こちら側を向いて手振る女がいた。

 

淡いピンクのMの文字が胸にプリントされた白いTシャッと細身のGパン姿

しなやかな髪がヒンヤリした微風に揺れてその胸の文字を時々隠す

息苦しいほどの咽る人混みの中でも

あどけなさを残した・・懐かしいその笑顔

昨日まで俺を苦しめてた 「憂いの日々」 が、この夏の心地いいそよ風とともに

果てし無い大空の雲彼方まで運び去っられていく。

尾瀬の草原に人知れず隠れ咲く

ヒメシャクナゲのようなその人は 真由美だ。

俺は

心も体も

子供でもなく

大人でもない

高校二年生という曖昧な世代の狭間で

人の軋轢で磨り減って潤いをなくした心を

満たしてくれるものは 何なのかと

彷徨っていたのだろうか?

 

気がつけば 

捜し求めているものは

眩い閃光を浴びて輝く特別なステージじゃなくて

ありふれた、日常の中に答えはあったと想えた。

 

よく見ると 真由美は手の先に何かの冊子を掴んでそれを大きく振っている

近づくに連れて それが何だか正体がはっきりしてきた。

信じられないけど・・・それは

オレンジエードの練習の時に真由美が 俺達をからかう為に持ってきた

真由美の兄の良く見ているきわどいグラビア雑誌だ。

「武君っー」

「何だよ 真由美 そんなもの持って来て」

「へへぇ きっと凹んでるだろうしー 少しは元気になるかと思ってさ」

真由美は わざと目立つように、人だかりの中で

パラパラと捲って写真を広げ付けた。

真由美の隣にいた女子高校がビックリしてこちを振向き

手で口元を押さえて、笑いを堪えてまたDJのライブの方に視線を戻した。

「よせよ 恥ずかしいじゃないか!」

「どうー 悩みと蒸し暑さが ぶっ飛ぶ

爽快感の刺激を味わった

なんてねっ・・・

 

ごめん これは冗談...」

真由美は清潔な白い歯を出して優しく笑っている

「まったく もう遊んでやんねぞ

・・・・・何 話しって?」

突然

角張ったクリスタルで重厚なショーウインドーの内側から

生公開放送のDJが、早口で・・けたたましくリクエストの曲を紹介する声が

耳の奥に・・無理やり流れ込んでくる

やがて・・・

真由美との会話を邪魔するくらいのボリュームでサテライトから『Shine 』が流れ

ビルの隙間を縫って夕焼け空に吸い込まれていく。

「うん じゃーあそこで話そうょ?」

と耳元で内緒話しをするように手を当てながら俺に話しかける。

真由美が指さしたのは紫色の空に突き刺さるように、そびえ立つレインボータワーだった。

「嘘だろうっ  高すぎるぜ」

「違う 違う そのタワーの近くの喫茶店でね」

 

真由美が案内した喫茶店はタワーの麓の二階に面していて

中は 奥の方の日の光が届きにくい所に

アベックが一組と

窓際のカウンターの左側には高校生風の女子集団が

鮨詰め状態で席を全部陣取って

にぎやかな笑い声でパフェを食べながら

美談していた。

恐らく夏休みのクラブ活動の打ち合わせか?

顔合わせのような感じだ。

日が暮れ始めたので、

リーダーが腕時計を見つめると

彼女達は一斉に、屈託の無い笑顔で、この喫茶店を出て行った。

 

俺達は入れ替わるように、タイミングよく窓際に座ったが

真由美は 座って暫くは なぜか落ち着かない様子で

窓際近くを通り過ぎる通行人や店の一番奥のアベックのことを

キョロキョロと見回しながら気にしている。

 

そのうち奥のカップルが、なにやら大きな声を出して

喧嘩し始めた。

聞きたくないのに、無理やりその重苦しい会話が

耳に進入する

「俺達もう...終わりなのかなぁ!」

「わかっているでしょ」

「頼むよ、もう一度チャンスを...」

「もうー、いゃーっ」

女の方が、泣きながら席を立ち

自分の飲食代をテーブルの上に投げつけるように、ばら撒き

ハンドバック肩に掛けると

早足で出て行った。

男も、追いかけるように慌ててレジを済ませて消えた。

 

喫茶店の中は夕暮れも手伝って暗く照明の光りが妙に重く感じられる

そのせいなのか、さっきあんなに元気にしてもらった真由美に

何と言って 話しを切り出したらいいか分からなくなり、沈黙が続いた。

(フロント)

「お客様 注文は何に致しますか?」

「俺は クリームソーダー」

「マジすか? それってお子様メニューじゃん

そめてコーヒーフローとぐらいにしたら??」

「余計なお世話だっ

真由美は 何にするの」

「じゃー 私 アイスクリームパフェ」

「どっちが お子様だか・・・

ついでに 旗のついてるランチも頼んだら 」

「覚えていろよ 武っー」

(フロント)

「お客様 お子様ランチお一つになさいますか?」

「いいぇ 最初の注文だけでいいです。」

(フロント)

「かしこまりました。

クリームソーダーがお一つと、アイスクリームパフェがお一つですね」

待たされながら二人の会話を聞かされていたフロントは後向きなってため息を付きながら去った。

「それで...真由美

話しって 何?」

「うん ・・・・・;

実は 瞳から連絡があったの」

「 ひ と み から?

「そう そうなの・・・瞳はねっ

 

今は 鎌倉の母方の従兄弟の愛子の家で バイトしながら夏休みを過ごしているんだって

よく話しを聞いたら

お父さんや学校側には連絡してるのに

武君には 全然そのこと伝えてないっていうから・・・

驚いちって・・・・

 

武君も  切ないね....っ

一番心配してたのにね

私 なんかの所に連絡きちゃって

変よね

瞳の友達として 

 

『その連絡は相手が違うでしょ 何考えてんのって?』

 

って 直接 怒鳴りたくなってしまったの」

 

「真由美っ 

それじゃ瞳は 

その従兄弟の愛子という子の所で

・・・元気でいるんだねっ」

 

瞳の無事なことが分かった俺は

思わず真由美の手を握って 確かめた。

「武君っ  だめ」

真由美は 薔薇の棘に突き刺されたような、皮膚感覚で

痛々しく自分の湧き上る情を断ち切り

握った俺の手から自分の手を引き離して 瞳を伏せた。

俺は その時初めて

あんなに素直で率直な女が

俺と瞳の間で 揺れている微妙な立場の気持ちに 気がついた。

 

真由美を困らせたのは

俺の

異性にたいする曖昧な思いやりだったはずだ ?

いや

そうじゃないかも...

たぶん  それは母親から受け継いだ

 

『人の気持ちの底を 探らない』

 

どす黒く汚れた血の因果だ

 

父親がどんなにか苦しんで死んでいったことか。

 

「私 そんな女じゃないから...」

「どんな 女?」

「上手く 言えないけど」

「俺の方こそ 上手く言えなくて困らせてるけど

でも

もう真由美のそんな顔みたくない

 

変な話しするけど・・・

俺 最近 思うんだ

美しくなけりゃ 淘汰されるのは

なにも女に 限ったことじゃないだって」

真由美は 拍子抜けしたようないつものあどけない表情に戻って

俺を見つめた。

 

「突然    武君 何 言ってるの

おかま でもなるつもり?」

 

「違うよ 生き方のことさ」

「美しい生き方したいってこと?

つまり・・・

進路指導の話みたいなこと?」

「いやっー

そういうのと 違うけど・・・

何と言うか

・・

無様な生き方しちゃ 取り返しつかなくなるのが

 だって わかったんだ。

俺 こままだと

瞳に ずるずる翻弄されながら

生きていく気がする。

それって 頭の中でビデオ上映すると

めちゃめちゃ醜いんだ。」

「・・・そういうこと 言いたかったのね

はっきり言ったら

瞳と付き合うのが 嫌になったって

そしたら...」


「 そしたら・・・?

ねっ

真由美

今 俺たち二人

きっと 恋人同士みたいに見えるね」

「私ね

武君のこと 嫌いじゃないけど

あまりにも、瞳の存在が大きくて

と゛うしても そんな気持ちになれない

でも..」

「でも?」

「でもね 今度の事はどう考えても

かってに瞳が一方的に逃げ出したんだし

武君が

全然 悪いわけじゃないからねっ

もしも もしもさぁ 私が男なら

全然 無視して他の子と付き合うけどね

武君も 瞳の複雑な事情が分かっているからよけいに  切ないと想うけど...」 

「そういってくれると なんか気が楽になるょ 真由美っ

とっても 無理な お願いがあるんだ。

聞いてくれないか?」

「何?」

 

「きっと 不埒な奴と 真由美は怒るだろうけど

 

 

真由美 一日だけ

一日だけ いいんだ

俺の恋人になってくれないか?

 

 

?

 

・・・・・・

ばかっ

何言ってんの?

そんな調子のいいこと言って

私をなめんなよっ

・・・

まさかぁー 武君が そんなチャラ男みたいなこと言うとは思わなかった。

もう最低っ

 

あぁー

・・・

でも

でも

 そんなこと言わせた私の友達の 瞳はもっと最低かも

・・・

たける 

ほんとに一日だけだかんねっ

嘘んこなしよ    じゃー 今日だけ・・

恋人になってあげるしっ」

「わーぉ

やったぁ

ほんとに?

二分後に 冗談と言われても

マジ 今の俺 世界一幸せっだたど...

正直言って 答えは ノーしかないと思っていたので

俺 どうしていいかわからないしっ

また 悩みが 一つ増えたみたいっだ。」

できるだけ爽やかに微笑んだ。

「たけるの ばかぁ

私達 止まらない 雰囲気になっちゃいけないでしょ?」

 

「そんなこと 考えたくない」

 

「うん

 

不思議よね

瞳がいなくても

たける 全然タイプじゃなかったのに

でも こうなるかもしれないって出逢った瞬間に

イメージしちゃったの

たけるは??」

「真由美は 俺から一番遠い世界にいる普通の女の子だと思ってた」 

「普通の女の子?」

「俺にしてみりゃねっ」

「今は?」

「今わ どうかなつ とにかく真由美の前では

気取らずに入れる気がする

これって特別なのかな

それとも普通??」

「そうなの 

 

出会いがもう少し早ければ私達 初めから特別かも」

 

と真由美は今だけ見つめていようと悲しいくらいに

俺を見つめ直していた。

ふと 気がつくと さっきのフロントが二人の会話を立ち聞きして二人の雰囲気に呑み込まれて

声を掛けれずに、注文したクリームソーダとパフェを盆に盛ったまま佇んでいた。

二人は、それから驚くほど無口になり、

黙々と注文したものを食べた。

それは これ以上お互いの気持ちを 打ち明ければ

恋という魔物が二人の間に育って

相手を食い尽くすぐらの、止められない欲望となるかもしと感じたから

魔物は二人で作ったものなのに・・・二人の言う事をまるで聞かなくなる厄介者

その運命を変える怖さを 二人はこの時気がつかないふりをしていた。

 

 

第2話 Drea Boxsの花 愛華

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