「翠簾洞漆工集」修理之部 漆工索引 翠簾洞ホームページ入口

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寄木コースター R15

2008.10.02.箱根本間美術館にて組立
2008.11.20.完成

拭き漆工房 翠簾洞 素舟齋

私が所属するパソコンサークルの1泊旅行の帰路、箱根の寄木細工屋でコースターの体験教室に参加しました。木に漆を塗るのだから簡単だと思って、漆塗り希望者12名の作品を預かってきました。ところが漆を塗ると真っ黒になって、寄木細工独特の木目の美しさがわからなくなってしまい、大いに慌てました。しかも、1枚や2枚ならとにかく、12枚もあるとその表裏と6辺の縁塗りで、大変な根気が要りました。毎日量産品を作っている職人さんは大変ですね。

寄木高寿多
よせぎコースター

 目   次 

工程説明の都合上、
作業日付は前後するところがある。


1.本間寄木美術館

08.10.02.

私が所属するPCサークルで、10月に箱根一泊旅行があり、途中 湯本の本間寄木美術館に寄って「箱根名物 寄木細工」の体験教室『寄木コースター作り』に参加した。

教室では仕上げがワックス塗りだったが、漆塗りを希望する方々 12名の作品を預かってきた。 TOP

2.荒研ぎ 注1)(水研ぎ 注2))

08.10.06.

荒研ぎ終了
荒研ぎ終了

表面には接着剤などの汚れが付いたものもあり、4日から両面の荒研ぎ(#100 注3))に掛かって、今日で12枚24面をすべて研ぎ終わった。

沢山 研いだので、指の皮まで擦ってしまった。


注1)荒研ぎ:
漆がよく木地に馴染むように木地の表面を滑らかにすること。必要に応じて荒研ぎ、中研ぎ、精研ぎ(仕上げ研ぎ)などを繰り返す。
注2)水研ぎ:
耐水サンドペーパー(以下砂研紙という)を使って水を流しながら研ぎ出すこと。鑢粉が流出するので砂研紙の目詰まりがなく、早く研げる一方、特に木材の場合は、研いだあとが毛羽立っているから、乾燥後の空研ぎ(水を使わない普通の研ぎ方)が必要である。
注3)#100:
砂研紙の目の粗さ。番号が大きいほど目が細かい。

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3.中研ぎ(空研ぎ)

08.10.09.

中研ぎ終了 A面
中研ぎA面
(表面に名札を貼ってある)

中研ぎ終了 B面
中研ぎB面


今日は一日で、中研ぎ(#400)を終わった。

荒研ぎ後は表面が毛羽立った感じだったが、乾燥後は滑らかになった。TOP

4.精研ぎ(空研ぎ)

生漆 注4)の地塗り 注5)を掛けてから、木地磨きの仕上げとなる精研ぎ(#800)をする。地塗りをすると、今まで見えなかった木地の細かい傷が浮き出すので、精研ぎしてその傷を取る。

注4) 生漆(きうるし):
漆の木から採取された後、ゴミを濾過した漆。 乳白色で、空気に触れると透明感のある暗褐色に変わる。主に木地固め[注5)地塗り参照]、拭き漆(摺り漆)[注8)拭き漆参照]などに用いられる。
注5) 地塗り:
漆を生地に馴染ませ、生地の表面を固めるための漆塗り。漆をよく吸い込む生地には何回も塗ることもある。地塗りが終わると表面が均質になる。
08.10.10.

A面(地塗り前)  B面(地塗り後)
地塗りの前後

昨日12枚のB面に地塗りをした。写真の、左6枚が(名札を貼ってあったので)まだ地塗りをしていないA面、右6枚が地塗りしたB面である。

左の6枚は側面も一度に塗ったので、手に付いた漆で汚れてしまった。

それで右6枚の側面は、汚れないようにB面が乾いてから別途に塗ることにした。

続けて、名札を貼ってあったA面12枚の地塗りも終わった。予期以上に黒くなってしまったが、次第に漆が透けてくるだろう。

08.10.12.

B面精研ぎ終了

B面(12枚)の精研ぎが終わった。

廻りの9枚は精研ぎが終わったB面→



真ん中のの黒っぽい3枚は、比較のために裏返した精研ぎをしていないA面→




右下の1枚は色見本として残しておいた何も加工していないもの→

08.10.14.

精研ぎ完了

両面と側面全部の精研ぎが終わった。

砂研紙#800で磨いても思ったほど白っぽくならなかったので、また#240を使い次いで#400を経て#800で研いだので、大分手間取ってしまった。TOP

5.下塗り

地塗りの上を#800で磨いて傷がないことを確認し、梨子地漆 注6)で下塗りをする。

08.10.15.

表面の拡大写真
表面の拡大写真

右に、最初の下塗り(梨子地漆)を終わった表面の拡大写真を示す。

まだ塗ったばかりだが、どうもいつもより黒ずんで見える。

よく見ると、木肌の肌理(キメ)に入った漆が胡麻状の汚れになって、これが遠目には黒っぽく見える原因になっているようだ。

1枚板ならばこの胡麻斑が効果的な景色(模様)となるのだが、今度の場合はコントラストがなくなり、端板の寄せ集めになってしまった。

この上に何回漆を掛けても「寄木細工」らしい鮮やかな印象が出ては来ないだろう。

下塗り10枚



中央の1枚は木地のまま→

その両側の2枚(A面)は地塗り(生漆)のままで 下塗り前→


周囲の10枚(B面)は 下塗り(梨子地漆)済み→

08.10.16.

結局、胡麻斑を削り取り、元のような綺麗な木地を出すことにした。

08.10.18.

塗った漆を剥がして木肌を出すのに、#120で水研ぎをし、今日はB面を研ぎ終わった。

水研ぎ前後の比較
水研ぎ拡大

風呂場で水研ぎ中
水研ぎ

問題は木肌の凹み或いは穴をどうやって塞ぐかである。

そこで、木肌に木蝋 注7)を擦り込んで目つぶしをしようと思いついた。

注6)梨子地漆:
黄色味を帯びた無色で、透明度の高い漆。純度の高い生漆(きうるし)に雌黄(しおう)・梔子(くちなし)などを加えて作る。蒔絵の上塗り用など、極めて用途が広い。
注7)木蝋:
ウルシ科のハゼノキ(櫨)やウルシ(漆)の果実を蒸してから、果肉や種子に含まれる融点の高い脂肪を圧搾するなどして抽出した広義の蝋。搾ってからそのまま冷却して固めたものを「生蝋」(きろう)と呼び、さらにこれを天日に晒すなどして漂白したものを晒し蝋(さらしろう)と呼んで、蝋燭の仕上げなどに用いる。<ウィキペディア>

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6.蝋引き

08.10.18.

私自身のコースターはまだ地塗り前の木地のままになっていたので、木蝋の代わりに蝋燭のパラフィン蝋を溶かして塗り、蝋引きのテストピースとして、地塗りまで進めてみた。

蝋引き



上の7枚は、水研ぎの水が乾いたもの→




中の5枚は、まだ濡れているもの→


一番下の1枚は蝋引き後、地塗りしたテストピース→

08.10.20.

 《テストピースによる蝋引き試験》

パラフィン蝋の塗布試験
蝋引き試験



蝋引きしてから梨子地漆で地塗り1回と下塗りを2回掛けたあとで、ドライヤーの熱風を当てた。すると溶けた蝋が下から吹き上げてきた。

しかし、その蝋をティッシュで拭き取ると後は却ってツヤがよくなったくらいだった。

そしてキメの状態も悪くはならないので、これで進めても良さそうだ。

テストピースの状態をみると、これでどうやらいけそうだ。しかし、パラフィン蝋は化学合成なので、木地や漆により馴染みやすい植物性の木蝋を探していた。

近辺の東急ハンズやホームセンターには木蝋が無いので、会津の絵蝋燭屋を思い出し、会津の筒井氏に頼んで接触して貰った。幸い絵蝋燭の材料として使っていたので、削り屑でも譲って貰うよう交渉を依頼した。

08.10.22.

木蝋の入手に時間が掛かりそうなので、先にA面の研ぎ出しをすることにした。

08.10.24.

水研ぎ終了
水研ぎ終了




#150をガラスに貼り、そのガラスを使って12枚全部のA面の水研ぎを終えた。

08.10.26.

筒井氏から木蝋を入手した旨の朗報が届いた。月曜に会津から送ってくれる由。

空研ぎ後の表面状態
空研ぎ終了



12枚はA面水研ぎのあと、#600で空研ぎした。

水研ぎ後には木の継ぎ目に何となく凹凸が感じられたが、空研ぎをしたら全く抵抗がなく、滑らかになった。


かくして、木蝋を待つのみ。

08.10.28.

筒井氏からの木蝋を朝8時50分に落手した。測ってみると400grもあった。

木蝋


鏡餅のようなのが木蝋 →





左は以前にパラフィン蝋を塗ってあったテストピース(B面)

その右は蝋を塗る前のどなたかの作品 →



下にあるのはパラフィン蝋燭 →

早速テストピースに木蝋を擦り付けてみたが、固くて万遍なく塗るわけにいかはない。

そこで、木綿布を5cm角ほどに切り、削った木蝋を包んで水糸で締め、竹筒に通して保持出来るようにした。

これをヘアドライヤーの熱風を当てながらコースターの上で溶かした。パラフィン蝋よりも早く溶けるようだ。

一旦全面に塗ってから熱風を数秒間当て木に染み込ませた上で、浮き出した蝋をティッシュで拭き取った。

良い艶が出て期待通りの効果が出た。


テストピースの1枚だけ(A面)を、すぐ木地呂漆で拭き漆 注8)して、漆風呂に入れた。

木蝋比較
木蝋比較




上が蝋引き後 木地呂漆で拭き漆をしたテストピース→




下左は蝋引き済み、下右は水研ぎまで→



A面12枚全てに木蝋を塗った。

木蝋塗り終了
A面の木蝋塗り



13枚中、中央の1枚はテストピース→

08.10.29.

両面木蝋塗り終了
両面木蝋塗り終了


テストピース表面の調子はよかった。これならいけるし、これしかないと思って、12枚全部のB面に、昨日と同じ手法で木蝋を塗り付けた。

今回の木蝋使用量はこれで終了だが、鏡餅の外周を3分の1ほど使っただけで、蝋燭を作るほど沢山残っている。


注8)拭き漆:
筆で漆を塗ると直ぐ筆ムラを消して漆を均等にするために「拭き紙」という特殊な紙で漆を拭く。ティッシュで拭くと漆が全部落ちてしまうが、拭き紙ならば力の入れ加減で漆の濃淡が出せる。

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7.2度目の下塗り

08.10.30.

先日、テストピース(A面)を#800で研いで、木地呂漆で拭き漆をしておいた。前にパラフィン蝋を塗ったB面と同じ回数を塗って比較するためである。

テストピースには熱風を当ててもB面A面の差がないようなので、残りの10枚のA面にも#800の研ぎ出しと拭き漆を掛けた。今回は木地呂漆を使った。

08.10.31.

テストピース1枚のあと、両池田氏の作品を借りて先行ロットとし、木蝋塗りのパイロットランを流した。

木蝋の上に木地呂漆を1回塗って乾燥後、色具合と熱風試験で蝋の熔け出し等を確認した。結果は合格であった。

そこで、早速残りの10枚に木地呂漆を塗り、漆風呂に入れた。

08.11.02.

12枚のB面に拭き漆を掛けた。

左上に色ムラが見える
色ムラ

数時間後に半乾きのところで見ると、3番B面の白い木質の表面にムラが出来ている。

爪でこすると何かが表面に貼り付いているようだが取れない。

或いは木蝋が厚く残っていたのかも知れないと思って、ドライヤーの熱風を当ててみたが変化はなかった。

やむなく#320で研いだところ綺麗に落ちた。そして砂研紙には黒い塊がついていた。矢張り木蝋のムラだったようだ。

08.11.03.

A面を#800で磨き、木地呂漆で2回目となる拭き漆を掛けた。

08.11.04.

ムラが目立つ5枚
色ムラの5枚

硬化後見ると、このA面にもムラが目立った。中でもひどいものを選ぶと5枚ほどあった。

いずれも木蝋の塗りムラだと思う。そこで#120で木地まで研ぎ出し、#320で仕上げた。寄木の木質ごとに汚れかたが違う。とりわけ白い木のムラが目立つので、1枚に#120も1枚使ってしまうほどしっかり磨いた。砂研紙の表面にはすぐに玉状の木蝋の塊が着き、それが沢山になると板状に貼り付いてくる。#320のあと、白木を磨いたのと違って、矢張り木蝋が残っていて指先の感覚が違う。

汚れのひどい5枚を研ぎ出したところ、残りの7枚がひどく汚く見える。あまりに差が大きいので次の処理にも影響すると思い、結局こちらも全部研ぎ出した。

これで結局、A面は12枚全部が白木地に戻ってしまった。

仕上げの空研ぎが終わって、直ぐに1回目の木地呂漆を薄めに塗り、色が濃くならないようにしようと思って、拭き紙で強くこすりながら拭いた。

08.11.05.

左9枚はA面、右3枚はB面
いずれも拭き漆1回ずつ
AB面の比較

昨日塗ったA面は漆が薄かったので全くツヤが出ていない。

しかし、黒さは落ち着いていて、これなら拭き漆を1回掛けたB面と大差がない。これならもう水研ぎしなくてもいけそうだ。TOP

8.両面の漆塗り

08.11.05.

今後A面・B面の区別に気を遣いながら、両面を平行して作業するのは面倒なので、今日からまずB面だけを完成させてしまうことにして、早速第2回の拭き漆を掛けた。

周囲の8枚は5回塗りしたB面
中の4枚は1回塗りのA面
拭き漆の繰り返し

08.11.06.

B面に第3回の拭き漆を掛けた。

08.11.07.

B面に第4回の拭き漆を掛けた。

08.11.08.

B面に第5回の拭き漆を掛けた。

08.11.09.

5回の拭き漆で、B面には良い艶が出てきた。

B面は5回の塗りで一段落として、これからA面を塗ることにする。


即日、午後からA面に第2回の拭き漆を掛けた。

まだ拭き漆5回
5回の拭き漆を終わったA面

08.11.11.

A面に第3回の拭き漆を掛けた。

08.11.14.

A面に第4回の拭き漆を掛けた。

08.11.15.

A面に第5回の拭き漆を掛けた。

08.11.16.

A面も5回、いろいろな漆を試しながら使って拭き漆をした。

漆の差は感じられなかったが、漉し紙 注9)で漆を漉すのは、手間を掛けるだけの価値があった。乾燥後の表面のゴミも少ないようだが、筆を洗うときのテレピン油に出るゴミの量がはっきりと違っている。

12枚両面の3種磨き
12枚両面の3種磨き

今日はB面に油砥の粉、呂色磨き粉、角粉 注10)の仕上げ磨きを掛けた。12枚は流石に多くて休み休みの仕事だったが、それでも汗をかいた。

漆を塗るのは造作もないことだが、この磨きを掛けるのが大変な作業になる。しかし、顔が写るほど良い艶が出てくる楽しい仕事でもある。

注9)漉し紙:
柿渋を塗って強くした吉野紙。漆の中には沢山の細かなゴミがあるので漉して使う。吉野紙は極めて薄い楮紙でありながら、引っ張りに強く、ふっくらとした紙の地合いが濾過に適しているため、江戸時代から漆や油の塵を漉す紙として重用されてきた。
注10)油砥の粉:
植物油で砥の粉を練ったもの。木綿布につけて漆面を磨く。完全に滑らかになるが、まだ艶は出ない。
  呂色磨き粉:
白色の微粉末。木綿布に付けて磨く。この粉で強く磨くと、急に良い艶が出る。
  角粉:
鹿の角を蒸して乾燥し粉末にしたもの。磨きの仕上げに使う。

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9.側面の漆塗り

08.11.16.

側面に漆を塗るために、磨いたばかりのB面に番号を書いたテープを貼り周囲に巻き付けて識別に使っていた水糸を外した。

側面の研ぎ出し準備
側面の研ぎ出し




側面は水糸を留めた瞬間接着剤の跡などで汚れていたから、砂研紙で研ぎ出した。

08.11.17.

側面の呂色塗り
側面の呂色塗り

側面に呂色漆 注11)を塗った。

08.11.18.

2回目の呂色漆を塗った。

08.11.19.

寄木だから側面も赤黒交互にした方が面白いだろうと思い、6辺のうち3辺に朱漆 注12)を塗った。

注11)呂色漆:
黒色の上塗研出用の漆。生漆に着色反応剤として鉄粉や水酸化鉄を入れ,漆と反応させウルシオール鉄塩を作り,漆特有の深みのある黒色を得る。
注12)朱漆:
朱合漆または木地呂漆に朱色の顔料を練り込んだ漆。

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10.納品

08.11.20.

今夜PCサークルの例会があったので、磨きを掛けて、持参し納品した。

完成

かくて、本件も漸く落着の運びとなった。
塗ってから日が浅いので朱色が出ていないが、3ヶ月も経てば良い色になるだろう。

<始めに戻る>


2008.12.22.作成・2010.01.15.改訂