vol 321:たったこれだけの事が。







ハイキングコースになってるこの山。

防空壕の場所は向かって右側。

とりあえず、ハイキングコースから山に登る事にした。

運動不足には結構キツい。

「ネットじゃ人気があるハイキングコースってなってたけど、
全然、誰もいないね。」

「ホンマやな。まぁ、好都合やけど。」

整備されている道を歩き、

途中、地面はコンクリートから土へ。

「はぁはぁ・・・。」

「カン・・・息切れしだしたね。」

足が鉛のように重い。

普段、運動せんかったらこうなる。

他の山に比べて山頂らしき場所は距離的に短かった。

息切れの中、感じた事は、

霊的な感じが全然せぇへん。

「なんか・・・予想外やなっ、。」

もっと霊が多く感じもキツくて、

危ない所やと思ってたのに拍子抜け。

山頂に着くと、そこは足場の悪い岩のような所。

景色は周りの山々を見渡せた。

「だぁー・・・疲れた。」

岩に腰かけると、大樹は防空壕のある場所の方に向かい、

「こっちの森だと思うんだけど・・・。」

俺も立ちあがって大樹の隣に立った。

目を閉じて意識を集中する。









戦死者の霊たち、

来させていただきました。

いろんな事情があって近くまでは行くことはできません。

成仏の仕方は、

気持ちを落ち着かせ、

自分があの世に行きたいと願い、

現れたあの世の方の話を聞いてそれを信じ、

一緒に向かう。

それが成仏の仕方です。








「カン・・・見て。」

大樹の言葉に俺は目を開けて森を見る。

自分達が居る山頂よりも少し低い森の一部に、

こっちを見る兵隊たちが居た。

「あそこか・・・。」

俺は手を振っては、笑み、両手を合わせて再び目を閉じる。







貴方達の存在、死のおかげで、

今の世があり、

俺たちが生きています。

平和に銃も持たず、

戦争にかりだされる事もなく。

本当にありがとう。

俺たちにとって、かけがえのない人でした。

そして、もうこの世は大丈夫。

次は俺達が守る出番です。

お疲れ様。







(ありがとう。)

急に聞こえた声に驚いて振り向く。

そこには、昨日来た兵隊の霊がほほ笑んでた。

「こんなんしか出来んけど・・・これで良かったんか?。」

(私は彼らに幾度も、あの世に行くように伝えて来た。
だが、言葉は堅い壁で遮られ通じなかった。
君たち、生きている者が、
心から、彼らの為に此処に来たというだけで、
彼らの壁が消えたのです。)

「でも、ここの防空壕へは、
遊び以外に戦争を考えてる人達がツアーで来ますよね?。」

大樹の問いかけに兵隊の霊は頷くも、

(気持ちは薄い。ただ、物珍しそうに見学をするだけ。
強い彼らだけを想う気持ちがないと成立はしない。)

俺は違和感を覚えた。

「アンタ・・・ホンマに兵隊か?。」

言う事が解り過ぎてる。

同じ兵隊やとして、こんだけ解ってたら、

あの世にとっくにこの人だけ行けてるはずや。

兵隊の霊は着物姿の男に姿を変えた。

(私は阿弥陀如来の国より、
此処の戦死者を任されている者です。
騙す形になってしまい申し訳ない。)

男は頭を深く下げた。

「どーりで。」

「阿弥陀如来は戦死者に力を入れていたしね。」

(この姿で彼らに話をしても、
全く聞き入れてもらえず、
同じ兵隊になることで、少しは話をしてもらえるように。
貴方達にまでこの姿で来たのは、
阿弥陀様がそうしろと言われたのです。)

仏の姿で俺らのとこに来て話すよりも、

戦死者として来た方が、

俺らの気持ちもより深く戦死者を想えるからか。

(これで、彼らもこの姿の私の話も聞いてくれる。
本当にありがとう。)






防空壕に行ったわけでもなく、

離れたその場所にただ行き、

想いの言葉をかけた。

たったそれだけの事が、

あの世の住人にとっては大きな事なんや。

「せやけど、女の霊とかは全然おらんやん。」

(それは、貴方の存在に恐れて出て来ないのです。)

男は大樹を見た。

「俺?。」

(貴方は蛇の国の方。
邪念の霊からすれば、恐ろしいと思うような存在。
貴方の魂を感じ取れば、
邪念の霊は引いてしまう。)

俺は笑った。

「あはははは!恐ろしいの欠片もないのに。」

大樹は呆気にとられた顔をして、

阿弥陀のとこの男も笑んだ。

「ま、良かった。
あの世も一人でも多くの霊が必要な時や。
彼らが地球を守る為に腰を上げてくれる事を願お。」











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