vol 295:罵倒






ドキュメンタリー番組で俳優の仕事をし、

現地の素人を集めて協力してもらって、

内戦の光景の撮影を始めた。

子ども達への協力は、

内戦をあまり知らない裕福に育っている子どもを集めた。

さすがに、経験済みの子どもを使うと、

忘れさせたい悪夢を再び呼び覚まし、

脅えさせ、また心を閉ざすのが目に見えてるから。

俺も下手ながら演技に没頭する。

顔には泥をわざと付けて、壁に隠れながらも、

大人たちの暴走や、

怪我人を見て、死体を見、

これが同じ地球で起ってることやって演技で伝える。

「カンさん、これはどうかと・・・。」

監督が俺のシナリオの一部に顔を顰めた。

「このドラマはドキュメンタリー含むですよね。
でも、神様登場ってのは・・・。」

実際に有り得ないと監督は言う。

「実際に有り得んやろか?
有り得るかもしれませんやん。
この話での光景は神は光で出したいんです。」

「いや、でも宗教ドラマじゃないですし、。」

「言う時ますけど、僕は無宗教です。
神がなんで登場か解りません?。」

シナリオを全て読んだはずの監督も理解してない。

「人間、恐怖や最悪な状況下に置かれた時、
大抵は神への疑問に侵される。
信仰の問題やなく、自然と神様ってなるんですよ。
全ての人がとは言わんけど、海外なら特に、
日本よりも神様は有名や。」

「現実的に考えて、。」

「それが現実。」

監督は押し切る物言いの俺に不快な表情を見せた。

そこに人の感情の強い俺は、

少し戸惑いもある。

でも、どう思われても通すしかない。

撮影が終わって顔の泥をタオルで落とす。

「お疲れ様。」

労わるように大樹が熱いコーヒーを持って来てくれた。

「まいるよ・・・ドキュメンタリードラマなのに、
神だのなんだの。
だいたい、ど素人に俺が指図されるってどうなの?。」

近くで聞こえる監督が助監督に溢す愚痴。

「自分で金出してるから良い気になってんすよ。」

「アイツ無宗教とか言ってたけど、
実は宗教団体の教祖だったりして。」

「アハハハ、怖いこと言わないでくださいよぉ~。」

カッとなる気持ちを抑えていても、

表情には素直に出してしまう。

「カン・・・ホテルに戻って休もう?。」

それに嫌でも気付く大樹とホテルに戻った。

何も話さない俺に大樹は、

「シャワー浴びておいで。
お腹減ってない?ルームサービスで何か頼んどく。」

気さくに話しかける。

「なんもいらん。」

一番身近で一番安心出来る人だからこそ、

100%素直な態度を出してしまう。

別に大樹にあたってるわけやない。

不機嫌やから気をつかわず不機嫌でいるだけや。

してる方はこの理由。

されてる方は、最悪。

シャワーを済ましてスウェット姿で部屋に戻り、

ベッドにダイブした。

「カン、俺売店で洗剤買ってくるね。
何かほしい物ある?。」

「・・・ない。」

「わかった。」

大樹が部屋を出て行って横向きに寝返った。

カーテンは閉められ薄暗い部屋。

眠い。

重い瞼に逆らわず目を閉じる。

眠いのに、そのまま睡眠に入らない。

何気に瞼を持ち上げて目をあけると、

目の前にひし形のお面のような物をつけた二人が居て、

二人で俺の顔を覗き込んでた。

いつもやったら起きて何やって聞くんやけど、

頭の中は空っぽで、ただ相手をジッと見返す。

そいつらは俺から離れると二人でコソコソ話てパッと消えた。

空気が重い。

人の霊か?

いや・・・なんでか霊って感じがせん。

妖怪?

それもピンとこない。

すぐに目を閉じて、また目を開ける。

テニスボールくらいの目の玉だけが二つ、

俺の顔の近くに浮いてて、

俺をジッと見てる。

白眼は血走っててジッと俺を見とる。

俺と暫く見つめあって、それも消えた。

そして俺は眠りについた。









「すみません、休んでる時に。」

「あぁ、大樹さん。」

「監督も中に居ます?。」

「えぇ、どうぞ?。」

俺は監督と助監督の部屋をノックして、

中に入った。

「カンさんは休まれました?。」

笑顔でカンの事を聞く監督に、

ヘラヘラしてビールを飲んでいる助監督。

「疲れてるみたいでシャワー浴びてすぐ寝ました。」

「そうですか。まぁ、撮影は結構肉体労働だから。」

カンを気遣うような言葉。

「あの・・・彼は勿論、このドラマの資金を半分出してます。」

「はい?。」

「貴方がたが、どう言おうとプロデューサーと、
カンに雇われてる身な事を忘れないでください。
プロデューサーはカンに全権利を与えてるのは知ってますよね?
彼の想いのままに撮影していくと。
貴方たちはプロで、ど素人のカンに、
助言はしても、それを却下されたからと言って、
文句や悪く言うのは勝手だ。
大人として、人として、
相手がいるかもしれない場所で言うのは、
どうなんです?。」

「いや、別に俺たちは何も。」

「聞こえてましたよ。
彼は無宗教で宗教団体の教祖でもない。
もしも、教祖だったと仮定して、
教祖だったら何が悪いんですか?
何か悪い事言ってます?カン。
この作品はカンにとって、
真面目に伝えたい事の多い大事なものなんです。
それをどうか理解し配慮してください。
カンにはそれを言う権利がある。
ど素人しか思えないなら、
日本に帰ってくださって結構です。
プロデューサーは貴方を信頼し、腕を見込んでカンに紹介し、
カンも貴方なら素晴らしい映像に出来ると思って、
抜擢したんです。
失礼します。」

売店で洗剤を買って部屋に戻るとカンは寝ていた。

布団もかぶらずに。

抱き上げて布団を捲りそこに寝かせ、

布団をかけて頬に口づける。

「カン・・・俺にはこんな事しかしてやれない。
でも、守るから。」










次の日、撮影が始まる前に俺の所に、

監督と助監督が来て頭を下げる。

「カンさん、すみませんでした。
ど素人とか言ってしまって。
この番組の主旨はカンさんの想いだと、
プロデューサーからも聞いてて、
シナリオを読んで俺も加わりたいと思っていたのに。
自分のプライドが何かを考えさせられた。
神様が出るシーンは光でしたよね?
そこの構成を考えたんで終わってから見てくれませんか?。」

「え・・・あぁ、うん。」

昨日とは真逆の監督と隣で真顔の助監督。

「なんや・・・どないしたんやろ。」

気持ち悪くて大樹に話しかけると、

大樹は笑んで言う。

「さぁ。でも、プロデューサーとカンが、
選んだ人だから、理解も早かったんじゃないかな。」







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