vol 291:山登りの意図






あと一歩・・・。

あともう一歩で・・・。

「ハァハァ・・・つ・・・い、た、。」

山頂にやっと辿り着いた。

見える景色は、岩だった山々に囲まれ、

下には川が流れる。

絶景だ。

俺の体は傷だらけで、泥だらけで。

立っているのもやっとの状態で。

(どうだ?。)

「どうって・・・感動よりも体が岩みたいだ。」

俺は小角にクシャっと笑んでその場に腰を下ろす。

(予想していたよりも早かった。
上出来だ。)

小角は俺に手を差し出した。

俺は不思議に思ったが、

小角の手を掴むとグィっと引っ張られて立たされる。

(では、山を降りよう。)

「えぇ!もう?!。」

小角は頷き先に降りて行く。

休む間もなく、岩のような体で山道を降りる。

登るよりも簡単に思える下り道。

でも、気を抜くと転げ落ちてしまいそうなくらい、

まだ、俺の体は重りをつけられたまま。

前のめりになると転げ落ちる。

だから背中に力を入れて背を反らせると、

今度は後ろに倒れそうになる。

登りは下半身、下りは上半身。

気合いを入れすぎると、

すぐに疲れは増して疲労が半端ない。

このコントロールが出来ず、

そうなると、苛立ちに変わり、弱音が生まれ、

精神力が疲労しだす。

一歩一歩が危険で、生身の体じゃ命取り。

生身の体ではない状態でも、

恐怖や感覚や結果は同じ。

全てを身につける上で、

(そう・・・この修行は霊力、
気力、バランス、精神力、全てが総合で一気に鍛えられる。
荒業とも言えよう。)

単の山登りに見えるこの過酷な修行。

単純な事は何ひとつない。

また1年が人間界で終わろうとしている。

もう俺たちには大晦日を感じることも、

新年を祝うことも、出来ないだろう。

人々が1年を振り返り、

人々が新たな年を祝う頃、

目には見えない場所で、

幾度も年を振り返り、祝えるようにと、

皆が必死で修業と、困難に立ち向かっている。

この事実を生きている人間はどれだけ知っているのだろう。






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