vol 288:鬼女






(荼枳尼よ、控えよ。)

(大日如来様!。)

(荼枳尼よ、この者は私の使者。
疑わずとも良い。)

(はい・・・。)

大日如来は我に視線を向け、

我は頭を下げて会釈し、

「荼枳尼、我を自然にしか還れぬ者のところに、
連れて行って欲しい。」

(・・・わかりました。)

大日如来は我の肩に触れ、すぐに姿を消した。

荼枳尼は我にも膝まづいたまま。

我は彼女の元に歩み寄り、

腕に触れて立たせる。

(・・・。)

「我は使い。ソナタと同じ身なのだ。
我にはソナタのありのままの姿で良い。」

荼枳尼に笑んでそう言うと、

荼枳尼は少し落ち着いたのか、

我にやわく笑んで返した。

(すぐに行くのか?。)

「うむ。時間がない。」

荼枳尼が白狐に視線を送ると、

白狐は荼枳尼の前に行き、そこに荼枳尼が跨って背に乗る。

我の前にも1匹の白狐が同じように前に来た。

(その子に乗るがいい。)

我は白狐に跨って背に乗る。

(行くぞ!。)

荼枳尼の声と共に、白狐が走りだした。

(なんと呼べばいい?。)

「何を?。」

(ソナタの名。)

「あぁ・・・仲間にはシロと呼ばれている。」

(仲間がいるのか。)

「お前にはおらぬのか?。」

(我の仲間はこの子たち。)

荼枳尼は走る白狐の頭を愛しそうに撫でた。

「神々の中にはいないのか?。」

(我を神と思ってくれる者はいない。
人間と獅子の間に生まれた奇形児。
人の肉を食らう鬼。)

自分の事を語りだすと、

容姿は青い肌の女へと化す。

「何故、人の肉を食らう。」

(牛ヤ鳥ノ肉デハ満タサレヌ。)

荼枳尼の横顔は冷たく見えた。

人の世に降り、白狐が足を止めた場所は川の縁。

そこには死んだばかりの猪の死骸があった。

我は鬼から降りて、その猪を担ぎ上げる。

「そこから山に入って土へと還す。」

我が歩きだすと鬼が横を歩いた。

(ナゼ我ガ子ニ乗ラヌ。)

我はその問いかけに少し笑んで顔を左右に振り、

「この子も生きた鬼。我だけでも重いものを、
なるべく疲れされせてやりたくないのだ。」

(・・・。)

荼枳尼は鬼から降りた。

そして共に歩き始める。

彼女が肉を食らうのは、生きる為にどうしようもない事。

それを咎められ、鬼女と扱われ、

世に反発して生きるしかなかったのだ。

根は、優しい女。

ただ、善悪の判別を教わってないだけだと我は思った。

荼枳尼が元の姿になると、

白狐たちも鬼の容姿に変わり地面を這うようにしてついてくる。

「ここらで良いだろう。」

石を掴むと地面を掘りはじめた。

しかし、一人では到底時間もかかる。

「すまぬが、手伝ってもらえぬか?。」

我は鬼に頼むと、鬼は荼枳尼を見た。

荼枳尼が頷くと鬼たちは土を掘り始める。

我も一緒に掘る。

見ていた荼枳尼も気づけば手伝ってくれていた。

死骸の穴に寝かせ上から土を掛け、

掘り起こされないように固く土を固めた。

1匹埋めるのに、ここまでの重労働。

先が思いやられると苦笑を洩らす我とは裏腹に、

荼枳尼と鬼は笑みを浮かべて、

荼枳尼は鬼の頭を撫で、鬼は荼枳尼に笑み。

まるで、仲間を知った頃の我を思い出すかのようなその光景に、

我はこれも荼枳尼の心を開かすための大日如来のお考えなのかと。

(シロ、マタ一人死ヲ迎エル。)

「うむ。行こう。」






                288      次のページ









287話に戻る
戻る

花手毬