vol 286:相手の居ない自分への戦い







「ねぇ、カン・・・ちょっと。」

「なんや?。」

「弥勒・・・なんだか傷が増えてない?。」

「ホンマや!傷だらけやん!。」







「神変大菩薩・・・ど、こまで来た?。」

辛い。

ひたすら、この言葉だけが心を襲う。

(まだ、半分以下だ。)

「っ!。」

ゆるかやな坂でもなく、

足をそれこそ、高く持ち上げなければ上れない足場。

何度も重い足を必死に持ち上げたことか。

それでも、半分しか持ち上がらず、

そのまま倒れてしまったり。

精神的にも限界を感じる。

半分以下のこの場所で、

小角にずっと見られ、

弱音も吐けないこの状態が更に自分の弱さを追い詰める。

「ハァ・・・ハァ・・・。」

(・・・。)

俺はとうとう地面に座り込んだ。

頭を下げて俯いて、

ただ、苦しい息を吐き出して。

小角はそんな俺を突っ立ったまま、ジッと見ている。

その視線が痛々しくて、

人間で居たのが長いせいなのか、

初めて矛盾した怒りが込み上げた。

「・・・情けないとか思ってるのか、。」

(・・・。)

小角は俺の言葉に返事をしない。

それが更に掻き立てる。

「弥勒菩薩が聞いて厭きれるよな。
こんなんでどうやって救う?。」

俺も、好きで弥勒菩薩になったわけじゃない。

水子になった俺を阿弥陀如来が選んだ。

物心ついた時から、あちこちの国で、

あらゆる仏や神の元で学び。

カンや大樹、シロに出会って初めて仲間を知った。

笑う事も。

楽しみも。

(普通の水子でいたかったか?。)

普通の水子。

地蔵菩薩の元で慈悲と愛の中で育てられる。

素直に笑い、

素直に泣き。

「俺も・・・普通の水子に変わりない。」

そう。選ばれただけで特別じゃない。

水子が学び大人になった、それだけだ。

「俺は何をちまよってる・・・。」

その時、不意に俺の体に体温と冷たい感触を感じた。








「カン、綿花に消毒液垂らして。」

「ん。しかし、弥勒どんな修行しとるねん。」

「ここまで肉体に傷がつくほどだもんね。」

「・・・弥勒~!。」







「弥勒~!。」

「カンっ!。」

カンの声が聞こえる。

頭を上げて辺りを見渡した。

声は全体から聞こえる。

「俺も正直~、自分に自信な~い!
せやけどなぁ~!お前が頑張ってるから、
俺も余計な事考えやんようにして~!
目の前の事をやりとげるようにする~!。」

「カン!カン!俺はっ、!。」

頑張ってない。

挫けてるんだ。







「あはは、そうだね。
きっと、今の言葉、弥勒にも聞こえてるよ。」

「聞こえてても、恥ずかしいもんやけども・・・。」







俺は地面を叩きつけた。

「クッソ!・・・。」

力を振り絞って立ち上がって両手も使って再び上り始めた。

(・・・人であろうが、霊であろうが、
仏であろうが、神であろうが、試練は同じ。
相手の居ない自分への戦いに、自分が勝つか負けるか。)

小角の言葉が心を強く締め付ける。

「俺は・・・俺に負けていられない。」


















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