vol 283:地母神






再び三輪山に戻った我は、

母様の元に向かった。

「母様。」

(おかえりなさい、白蛇神。)

相変わらずの優しい表情に安堵する。

「母様、昔兄様に、大地が強くなる術をお話になられました。」

(大地を強く?。)

「はい。生き物は死を迎えると肉体は土となる。
魂は旅立てど、大地には生きていた肉や骨が滲み渡り、
それが栄養となって大地が息づくと言う。」

(あぁ。その話ですか。)

「これは、大地が強くなると言う事でしょうか。」

(そうです。自然とは自然界の法則で息づくもの。
昔は人も皆、肉体は燃やさず土に還されました。
その肉と骨が肥やしとなり、
虫達も盛んになって土が生き返る。
そう教わりました。)

やはり。

「どなたに教わったのでしょう。」

(日本の大地の神。
イザナミです。)

「い、イザナミ? 黄泉津大神ですか?。」

母様は頷いた。

「イザナミはどこに行けば会えるのです!。」

(イザナミは出雲の国。
御墓山と言う山に、。)

「御墓山・・・ありがとうございました!。」

(シロ、。)

我は直ぐに出雲に向かった。

この世とあの世は紙一重の世界。

人の世にある出雲の御墓山が、

そのまま、あの世にも存在する。

山の山頂には国があった。

たくさんの麦で金色の絨毯の様。

門があり、そこは扉が閉まっている。

扉を押すも動かず、我は大声で叫んだ。

「イザナミよ!我は蛇の国から参った白蛇神と申す!
どうか、扉を開かれよ!。」

なかなか開かない。

しかし、暫く経つと遠くから女の声が返事をした。

(蛇の国・・・大神ではあるまい!。)

「大神の子、白蛇神!
母様に聞いて参った!。」

(・・・我に何用じゃ!。)

「大地の母のイザナミに、
大地の話を是非聞きたい!。」

門の扉はゆっくり開かれた。

開いた扉の向こうに、

黒髪の白い衣を着た女が立っている。

(我に大地の話をと?。)

我は深々と頭を下げた。

「是非、教えていただきたい。」

イザナミは警戒心が強いのか、

あまり誰も信用しないように見えた。

イザナミが歩き出し我もついて行く。

麦畑を共に。

「そなたは大地を創った大地の母。
我が母様にそなたが教えた話だが・・・。
生き物は死を迎えると肉体は土となる。
魂は旅立てど、大地には生きていた肉や骨が滲み渡り、
それが栄養となって大地が息づく。」

イザナミはクスっと笑い、

(お前はあの世の神に言われて来たのか?。)

「・・・何故知っている。」

(アーッハッハッハッハ!。)

「・・・何が可笑しい。」

イザナミの棘のある笑い方に我は顔を顰めた。

(ハァ・・・今人間界は哀れなものよのぉ。
人間は我らを忘れ、好き放題に壊しておる。)

「・・・。」

(お主、大地が救われると思うのか?。)

イザナミは我を見た。

「今の人間は審判によって、多くの者が、
命を失くす。選ばれた者のみが、。」

(フン、その様な事・・・同じ事よ。
そうやって、人は過ちを繰り返し、
再び、忘れていくのだ。)

その通りだ。

「しかし、見捨てるわけにはいかぬ。
そなたの子孫ではないか。」

イザナミの表情が変わる。

それは痛々しい程に、

我が子らを思う母の顔。

(・・・生き物は死を迎えると肉体は土となる。
魂は旅立てど、大地には生きていた肉や骨が滲み渡り、
それが栄養となって大地が息づく。
土の肥やし。)

「それは!それは、死人を土にそのまま埋めれば、
大地は強くなるのか!。」

イザナミは小さく頷いた。

「しかし・・・しかしそれでは・・・。」

死人を作れと言っている様なものではないか。

その様な事・・・我には出来ぬ。

我はその場に座り込んでしまった。

両手を顔に当てて俯き。

(・・・お主、自分でそれだけの死人をと思っておるのか。)

「・・・我には出来ぬ。」

(ハハ・・・愚かな。)

イザナミは我の肩に触れてしゃがみ、

麦を指差した。

(お主は手を下さぬとも、
死人はこれから増えるではないか。
お主は言うたであろう?
人間は審判によって多くの者が、
命を失くすと。
それが意指している事は、
放っておいても大地に還ると言うこと。)

そうか。

「しかし、今の人間は火葬にし、。」

(この間の地の揺れの際、火葬にし、墓に入った者は、
何人おる。
渋々、土葬にする事となり、
埋葬も出来ず、海の土となった者がどれだけおる。)

「・・・埋葬したくても出来ぬのか。
我は神に大地を強くしろと言われた。
我はどうすれば・・・。」

(・・・人は放っておいても時期と共に。
お主は、山々に死した生き物を土に埋めると良い。
神の中に荼枳尼と言う神がおる。
死を知り、死ぬまではその者を加護し、
死の直後に心臓をとってこれを食べるといわれる。
荼枳尼に力を借りると良い。
死する生き物の場所に共に連れて行ってくれるであろう。)

「荼枳尼・・・心臓を食らう神だと言うのか。」

(あの者は人間と獅子との間に生まれた子。
大日如来の指示で大黒天によって調伏され、
死者の心臓であれば食べることを許可されたのだ。
降三世の法門によってこれを降伏させ仏道に帰依させた。
大日如来の名を出すと良い。
さすれば、荼枳尼は従わざるおえぬ。)

「・・・イザナミ、ありがとう。」

イザナミの心は、過去のイザナギの仕打ちで、

信じると言う心を閉ざしている。

しかし、日本の母。

皆が苦しむ姿は心では望んでおらぬのだ。

我は、荼枳尼の元に向かう事となった。







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