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vol 282:進む
「俺はこのまま?。」
(そうです、お前はこのまま此処に残りなさい。)
急な展開に俺は戸惑った。
肉体に一端、戻る事もなく、
肉体を置いたままあの世に居る事になった。
「弥勒。」
カンが俺に近づき手を差し出した。
俺はその手を掴み、
「どこにおっても、違う事をやってても、
4人は同じ想いの元、ひとつや。」
「・・・。」
静かに、その言葉に頷くも寂しさが溢れだす。
俺とカンの手にシロと大樹も手を重ねた。
大日如来と黄泉の国に戻り、
阿弥陀如来の元へ。
(弥勒よ、お帰りなさい。)
「ただいま戻りました。」
いつもの優しい笑みで出迎えてくれた阿弥陀如来に頭を下げる。
(さて、大日如来。どこから学ばせましょう。)
ドキドキする。
あの世には慣れた存在なはずが、
まるで初めて来るかの様に。
(まずは、霊力を高める修行をしなければ。
天界の者は武器で戦うとの事。
我々にも具はあるが、
全ては霊力があってこその力。)
(では弥勒よ、そなたは密教の力を学ぶ為、
大日如来の国へと行きなさい。)
「はい。」
そして連れられた場所は険しい山の入り口。
「お前は・・・。」
そこには一人の男が立っていた。
(神変大菩薩。)
「役小角じゃないか!。」
(久しぶりだ。)
(弥勒よ。今から役小角、
すなわち神変大菩薩がお前の師の一人となる。)
「小角が?・・・ですか。」
(私がまた迎えに来るまで、精進しなさい。)
そう言って大日如来は姿を消した。
「ハハ、小角が俺の師とはな。」
俺が小角に笑むと小角は眉を下げ、
(元人間の私が菩薩様の師とは気が引ける。)
「・・・いや、お前は修行僧の中で一番の、
法力のスペシャリスト。
びしばしやってくれ。」
彼はもう菩薩なのだ。
(辛い修行になり、師となるには、
誓いをたてなければならない。)
俺は小角の前に膝まづいて、
地面に額を触れさせる。
(私を師と呼び、私の教えに全てを捧げると誓うか。)
「はい。神変大菩薩。
私は貴方の教えに全てを捧げます。」
小角は頷き俺の後頭部に手をあてた。
(立ちなさい。)
俺は立ち上がり、笑みを見せる。
(では、弥勒。山の麓まで行こう。)
小角は山の中に向かって歩きだした。
俺もついて行く。
山の中に入った途端に凄まじい重みが霊体である、
俺の体全部を覆った。
「なっ!。」
足が持ち上がらない。
(これが私の山。)
「どう言う、事、だっ。
あの世だぞ?!。」
霊の時空に重力は実際存在しない。
人間界の重力など比べ物にならない。
「こ、れはっ・・・俺だ、け?。」
(まさか。私にも同じだけの力が加わっている。)
小角は普通に立ち俺を置いて山道を歩く。
道という道ではなく、山の中だ。
「ふ!ぬぅぅぅぅぅ!。」
どれだけの鉛をつけたんだ、
と言うほどに重い足を持ち上げて歩く。
だが、足だけじゃない。
体全体にだ。
片足に何分かかって前に動かしてるのだろう。
少し離れた所で小角は俺を見、
顔を左右に振って、
(長くかかりそうだ。)
とてもじゃないが、麓まで行けるわけがない。
(行けぬと思った時、
そこで全てが終わってしまう。
弥勒よ・・・今お前は終ったのだ。)
俺はその言葉にカッとなった。
「行く!!!!。」
そう、行けないと思った時点で行くと言う思いが終わり、
カンやシロ、大樹の想いも終わってしまう。
行かなきゃ。
行かなきゃ。
(そう・・・行かなければ。)
「おぉぉぉぉぉ!!!!!。」
唸り声を上げて一歩一歩を踏みしめて、
俺の過酷な修行が幕を開けた。
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