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vol 271:始まりの欲
神使いは神から言われている。
けして、人間に話しかけてはならない。
他の神使い達は、神の言葉に忠実で、
そこに欲や知恵もなく、
ただ、神の御心は絶対の意思でしかない。
その中で、欲や知恵を育んだ神使いはルシファーだった。
神もそれには気付いていて、
人間と神使いを試す事も視野に入れていたのだ。
ルシファーは神の予想通りに、
自分が創り出した形、
蛇になり、女に近づいた。
蛇は女に言う。
「園のどの木からも食べてはいけない、
などと神は言われたのか。」
神は園の中央に、
命の木と善悪の知識の木を生えさせ、
その他にもいろいろな木を生えさせた。
神は人に言う。
園の全ての木から取って食べなさい。
ただし、善悪の知識の木からは、
けっして食べてはならない。
食べると必ず死んでしまうと。
女は蛇に答える。
「私たちは園の木の果実を食べても良いのです。
でも、園の中央に生えている木の果実だけは、
食べてはいけない、
触れてもいけない、
死んではいけないからと神様はおっしゃいました。」
ルシファーは死は塵の意味。
神の意志を奪う人間が死ねばいいと思う。
蛇は言う。
「けして死ぬことはない。
それを食べると目が開け、
神のように善悪を知るものとなることを、
神はご存じなのだ。」
女が木を見ると、
その木はいかにも美味しそうで、
目を引きつけ、
賢くなるように唆していた。
女はその誘惑に負け、
その木の果実を取って食べ、
一緒にいた男にも渡したので彼も食べた。
二人の目は開け、
自分たちが裸であることを知り、
二人はイチジクの葉をつづり合わせ、
腰を覆うものとした。
神はそれを見ていて、
顔を左右に小さく振った。
やはり、どれだけ無知なものを創れど、
そこに欲は存在するのかと改めて解る。
誘惑に負けることなく、
自分の信じる者への忠誠と、
信仰の脆さを痛感したのだ。
その日、神が園を歩く音が聞こえてきた。
人は主なる神の顔を避け、
園の木の間に隠れると、
神は男を呼ばれた。
「どこにいるのか。」
男は答えた。
「貴方の足音が聞こえたので、
恐ろしくなり隠れております。
私は裸です。」
「お前が裸であることを、
誰が告げたのか。
取って食べるなと命じた木から食べたのか。」
男は答えた。
「貴方が私と共にいるようにしてくださった、
女が木から取って与えたので食べました。」
神は女に言う。
「何ということをしたのだ。」
女は答える。
「蛇がだましたので食べてしまいました。」
ここで、神は思う。
善悪の知識の身を食べて身についたのは、
たった一人の同じ生き物を庇う事もせず、
あるがままを恐れる者に告げ、
自分の身を庇う事。
嘘は存在しなくても、
守るということは存在しなかった。
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