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vol 266:サタンの惑わす力
エルサレムにある立派な建物。
俺は初めて兄である主が大きな役目を果たした場所を踏んだ。
ここが終わりと始まりの地。
「人の居る気配はないな。やっぱり入るのは、。
カン・・・。」
俺は弥勒のそんな言葉を無視して、
中へと進む。
普通なら閉まっているであろう、
大きな門をゆっくり押してみた。
ギギギギ。
「開いた・・・。」
弥勒と大樹は驚き、
大樹はすぐに中に入ろうとする俺の手を掴んで、
一緒に中に入る。
「サタン・・・。」
やっぱり居た。
ロウソクだけの薄暗い部屋で台の上に座っている。
見た目は肌が黒く金髪の青年。
「サタン、貴様!。」
弥勒は目を見開いて声を荒げた。
「弥勒?。」
弥勒の声色と顔色に疑問を持った大樹が声をかけると、
弥勒はうつむいて握り拳を地面に向けて作り小さく呟く。
「サタンが座っている台は・・・。
主の聖骸に香油を縫った大理石板だ。」
「っ!。」
弥勒の言葉を聞いて、
主が苦しみ息絶えたそこに、
サタンが尻を乗せて座っていることを知った俺は、
カッとなってサタンに駆け寄り胸ぐらを掴んで引きづり下ろす。
「アハハハ!痛いよカン。
何をそんなにムキになってるんだい?。」
「ここだけは・・・汚すことを俺は許さん。」
そんな俺の発言にサタンはクスりと笑い、
「汚す?フフフ・・・僕が?
アハハハハ!。」
大声で笑うサタンを弥勒も大樹もシロも睨みつけた。
「ここはもう穢れてるさ。
知ってるかい?
ここは今5つの宗派で守られている。
でもねぇ、神の子が自らの命で救ったこの場所で、
守り合っている信者が、
この場所で、殴り合いの暴動。
僕が穢す前に、人間が既に穢してる。」
サタンは両手を広げてほくそ笑む。
「そうやとしても・・・その石板に尻乗せる奴はおらんはずや。」
「ククク・・・まぁねぇ。」
少しの沈黙が流れる。
その間、思うのはこんな形で此処に来たこと。
もっと、じっくり此処に触れたかった。
「それで、僕に会いに来た理由は?。」
「お前を・・・阻止しに来たんや。」
「阻止?何を?どうやって?。」
その答えは俺達には解らない。
「どーせ、肝心な事を言われずただ信じて来たってとこだよね?
神のやる事は何も変わってないねぇ。」
悔しいけども、そこはサタンと同意見。
「試されて試されて・・・いい加減嫌になんない?
散々あの世で菩薩の子として、
未来、人を救うために幼い頃から修行をさせられて、
救うと聞かされていた事が、
死んだ人間の魂の救済。
生きた人間を救わなきゃ、死んだ人間なんて、
救える奴はたくさんいる。
初めからそう言われてたら、悩む事も傷つく事すらなかった。」
サタンは弥勒に視線を向けた。
「蛇と言う立派な生き物。
それなのに、醜いって人間に嫌われ、
それでも人の幸せの為に努力をする親の元で育って、
そんな親を尊敬して。
人間にそう思われるのはまだしも、
宇宙の神々にさえ、邪険に扱われ、
罵倒されて。
純粋に愛してる人とも引き裂かれそうになってる。
愛を語り続け、
人間に愛を教えて来た神々に。」
大樹に視線を向け、
「兄は国よりも自分たちの国を認めない神の子に惚れて、
汚らわしい、醜いと嫌がる人間に自ら志願してなって。
母親はそれを易々認め。
兄がいないから自分がしっかりしなきゃって。
頑張っても頑張っても、
蛇たちの態度は、ただ大神の子というだけでしか頭を下げない。
誰も本当は寂しくて自信もなく、
不安な自分を見ようとしてくれず。
しまいには感情を表現する仕方まで忘れてしまって。
それでも、兄のため、母のために、
自分も人間に降りたのに、
救おうとしている人間の馬鹿な行い。
救う価値なんかないのに。」
シロに視線を向け、
「欲までもが愛らしく、
好奇心も行動もあって、
ただ、自分が知りたい事をしているだけなのに、
全てをおかしな子と言われ続けてきた。
大好きな父は、
大好きな黄泉の国を嫌い、
いまだに本音は神は自分だけだと思っている。
特別な愛は一人だけだと。
でもすべての者を愛したい気持ちもあって、
その境界線が解らない。
こんな自分を愛する人に対して、
こんな自分には勿体無いと今でも思ってる。
愛しい人が悲しもうが、
いつ死んだっていいとも思っていて、
でも肝心な時に本当にそう思って命を賭けられるのかが、
不安で仕方ない。」
俺を見た。
弥勒も大樹もシロも視線を落とし、
下唇を噛みしめた。
これがサタンの惑わす巧みな言葉の力。
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