『巨人フィンの物語 北欧・日本 巨人伝承の時空』(三弥井書店、2024)ご感想

【2024年9月19日掲載】
タイトル、一冊を通して中丸さんが読者に伝えたいことが、表紙でのタイトルデザインも含め、しっかりと形象化されているなと感じました。「巨人フィンの物語」の部分の夜空に重なる色合いが絶妙ですね!文字の二重ふちが、柔らかい黄緑から柔らかい茶色に左から右に変わっていくところなど、繊細さを感じました。
 絵本は読みやすく、まず核となる物語をすてきな挿絵と共に愉しむことができました。「ルンドの教会の地下祭室に、石のフィンがいます。今日も、今も、いつまでも。」という締め括り方も、ご当地の絵本というおもむきがあり、ぎょっとしている顔のフィンの表情とともに(端っこの鼠もかわいく)、大変印象に残りました。
 解説は、子供の頃、自宅にあったブリタニカ大事典を読んでいるようなわくわく感がありました。「巨人フィン」を通じて、様々な知識や思考や解釈が様々な角度から交錯したり混ざったり、そして冴えのある繋がりが急に見えたりと、一冊の中に小宇宙があるような充実した書物でした。比較文学的視座が持つ柔軟な思考を、中丸さんは丹念に緻密に進めていて、しかも作品内容の根本的な理解に結び付くような解釈を導き出しており、文学や物語を読み拓くことの壮大さと喜びに溢れているように感じました。「愛」の扱い方の繊細さに、私はとても共感します。カモメの写真、とてもいいですね。(高校国語科教員)

【2024年8月5日掲載】
ふだんのような感じでページをめくり始めて、すぐさま大きな衝撃を受けました。確かに絵本でしたが、そしてフィンの居る世界に楽しく入り込んでいったのですが、これは中丸さんが力込められたご研究の厚みに支えられて初めて私たちの前に姿をあらわすこととなった、北欧の精神文化の厚みを伝える大きな「何か」だぞ!という感じ。圧倒されています。研究書の新しい形、と言ってもいいのではないでしょうか。(島根 田中瑩一)

今回の御本は、いろいろな点でとても驚かされました。一言で言えば、「研究成果のこんな発表の方法もあるのか」という驚きと感嘆です。
絵本は、挿絵も楽しく、平易な翻訳で物語世界にスムーズに入り込んでいける優れたものになっていると思います。細部にまで心配りが行き届いており、お話を聴いている者に優しく語りかけるような脚注の言葉遣いは、とりわけ秀逸に思いました。ご自身の撮影による豊富な写真や各種の図版は、絵本や解説を読み進める上での大きな助けとなります。正直、写真を見ているだけでも楽しいくらいです!
純粋に絵本として、小さな子どもたちも「巨人フィン」の物語を楽しめることはもちろん、中高生や大学生の若者たちにとっては、レポートなどを書く際の格好の資料・指南書となりますし、この本がきっかけで、学問研究のより深遠な世界の扉を開くことにつながることもあるでしょう。
さらには、私たちのような中高年(老年⁈)が、この本を読んだならば、もう一度学問探究への憧れや知識を求めることの喜びを喚起されることでしょう。(アルバニア文学研究者 小林久子)

巨人フィンの絵本物語を出発点に、北欧全体の文化へと話が拡がる一方で、日本における北欧神話受容が、その端緒から「進撃の巨人」へと至るまで詳細に論じられており、その独創的な構成もさることながら、論の展開の力強さ、説得力に感嘆いたしました。参考文献もとても充実しています。(北村卓)

進撃パートから読み進めております。本当に深い洞察、硬派でしかもテンポのよい文章、ところどころ先生のお人柄がうかがわれる配慮の行き届いたワーディング、茶目っ気のあるフレーズなどがちりばめられていて、読んでいてとても楽しいです。(淺野高宏)

「解説 北欧・日本巨人伝承の時空」が素晴らしいですね。神話とキリスト教、日本との関わりなど、幅広いアプローチがされてあって中丸さんの視野の広さを感じる解説だなと、すごいなと思いながらながめております。実際に物語の舞台を訪れてみたい気持ちにもなりました。(大学教員) 

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