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調理実演過去ログ:ホワイトエンサイン1/350巡洋戦艦フッドを作る
その10:艦尾上甲板と船体について
1999/09/27

はじめに

 前回の更新から7ヶ月、泥沼にますます拍車がかかってきました(;_;)。

 製作はやっと実艦でいう所の進水式状態までたどり着きました。製作そのものは例えば商船のスクラッチであったり、WLの船体修正やモールドの作り直しなど、「完成品」で示した工作方法の延長に過ぎません。STウッドやゴールドメダルのエッチングなど特殊な素材も使っていますが、大半の素材は田舎の模型店やDIY店で普通に入手できるものばかりです。困難の度合いでは、最初から最後まで素材と工作法に悩み続けた帆船Amerigo Vespucciの方がはるかにつらいものでした。

 ただ、学生だった当時は休日20時間ぶっ通しなどかなり集中して製作に当たれたのですが、現在は2時間持てば良い方で、年々体力と集中力が落ちているのは辛い所です。上部構造物には工作上の問題は恐らくないと思うので、何とか今世紀中には完成までたどり着きたいと考えております。

艦尾と艦尾上甲板について

 キットの艦尾で気になったのは、先端部分が完全にとがっている(実艦は若干水平面がある)ことと、艦尾舷側の外板の表現で、まずここから手を付ける事にしました。

 このうち第4砲塔基部付近から艦尾方向に伸びている舷側外板のモールドは、それ自体がオーバーモールドである事に加えて位置にも疑問があります。外板の下側のラインが艦尾上甲板のラインに同じとするキットの解釈は、舷窓とのバランスも含めて Anatomy....HOODの掲載図面に従ったと思うのですが、手持ちの写真を見る限りでは喫水線のラインに平行で舷窓もキットのものより小さい感じを受けます。予備錨のホースパイプの出口の穴の表現と合わせ、実艦写真とキットを比べると艦尾付近の印象があまり良くありません。そこで、外板モールドの下側に 0.3mmプラ板を貼って喫水線のラインに合うように修正し、舷窓も全部埋めて新たに開け直すことにしました(位置も若干修正しています)。艦尾先端は中心線に沿ってレザーソーで切り込みを入れ、金属板をこじ入れて切り込みを開いた上で 0.5mmプラ板を差し込み、パテ盛り整形して仕上げています(これもWLの艦首整形の要領に同じです)。この際に艦尾側面のラインも若干修正しています。

 後部上甲板は艦首同様にSTウッドの細切りで甲板を貼り、各モールドを付けてゆきます。第3主砲塔基部の角形吸気口もキットのモールドでは表現が弱いので削り落として自作しましたが、これも多少モールドを誇張気味に作っています。第4砲塔の直後にあるキャプスタンはキットのモールドには無いものですが、資料の写真や図面で有ることがわかるので、田宮1/350プリンス・オブ・ウェールズの艦首キャプスタンの部品に手を加えたものを付けています。途中経過で形状が判らないと書いた3番主砲基部右舷側の装備品は、正確な形状も用途も判らないので結局キットの電動ウインチのパーツをそのまま接着する事にしました(実艦では明らかに形状が違います)。

 艦尾の予備錨は、Anatomy....HOODの解説に依れば1927年に後部マストの左舷側のシェルターデッキ上へ装備位置が変更されたとあり(写真では未確認)、それ以降ホースパイプだけが残された形になりました。艦尾端の穴は最後まで閉鎖されずに残っていたと思うのですが、甲板上の穴は上述の解説では 1929-31年の改装でPortable covering plateが装備されたとあります。カバーの形状は今一つはっきりした資料がなく、またカバーが掛けられていない事がはっきりわかる乾ドック入渠中の写真もありますが、結局艦首の副錨と同様にプラ板でふさぐことにしました。
 予備錨のホースパイプの穴の前方にある長方形の鉄板状のモールドは、何に使うものか全くわかりません。これに関しては写真で判断できる形に留め
ています。

左・上甲板艦尾端部、右・3番砲塔基部周辺。

角形吸気口、3番砲塔基部右舷側のウインチ、
艦尾端ホースパイプの閉鎖カバー(ぼけた写真でごめんなさい)、
艦尾端フェアリーダーの装備位置などに注意。

工作台と艦底について

 艦底の製作に掛かる前に、工作用の台を作ります。塗装終了後は船体を直接触ることができなくなりますし、船体の仕上げも台に固定して行った方が作業は楽になるので、ここで使い捨てのものを一つ作る事にします。

 行きつけのDIY店で910*200*10mmの軽い板(材質不明)を選び、船体を固定する台は高さ25mmのあおりゴム(開けたときに壁に強く当たらないようにドアの下側に取り付けるゴム)を使いました。ただし、ゴムを直接船体に接すると表面を痛める可能性があるので、ビニール袋をかぶせてあります。船体には基礎工作の段階で飾り台用のビスを通す穴を開けているので、その部分と、あと船体を逆さにして2,3番主砲基部の中心位置で固定できるようになっています(船底の作業は逆さ向き固定で行っています)。
 最後に板の両端に取っ手を付けます。私自身が取り扱い易いようにするのと同時に、これで私以外の人が掃除などで製作中の模型を移動させたい時にも簡単に持ってゆくことができます。

 船底の問題点として、キットのエディプレートとシャフトブラケットの部品が全然合わないのは[その3:]で述べました。当時は側面で見た時に直線になるように半ば無理矢理合わせたのですが、実艦の建造中やドック入りの写真と比較すると船底から突き出したようなエディプレートの表現が全然出ていない上に、模型を写真に撮影して見ると違う角度からではシャフトが直線になっていないのが一目瞭然で、しかたなく一旦付けたキットの部品を削り落として自作する事にしました。
 自作の方法は海文堂刊「軍艦の模型」で示された手法通りで、船体に直径4mmの穴を開け、3mmのプラ棒の外側に0.3mmのプラ板を巻いて中心部に穴を開けた船尾管を船体の穴に通して固定させ、外側にパテを盛ってふくらみを出して仕上げています。エディプレートからブラケットまでのシャフトの直線はこれで出すことが出来ましたが、失敗放棄と紙一重の神経質な作業に加えて中心を太く先を細くする円筒状の造形は大の苦手で、正直言ってこのような作業は二度とやりたくありません。
 エディプレートの形状は図面の側面とは大体一致しているのですが、
 「British Battleships of World War Two」(P61)
 この建造中の写真と比較すると、ふくらみを若干誇張気味に作ってしまったように感じます。

 シャフトブラケットの支柱はもっと細いもので、形状も「エ」の字型に近いのですが、強度上の都合で手を付けていません。厳密に作ろうとすれば自作になりますが、エディプレートで疲れ果ててしまったのでそのまま通してしまいました。まさかこんな部分を修正するとは思ってもみませんでしたが、事前の検討が甘かったのも事実で、この点は今後の課題の一つです。

艦尾右舷側。左が修正前、右が修正後。
艦尾先端とホースパイプの穴の形状、
外板と舷窓の位置などに注意。
 

舷外電路について

 フッドの舷外電路は1940年3月〜5月の改装で装備されたものですが、これ以降の全景を明瞭に示した写真は手元の資料にはなく、装備位置に関しては図面に従う他はありません。キットにもエッチングパーツが用意されていましたが、結局使わずにプラ板の細切りを貼る事にしました。

 Warship Profileには舷外電路が部分的に写っている写真が3枚掲載されていますが、1940年8月ジブラルタルでの水泳会を撮った2枚のスナップ(P153)から左舷艦首側の装備状況がわかります。これによれば複数の電線を2つの束に分けて並べて取り付けた形でそれ自体はキットのエッチングパーツの表現に近いのですが、電線はむき出しのままでカバーは無く、艦尾方向から見てベルマウスの手前(Clump Catheadという、錨を舷側へ一時的に引っ掛ける装備品の有る部分)でうねっていて、一部で電線の束の間隔が開
いているのが認められます。
 ところが、1940年10月撮影の外舷塗装中の左舷中央部の写真(P164)では、舷外電路の上にカバーが被せられているように見えます。カバーが電路の一部にしか装着されていなかった実例はキングジョージV世に認められますが、船体中央部にカバーを掛けて、より波浪の影響の強い艦首尾に無かったとはちょっと考えられません。

 船体外舷に舷外電路を張った英国戦艦は、他にネルソン/ロドネイがあります。これは装備されていた時期がはっきりとは特定できないのですが、1941年撮影とされる写真、

 British Battleships of World War Two(RODNEY : P270)
 man o' War 3 Battleships RODNEY and NELSON(RODNEY : P13,47)
 丸グラフィック・クオータリー22 写真集英国の戦艦(NELSON : P50)

 これらの写真では、カバーの付いた舷外電路が外舷に装備されているように見えます。以上の根拠から、フッドの舷外電路も同様に全体にカバーが掛けられていたものと判断して表現しました。実艦には一定間隔で船体への留め金が付いていたようですが、モールドがうるさくなるように感じたのでこれは省略しています。

艦首部舷外電路。
ベルマウスの付いた部分はブルワークが付いて
上方に避けた形で装備されていますが、
ベルマウスの数は右舷と左舷では異なるので
ブルワークの長さも異なります。
艦首先端底部の形状にも注意。

塗装について

 まずMr.サフェーサー1000スプレーを吹き、大きいキズをパテで埋めると共に400番の水ペーパーで磨き、再びスプレーを吹いて600番のペーパーで磨き、再度スプレーを吹いて下地を整えた後、塗装に掛かりました。船体と船底の接合やその後の作業の過程で船体にはかなりペーパーを掛けていたので、レジンキットに必要な船体の洗浄は行ないませんでした。
 製作記のその6:で艦底色はグンゼの29番を使うつもりだと書きました。しかし色調を確認するために1/350の図面に塗装してみた所、どうも茶色が強くて暗過ぎる感が否めません。軍艦色に比べ艦底色の考証はほとんど見掛けないし私自身はっきりした根拠がありませんが、単純に模型として見た場合もっと赤が強い方が見栄えがする印象を持ちました。そこで散々考え込んだあげく選んだのは、タミヤスプレーカラーのダルレッド(TS-33)でした。

 缶スプレーは空気圧や特に吹き出し量の調整ができないため、子供の昔から苦手だった(というか全く使わなかった)ものでした。しかしこの色には該当する筆塗り塗料が無く、やむなく缶スプレーをそのまま使う事になりました。予想以上に塗料の飛び散る範囲が広く、エアブラシの感覚で敷いた新聞紙の外側まで飛び散りベランダに赤い直線迷彩までやってしまいましたが、塗装自体は何とか仕上げる事ができました。ただ、模型では赤が強過ぎた感も否めず、艦底色の選択も今後の課題の一つです。
 軍艦色は舷外電路の位置でマスキングしてグンゼの337番を吹き、舷外電路から上は筆塗り、喫水線の黒帯はその後に塗装しました。黒帯の幅は資料や写真から判断する限り2.5mm前後の幅だったのではないかと考えていますが、黒帯の上端を2段になっている舷側装甲板の下段の位置に合わせると、その中心が喫水線の位置に来ません。そのため、田宮の1/350KGV級では5mm(実艦で1m75cm)という解釈が取られていた事もあり、それに従う事にしました。

この艦には黒帯の上端一杯まで喫水が来ている写真が残されています。
艦尾の乾舷が非常に少ない事は模型でもわかりますが、
荒天時は後甲板を常時波が洗う状態で、
底深い横揺れをするようになったと戦記には書かれています。

 以降、次の項にて。
 
追記:
ネルソン/ロドネイの舷外電路に関しては「浪漫工作」のコウ中村氏、「OGI Web Site」の荻原博也両氏より貴重な助言を頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。