表紙 このウェブページについて 連絡板 ブログ(別窓表示) 完成品 調理実演 キット雑感 リンク 自己紹介
調理実演過去ログ:ホワイトエンサイン1/350巡洋戦艦フッドを作る
その7:シェルター甲板について(2)
1998/07/20

はじめに

 現在は多事多忙でなかなか手が付けられませんが、いずれ学生時代に人に薦められて読んだ本の紹介もやってゆきたいと考えています。しかし、航空機やキャラクターに比べて船の模型には基本的な作り方を示した本(帆船なら「帆船模型テクニック」、軍艦なら「軍艦の模型」共に海文堂刊など)しかありません。あとはモデルアート社から1/700WLに関する別冊が数点出ている程度です。

 ただ、それは「ある面」ではやむをえない事だろうと感じています。漫画家や同人作家へのノウハウを記した本を読んでその通り実行しても一流作家にはなれないのと同じで、「基礎知識」をつかんだらそれ以降のテクニックと称するものは全て、作る人の応用力と独創力の積み重ねで自分で作り出してゆくものだと思うからです。模型には大なり小なりそんな面がありますが、スケールの小さい艦船には特にかかる傾向が強いと感じます。表現も工作法も無数にありますし、ネタは東急ハンズや田舎のDIY店にもごろごろ転がっています。それをどう応用して模型に反映させてゆくかとなると、それは教えればできるということがらではないと思うのです。

 失敗を恐れずに、製作法も画一的にならないで、使えると思った素材や道具は片っ端から試してみる。「好奇心」が唯一のテクニックだと、私は考えています。

シェルター甲板について(続)

 キットのシェルター甲板は細部までよく再現されたものですが、前にも書いたように、
  • 4ヶ所ある艦首楼甲板へのラッタルと開口部が再現されていない
  • 木甲板をSTウッドで貼るため、その上のモールドを全部削る必要がある
 これらの理由から図面を描いて丸ごと自作する事にしました。この際に、
  • 甲板の端の部分の表現
  • 甲板の裏側のフレームの表現
  • 艦載艇の製作と架台の取り付け位置の確定
  • その他、シェルター甲板と長船首楼甲板中央部のレイアウトの再検討
この点も同時に行う事にします。このうち「甲板の端の部分」とは、
 「Warship Profile」(P164)
1940年12月撮影とある船体中央部の写真を見る限り、シェルター甲板の両舷側方向の端には一部張り出したような形で下側に逆三角形のサポートが付いている部分が見受けられます。これは、
 「Monografie Morskie HOOD」(P64)
多少不鮮明ですが、この写真からも確認することができます。

 シェルター甲板はプラ板で作りますが、長さが約25cmもある上に船体の中央部に付くものなので、1mm厚のものを使ってもそのままではとても強度が持ちません。加えて現在はその兆候が見られないとはいえ将来経年変化で船体に歪みが起きた場合、この部分に無理が掛かる事は充分に予想されます。そこで、甲板は0.3mmプラ板の3枚重ねとし、2枚目の中央部に0.3mmの真鍮板を挟んで補強する構造を取る事にしました。船体との接着は船底同様、エポキシパテ+瞬間接着剤+ピス留めで行う事にします。

 甲板の切り出しですが、昔は拡大縮小どころか図面を材料にトレースするのも一苦労でしたが、現在はパソコンという「文明の利器」があります。スキャナと高性能の熱転写プリンタがあれば、これを使わない手はありません。

 まず工作用の図面をスキャナで取り込み、熱転写プリンタで0.3mmプラ板に直接印字します。私が使用しているのはアルプス電気のMD-2000Jという機種で、プリンタに挿入できるものなら何にでも印字できる優れもの、加えて材料に熱がほとんど伝わらず水平挿入ができるため、このように極薄のプラ板を差しても変形する事がありません(一般に広く使われているインクジェット式のプリンタでは紙以外には印字できません)。印字が終わったら寸法を確認してカッターで切り出します。


 次にプラ板を切り出しますが、この際、原図より若干大きめに切ってキットの船体と合わせながら大きさを揃えてゆきます。次に0.3mmの真鍮版を大まかに切り出し、2液混合型のエポキシ接着剤を塗ってプラ板の裏側に接着し、廊下などの水平面に置いて木の板を載せ、その上に百科事典を載せて放置します。そのあと、真鍮版の貼ってない部分に0.3mmプラ板をサイズを合わせて接着し、更にその上に0.3mmプラ板を切り出してエポキシ接着剤を塗って接着し百科事典を載せて放置します。最後に端のすき間が空いた部分に液体接着剤を流し込んで仕上げます。

 シェルター甲板の形ができたら、甲板裏側の両端、開放部に当たる部分に0.5mmプラ板の細切りを接着して「縁取り」し、その後、裏側の外から見える部分に0.3mmプラ板の細切りを接着してデッキビームを表現します。また甲板から張り出している部分(3枚重ねのプラ板の1枚目だけを伸ばした形で切り出したもの)の裏側にも0.3mmプラ板でサポートを付けておきます。このデッキビームはかなりの「誇張」ですが、付ければ「らしく」見えますし、船室と甲板の接合面を目立たなくする効果もあります。

 裏側のビームを貼ったら裏側のみ塗装してシェルター甲板を船体に接着するつもりでしたが、船体の製作は船首楼甲板中央部にSTウッドを貼って多少の装備品を加えた状態で止まっていました。当初はこれで通すつもりでしたが、ここの考証と細部をもう一度考えてみる事にしました。

 まず、両舷側のブルワークの表現の弱さがずっと気になっていました。当初はシェルター甲板を貼ったらそれほど目立たないだろうと考えていたのですが、切り欠きの部分から割と見える上にシェルター甲板の裏側のフレームの表現と釣り合いません。そこで思い切ってブルワークを削り落とし、0.5mmプラ板でそっくり作り直す事にしました。接着と補強は裏側の補強材に当たる部分に0.5mmの真鍮線を足を出す形で付け、甲板の縁にドリルで穴を開けて真鍮線の足を挿し瞬間接着剤で固める形を取りました。強度上の不安はありますが、何とか付きました。この際にブルワークの縁のテーパーを伸ばしランナーで付けておきます。
 また、キットのブルワークと同時に表現が甘い塵捨筒のモールドも削り落としてプラ板などで作り替え、ブルワークの下側にモールドされているハッチもオーバースケールなのでこれも削って作り替えています。

 次に、船室のドアをキット指定の Wardroom doorsから水密戸(Watertight doors)に替える事にしました。これには明確な根拠は無いのですが、露天部に近い場所にノーマルのドアは考えにくかった、という事で取り替えました。ただし、シェルター甲板を貼るとほとんど見えなくなる部分なので、外側から見える数ヶ所のみとしています(ちなみに、キットの説明書には水密戸の使用指示がありません)。

 Anatomy....HOODに掲載されている竣工時や最終時の図面を見る限り、この船室には都合6ヶ所、エンジンルームへの吸気口があります。これも当初は手を付けるつもりは無かったのですが、結局それらしく作る事にしました。ただし、後部煙突直下付近の吸気口は竣工時の図面には無く、最終時の側面図にのみ描かれているものです。これも写真で確認する事はできなかったのですが、これはシェルター甲板を貼った後でも取り付ける事ができるので、とりあえず保留という事でこの部分のみ付けない事にしました。


仕上げた(というより見限った)長船首楼甲板中央部。
右端で下側に細く延びている白いモールドが塵捨筒、
ブルワークの左端の下に2組あるのがハッチ、
後ろの船室の4つの窓の両端にある四角いモールドが
エンジンルームへの吸気口です。

 
 以降、次の項にて。