『西部に賭ける女』(Heller in Pink Tights)['60]
『エルダー兄弟』(The Sons Of Katie Elder)['65]
監督 ジョージ・キューカー
監督 ヘンリー・ハサウェイ

 半世紀以上前の時代に、これぞ女これぞ男の象徴としてスクリーンに君臨したビッグネームの男女優による西部劇を続けて観た。

 先に観たのは、ソフィア・ローレンによる西部に賭ける女で、二年ぶりの再見となる映画だ。人物造形や人物配置にチグハグ感がつきまとい、場面場面はけっこう面白く観ながらも、残念ながら映画作品としては、ぼやけた印象が残った。手品師だか軽業師だかショーガールなのか定かでないアンジーことアンジェラ・ロッシーニ(ソフィア・ローレン)が、わりとお熱い恋人同士でありながら、求婚されつつも袖にしていた座長のトムことトーマス・ヒーリー(アンソニー・クイン)と紆余曲折の末に収まる艶笑譚としたものなのだろうが、少々ユーモア色に欠けたきらいがあるように感じた。

 オープニングのテロップでガンマンや無法者の時代と謳われ、ワイアット・アープ、ジェシー・ジェームズ、バット・マスターソン、ドク・ホリデイらの名を挙げて始める本作で、彼らに並ぶ人物配置として登場するメイブリー(スティーブ・フォレスト)に対して、「三十六計逃げるが勝ち」がモットーのようなトム・ヒーリーに敢えてアンソニーを配したうえで、乱暴で強引なメイブリーよりも控え目で寛容なトムのほうがいいと言わせて終えるアンチ・ウエスタン・スタイルが売りの作品なのだろう。だが、がさつな乱暴者として登場したはずのメイブリーが意外と紳士で男気があって、トムのほうに妙に僻みっぽいところが現われたりして戸惑い、作り手はいったい何をしようとしているのだろうと訝しんだ。おそらくは三角関係にスリリングさを与えるはずの運びなのだろうが、功を奏してはいなかったように思う。

 そのうえで、最も破天荒な乱暴者というか問題児こそが、タイトルになっている“ピンクのタイツのヘラー”たるアンジーということになるのであろうが、彼女とて劇団へのツケで散財したり、博奕のかたに自分自身を入れてみたり、メイブリーのカネを横領したりはするものの、逃げたり誤魔化したりはせず、最後にはきちんとケリをつけてヒーリーに劇場を持たせるのだから、問題児とばかりも言えない気がする。原題のhellerもオープニングテロップにクレジットされたhellionも、ともに乱暴者ないしは問題児といった意味合いのようだが、なぜ両者を違えているのか腑に落ちない感じのチグハグ感が象徴的に感じられた。

 それにしても、ヒーリー劇団が出し物にしていた『トロイのヘレン』のアンジーのステージ衣装の品の無さに失笑した。そして『マゼッパ』のほうでの美脚の露出もさることながら、両ステージにおいて見せていたソフィアのウエストの締め上げ方に恐れ入った。


 続いて観たのが、ジョン・ウェインによる『エルダー兄弟』だ。一度も登場することのなかったケイティ・エルダーの四人の息子たちの歳は、それぞれ幾つだったのだろう。父親のバスが何者かに背中から撃たれて亡くなったのが墓標からすれば1898年で、ケイティの遺品からすると1850年に結婚していたわけだから、大学進学を亡き母や兄たちから望まれている四男バド(マイケル・アンダーソン・Jr)が十八歳として、無法者ガンマンとして名を馳せているらしき長兄ジョン(ジョン・ウェイン)とは親子ほどに違っていそうで、妙に可笑しかった。

 父親同様に背中から撃たれつつも、一発じゃ死なないと強弁していた次兄トム(ディーン・マーティン)ともども、アウトローとして家を出ていて久方ぶりの帰郷だったようだが、トムはまだしもジョンには無法者感がまるでなかった。二人の兄とは違って末弟バドの傍にずっといた三男マット(アール・ホリマン)が最もバドの大学進学を望んでいる好漢だったように思うが、木片が刺さって呆気なく死んでいっていたのが、いかにもそれらしい運びだったように思う。

 久しぶりの再会で兄弟四人が親愛を確かめ合うセレモニーが西部劇によく登場する酒場で殴り合う喧嘩の如き自宅での乱闘だったり、川に末弟を投げ込んで縺れ合い、四人皆がずぶ濡れになる場面だったりするところに、ブルータリスト』の日誌に記した知性に憧れながらも獣性が優っている戦後アメリカの暴力性とのフレーズを改めて想起した。弟バドに託した大学への憧れと乱闘というわけだ。

 それにしても、二百頭の馬の買い付けを申し出たまま死んだというケイティは、“Big Wild Beautiful Woman”と呼ばれるらしいテキサス(メアリーがケイティの言葉としてジョンに伝えていた)に相応しい女傑だったようだが、あの馬たちはどうなったのだろうとか、随所に釈然としないまま謎が残る話ながら、どこか背筋が一本きちんと通っている物語として映って来たように思う。ほのかにジョンと心を通わせるメアリー・ゴードンを演じたマーサ・ハイヤーの知的な美貌に僕が魅せられたということもあるが、これまた背中から撃たれて絶命した保安官ビリー・ウィルソン(ポール・フィックス)や、判事だか保安官だか判然としないハリー、背中撃ち専門の町のボスたるモーガン・ヘイスティングス(ジェームズ・グレゴリー)といった脇役の人物造形がやはり利いていたからなのだろう。
by ヤマ

'25. 5.23. BSプレミアムシネマ録画
'25. 5.27. BSプレミアムシネマ録画



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