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江戸川乱歩の美女シリーズ(12話~16話) | ||||||||||||
テレビ朝日系「土曜ワイド劇場」
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最初に観たのは、『エマニエルの美女』。天地茂が明智小五郎に扮した美女シリーズを放映していることに気づいたのが遅く、第12作からの視聴となったものだが、思いのほか面白かった。犯人はてっきり姿を消した評論家の姫田吾郎(中条きよし)だろうと思っていたら、意表を突かれる展開に唖然。脚本は、ジェームス三木だった。 タイトルのエマニエルとは如何に?と思っていたら、納得の男遍歴と籐椅子だった。また、劇中、模様ガラスの隙間から垣間見えた夏樹陽子の小振りの乳房とボディダブルの女優の乳房の堂々たる量感の落差に笑った。昭和五十年代のテレビは、今のように世知辛くなくて好いなぁと改めて思った。本作の原作『化人幻戯』は、確か未読のはずだ。 乱歩の映画化作品で僕が観ているのは、『盲獣』(監督 増村保造)、『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(監督 石井輝男)、『江戸川乱歩の 陰獣』(監督 加藤 泰)、『RAMPO』(監督 奥山和由)、『D坂の殺人事件』(監督 実相寺昭雄)、『盲獣VS一寸法師』(監督 石井輝男)、『人間椅子』(監督 佐藤圭作)、『屋根裏の散歩者』(監督 三原光尋)、『D坂の殺人事件』(監督 窪田将治)くらいでしかなく、フランス版『陰獣』を観たいものだと思っているのだが、未だ果たせずだ。 続く『魅せられた美女』では、落涙顔の美しいアイドル歌手沖晴美を演じる岡田奈々のシャワーシーンは足だけだったが、それもボディダブルとしたものだろうか。原作は『十字路』も未読だが、いくらなんでもこれほど粗忽な筋立てと展開ではなかろうと些か呆気にとられた。脚本は、成沢昌茂&井上梅次とのこと。 明智小五郎が「伊勢省吾、切れるな」と呟く芸能プロ社長の伊勢(待田京介)が、どう考えても周到さを欠いた成行き任せの盆暗男で隙だらけだったから、明智のこの台詞には笑いを禁じ得なかった。最初に唖然としたのは、晴美が伊勢社長の指示で社長夫人(西尾三枝子)の自殺偽装を施しに自殺名所だという佛が浦に赴き、夫人のハンドバッグの上に免許証を載せて置いてきた場面で、上に載せたりするかよと思った。その後も、間抜けな伊勢が死体遺棄に向かうなかで、夫人の靴を落とすわ、焦った運転で事故を起こすわ、死体をくるんだ毛布の端をトランクから覗かせているわ、でいくらなんでも、そんな馬鹿なと思っていたら、さらに上回る晴美の兄(天知茂二役)の伊勢の車への乗り合わせと、晴美を狙うマネージャー真下(中条きよし)の追跡となった。 1980年当時、二十歳過ぎだった岡田奈々の兄として当時アラフィフの天知茂を配した設定の強引さにも恐れ入ったが、なぜ親子にしなかったのだろう。当時の岡田奈々の売りが妹キャラだったからだろうが、余りと言えば余りだった。 また、前作に続き、マネキンが出て来たことも目を惹いた。それにしても、岡田奈々の落涙姿、最後の歌唱シーンを含めて六回もあったように思う。恐れ入った。晴美の兄の婚約者でバー桃子のママを演じていた奈美悦子の入浴場面もいかにもボディダブルといった按配だったが、シリーズとしての約束事はきちんと守られていて、それも妙に可笑しかった。 岡田奈々に続きアイドル系の片平なぎさが謎めいた看護師の川井奈津子を演じていた『五重塔の美女』の原作は『幽鬼の塔』で、これも未読。脚本は櫻井康裕。東京心霊術研究所なるところで霊媒術を行なっているあたりがいかにもテレビ的だと思ったりした。また、死期を悟ったタクシー運転手の鶴田(草薙幸二郎)が奈津子に二十一年前の殺人事件の顛末を教えるからと呼び出す場所が午前一時の公園などということがあるものかと笑ったが、それが取り繕いではなかったことに唖然とした。 なんだか遠山の金さんの片肌脱ぎのような明智小五郎の変装剥がしは、この美女シリーズの付き物なのだろうか。もうマネキンも中条きよしも登場してこなかったが、売りのヌードシーンはボディダブルによる継ぎ接ぎではなく滑らかで自然なものになっていた。デザイナーの進藤(石浜朗)の恋人礼子が現れたとき、宮井えりな?と思ったらそのとおりで、フルヌードを綺麗に撮ることができたからだろうが、奈津子や教授目前の大学病院医師大沢(入川保則)の妻(生田悦子)の継ぎ接ぎヌードシーンが構えられていなかったところにほくそ笑んだ。宮井えりなに払った敬意のような気がしてならなかった。礼子が絞殺される場面での着衣の女性のほうが顔出しされずに裸身の礼子が顔出しで映し出されるカットが印象深い。 次に観た『鏡地獄の美女』の鏡地獄とは何だろうと思っていたら、最後のほうにナイトクラブ「仮面の城」の支配人鮎沢(原田大二郎)が隠し部屋として作った「魔法の部屋」のことだったのかと呆気にとられた。後妻を殺された好都合に乗じて目当ての速水美与子(金沢碧)との再婚を目論む毛利幾造(岡田英次)が美与子を連れて赴いた部屋で、トップレス女性たちを追い回して脂下がっていただけのことだった。 鮎沢と美与子が最後の場面で交わす懺悔がまたなかなかのもので、美与子を利用するつもりで近づきながら愛してしまったと話す鮎沢とのカットバックで美与子の裸身が映し出されていたのが可笑しかった。それに対して美与子は、自分のほうこそ影男の正体に早い段階で気付きながらも、夫を殺された復讐に利用したのだと告白していた。なんだなんだこの懺悔合戦はと思っていると、そういうことかとの納得の結末だった。原作『影男』は未読だが、小説でもこのような締め方をしていたのだろうか。脚本は、吉田剛。 影男に脅える毛利幾造が警察に警護を要請する際に「それだけの高い税金は払ってるからな」と言ったことに対して波越警部(荒井注)が「ま、(あんたじゃなく)国から安い給料は貰ってますが、ね」と返した台詞が面白かった。 いきなり片桐夕子の入浴シーンから始まる『白い乳房の美女』は、第13作に続き、岡田奈々が妹役で出演していたが、タイトルどおり最重要人物は、姉の野上みや子を演じた片桐夕子だったように思う。筋立てからすれば、黒子の乳房の美女となるべきところながら、やはり彼女のロマポ・デビュー作『女高生レポート 夕子の白い胸』['71]を踏まえてのものなのだろう。原作の『地獄の道化師』は未読ながら、明智の変装にまつわる波越警部の当て外れ場面やらマネキンならぬ石膏人形など、思わずニヤリとさせられる箇所がふんだんにあって、思いのほか面白かった。脚本は、宮川一郎。 幾度か繰り返された“地獄の道化師”の台詞「お前にわかるか!この世の中に絶望した人間の気持ちが…」との心底に対して、明智の言っていた「男に振り向かれない女の心理は複雑です」の身も蓋もない素っ気なさが印象深いというか笑ってしまった。彫刻家の綿貫を演じていた蟹江敬三がなかなか好かった。 | ||||||||||||
by ヤマ '24.12. 7~14. BS松竹東急録画 | ||||||||||||
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