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『砦のガンベルト』(Chuka)['67] | |||||
監督 ゴードン・ダグラス | |||||
雪降り積む食糧難の冬場にチャカ(ロッド・テイラー)から肉を分け与えてもらった恩義に応えて、アラパホ族を率いるハヌー(マルコ・ロペス)がチャカを見て駅馬車襲撃を中止したときに、車軸の壊れた馬車のなかから出てきた二人の“御婦人方”の美形に意表を突かれた。チャカと訳ありだった元カノのベロニカ・クライツ夫人(ルチアナ・パルッツィ)にしても、その姪らしきヘレナ・チャベス嬢(アンジェラ・ドリアン)にしても、演じていた女優の名に覚えはなかったが、知性と気品を漂わせていて、なかなかのものだったように思う。 1876年のアラパホ族の窮鼠猫を嚙む襲撃により殲滅させられたクレンデノン砦の顛末を報告書にまとめた内容について映画にしている形を取っていたように思うが、それにしては、えらく早撃ちチャカの恋情物語に寄っているではないかと思いながら、チャカがクライツ夫人と交わすキスシーンで、男の側が一筋の涙を流しているという、実に西部劇らしからぬ画面に驚いた。なかなか情感豊かな濃厚キスシーンだったように思う。 クレンデノン砦の司令官バロア大佐(ジョン・ミルズ)が言っていた「野蛮人に対する優しさは弱さだ」との言葉は、西部開拓時代の騎兵隊に限らぬ、古今東西に通じる軍隊文化の常套句だと改めて思った。そうやって抑圧に勤しみ、追い込むからこそ受ける反撃の凄まじさにバロア大佐は射貫かれることになるわけだが、食糧を分け与えて懐柔することを進言していたチャカに耳を傾けようとしなかった大佐の人物像を、思いのほか複雑なものに設えていたところが目を惹いた。 胆力も腕力も秀でた兵士でありながら、腰抜けの空威張りにしか映らぬ大佐に徹底して忠義を尽くそうとするハンスバック曹長(アーネスト・ボーグナイン)のことが腑に落ちなかったチャカが納得する、曹長が大佐から受けた恩義のエピソードに畏れ入った。ハンスバックとチャカが互いを認め合い親しくなる過程もまた、いかにも所謂“軍隊文化”に馴染みの深いマッチョイズムだったように思う。 男は何のために生きるのか。カネ、女、誇り、それらを問うていたような気がする。ハンスバックのキャラクターが実によく似合うアーネスト・ボーグナインだと改めて思った。 | |||||
by ヤマ '23. 5.12. BSプレミアム録画 | |||||
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