『ウィ、シェフ!』(La Brigade)['22]
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(Women Talking)['22]
監督 ルイ=ジュリアン・プティ
監督・脚本 サラ・ポーリー

 第201回市民映画会は、ともに人権問題に焦点を当てながら、作風が実に対照的なカップリングだった。

 後から観た『ウィ、シェフ!』は、人権問題を扱った作品だとは思いも掛けず、トレンディな料理ネタ映画だろうと高を括っていたから、これぞフランス精神とも言うべきエスプリに満ちた、快哉を挙げたくなる作品だったことに驚いた。

 自由の国、人権発祥の国たるかの地でも排外主義が蔓延り、移民排斥勢力が拡大しているなかなればこそ、今かような作品をコメディとして創り上げていることに大いに感心した。楽天的な“目出度し目出度し”で収めるのではなく、偽装IDや国外退去などのシビアな側面も挟み込みつつ、撥ね返りシェフのカティ・マリー(オドレイ・ラミー)が料理人として、彼女にとっての真の居場所を見出すエンディングになっていて感銘を覚えた。

 自分を取り上げてくれた助産婦の名と自分を料理の世界に送り出してくれた恩人の名を合わせた名前を名乗っている、施設育ちの孤児であるという設定が実に効いていたが、チラシの裏面に記されている、モデルとなった料理人カトリーヌ・グロージャンの名も、その通りなのだろうか。また、フランスにも日本のTV番組『料理の鉄人』のようなバラエティ番組が実在したのだろうかと思ったりもした。


 先に観た『ウーマン・トーキング 私たちの選択』は、アウェイ・フロム・ハー 君を想うに感服したサラ・ポーリーの監督・脚本作品だったが、同作には到底及んでいなかった気がする。

 女性は識字教育を受けておらず、読み書きが出来ないので絵を文字代わりにしていて、薬草を盛られた昏睡状態で村の男たちに誰彼なく、暴力的に犯されている姿に、これは一体いつの時代の話なのかと思っていたら、「2010年度国勢調査」への協力を呼び掛ける車が♪Daydream Believer♪を流しながら村に入って来て仰天した。

 観賞後、チラシを読むと2010年、自給自足で生活するキリスト教一派の村で起きた連続レイプ事件とあったが、原作小説がどこまで事実を踏まえて書いているのかが想像もつかないくらい、登場人物、登場しなかった関係人物、誰に対しても、なんでそういうことをするのか腑に落ちてこないばかりか、人物関係も掴みにくくて、大いに難儀した。

 読み書きすらできない女性たちの議論とはとても思えない感じは、字幕で使われた言葉の選び方によるところが大きいのかもしれないが、男たちの暴挙を黙認するか、村に残って闘うか、村から逃げ出すかを、なぜ女性たちが集まって投票や討議によって決めなくてはいけないのかにしても、彼女たちの男性観にしても、洗脳では済まないような訳の分からなさがあった。

 また、かつて母親が原因で追放されていた帰村者の男性教師オーガスト(ベン・ウィショー)が、オーナ(ルーニー・マーラ)に地図を渡した際に方角を知る方法として、北極星ではなく南十字星による天文航法を教えていたから、南半球での話になるが、どうにもそのようには感じられなかった。妙に釈然としない作品だったように思う。
 
 作り手の立ち位置からすれば、♪Daydream Believer♪がエンドテーマとしても流されていたように、Cheer up,Sleepy Jean (目覚めろ、寝坊助ジーン)ということだから、そういう意味での立ち上がる女性たちを描いているのかもしれないとは思う。集会を開いた女性たちから記録係を務めるよう求められていたオーガストの配置が重要だ。実際の事件でオーガストに当たる人物がいたかどうかは判らないが、主導するのではなく、支援に徹する存在があってこそ、自立が図られるのだろうという気がする。
by ヤマ

'23.11.30. 高知市文化プラザかるぽーと大ホール



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