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『少年の君』(原題:少年的你、英題:Better Days)['19] | |||||
監督 デレク・ツァン
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ヒリヒリするような青春期の魂が活写されていて感銘を受けた。チラシに記された「君が、私の明日を守ってくれた」「君が、俺の明日を変えてくれた」は、素晴らしいコピーだと思うが、『少年の君』との邦題は、いただけない。「This was our playground.」と「This used to be our playground.」「This is our playground」を並べてチェン・ニェン(チョウ・ドンユイ)がニュアンスの違いを講じるオープニング場面からしても、『若き日の君』が相当だと思う。 映画のタッチは、まるで異なるけれども、もうひとつの『フォロー・ミー』「'72」と呼びたくなるような、受験生チェン・ニェンを尾行するシャオペイことリウ(イー・ヤンチェンシー)の姿が印象深かった。若き日に『フォロー・ミー』を観た者が他の世代にはない愛着を抱いたように、本作を若き日に観た男女には、忘れがたい映画になるのではないだろうか。 警察の取調室で「芝居はよせ!」と叫んでいたリウの胸中には、チェン・ニェンが先に折れたりはしないことへの確信があったような気がする。そのことを充分に了解できるだけの二人の関係の描き出し方が見事だった。十一年前に観た日本映画『悪人』のような逮捕劇だった。その『悪人』では描かれなかった、逮捕後に続く場面に観応えがあって、チェン・ニェンに自身をチンピラだと称していたこととは裏腹の誇り高さがリウに窺えつつも、青年刑事チェンが同僚の婦人刑事の制止を押し切って、二人を捜査室で引き合わせた際に、リウが指示した以上の“芝居”を懸命に務めて彼に応えようとしているチェン・ニェンの姿に感銘を受けている場面に痺れた。 なぜチェン・ニェンにそれほど拘るの?と問う婦人刑事に対してチェン刑事が、殺人犯の身代わりをさせてしまったというほどの重荷を若いチェン・ニェンに背負わせてはいけないと応えていた言葉が方便なのか真意なのか微妙な感じに、なかなか含蓄があって心に残った。そういう点からも、僕にとって本作のキーワードは「芝居」だった。 祐一(妻夫木聡)が大芝居を打った『悪人』を想起させるような逮捕劇を観る前から、チョウ・ドンユイには満島ひかりを思わないではいられなかった。また、級友を次々と生贄にしていくイジメグループのリーダーである女子高生ウェイの存在がとても利いていたように思う。それにしても、中国の「高考(ガオカオ)」と呼ばれる全国統一大学入試は凄いものだと改めて思った。 そして、エンドロールが終わった後にオープニング場面を再登場させてから、政府が講じているイジメ防止対策の取組みが説明され、チェン・ニェンとリウのその後が映し出された部分について思うところがあった。敢えてそこにオープニング場面を持ってきたのは、本来の映画のエンディングはエンドロール・クレジットまでだと言いたくて、そっくりそのまま再登場させているような気がしたのだった。 | |||||
by ヤマ '21.12.19. あたご劇場 | |||||
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