『そこのみにて光輝く』
監督 呉美保

ヤマのMixi日記 2014年11月10日00:15

 僕が十代から二十代の頃に観ていたATG映画や柳町監督作品などといった秀作日本映画の持っていた陰鬱な昭和色が濃厚に漂う作品だったように思う。平成の今のスタッフ・キャストでも、こういう映画が撮れるのだなぁと感心しつつも、普遍性よりも古さのようなものを感じたのは、性にまつわる捉え方、描き方にあるのかもしれない。

 とはいえ、幸薄い女性を演じて他の女優の追随を許さないような池脇千鶴が見事。年嵩を経て、十年前のジョゼと虎と魚たちのときの貧乳からすると随分と実った裸身も晒して体現していたものには、些か打たれた。

 それ以上に、目を惹いたのが千夏(池脇千鶴)の弟拓児を演じていた菅田将暉で共喰いのとき以上だったように思う。作業現場で人を死なせてしまって心の折れた佐藤達夫を演じていた綾野剛も今までに観たなかで最も印象に残る演技だったような気がする。


コメント

2014年11月10日 08:34
(CPAさん)
 多少設定に古さを感じますが、私はこれ好きですねー。今年のベストかも。綾野剛が色気タップリでした。


2014年11月10日 10:13
(ケイケイさん)
 普遍性よりも古さのようなものを感じたのは、性にまつわる捉え方、描き方にあるのかもしれない。

 今の時代、父親の病で体を売るって、何時の時代の話だよ、と。低所得者は医療費の限度額制度があるし、父親のあの状況では身体で障害者手帳も取れるはず。生活保護の部分支給とか、病院のケースワーカーに相談するとか、色々方法があると思うんです。ヒロインのあの若さでそういう智恵が浮かばないという設定は、嫌でした。この箇所は絶対、現代的に変更して欲しかったです。

 菅田将暉くん、いいですよね。この、底辺で粗野、おまけに頭が悪い(笑)、でも無垢な魂の少年という役柄を、魅力的に演じるのは難しかったと思います。『海月姫』では、女装も見せてくれるみたいです。


2014年11月10日 23:31
ヤマ(管理人)
 ◎ようこそ、CPAさん、

 そうですか! 今年のベストとは驚きましたが、綾野剛がよかったことに異論ありません。

 日誌を綴るつもりがなかったので、ブログも拝読しましたが、「ヒロインが置かれている状況、過酷な家庭での病人介護の実際とか、家計を支えるために体を売っている設定とかには、ちょっと違和感を感じてしまうのは否めない。」とお書きでしたね。「しかし、その違和感を気にさせない、情感や切ない空気感みたいなものに溢れている、美しい作品であった。」というところには、賛同します。

 心の折れていた達夫が千夏に取り縋って嗚咽を挙げる場面、よかったですねー。彼「自身が俳優人生での転機となり過去最高と評価している」とは知りませんでしたが、さもあらんばかりの好演だったように思います。

 ブログの「肉体が物語る女優として、ケイト・ウィンスレットや寺島しのぶに肩を並べる」に思わず笑いが出たのですが、確かにそうですね(笑)。ストロベリーショートケイクスでの“男に引き摺られる女”も凄かったです。

 あ、そうそう。携帯電話の話ですが、達夫が松本(火野正平)から、携帯に出ないので連絡が付かないと咎められていたような気がしますよ。


◎ようこそ、ケイケイさん、

 原作、24年前の作品だったのですか。それならもう平成の時代ですよね。なのに、なんという昭和色(笑)。御指摘の部分、CPAさんも触れておいででしたが、そのとおりですよね。映画日記にお書きの「千夏は合わなくて一ヶ月で事務職を辞めたと言っていますが、週三回のパートも辞めて、普通に水商売を生業としたら、体まで売る必要はないんじゃないの?」というのは、僕も思いました。パート辞めなくても水商売やれるだろうしね。

 それはともかく、この昭和の香りは『共喰い』なんかにも窺えたものですが、菅田将暉の出来は抜群で、まさに仰るところの頭の悪さが“光輝い”てました(笑)。御指摘のように、難しそうなことを難なくやってのけてる感じが凄かったですね。

 でも、日記を拝読して最も痺れた個所は「粗暴な愛人高橋和也は、下衆な中に牡の哀しみを的確に表現するなんて、ちょっと感激」というところでした。いやぁ、年季の書かせた一節ですね~(拍手)。弟の仮出所を脅かす卑劣を千夏に詰られながら「こうでもしなければ、ゆっくり話もできねぇじゃねぇか。」と車に乗せ、売春どころじゃないサイテーのセックスを強いていた中島社長の姿のなかにある哀しみを漏らさず指摘しておいでのところに、こちらこそ感激してしまいました。あのときの千夏の悲鳴の痛撃は、達矢に慈しまれた身体に与えられる汚辱を「さっさと済ませてよ」と自分から下着を脱いでしまうしかない自分に対して発しているようで、本当に痛ましかったですね。

 ケイケイさんが「拓児が祭りへ寄り道した時、行っちゃダメ!と思いました」とお書きのところと同じようなことを、僕は、殴られた顔を拓児に見せた帰宅場面で思いました。運よく擦れ違って、拓児が山行きの打ち合わせに出掛けた後に帰宅していたら…。人生の間の悪さというのは、得てしてそういうものなんですけどね。





推薦テクスト:「田舎者の映画的生活」より
http://blog.goo.ne.jp/rainbow2408/e/79565f83a6175baf16aca06699f6d4c2
推薦テクスト:「映画通信」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1925512192&owner_id=1095496
編集採録 by ヤマ

'14.11. 9. 民権ホール



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