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『近キョリ恋愛』 『クローバー』 | |||||
監督 熊澤尚人 監督 古澤健 | |||||
女性文芸映画特集と銘打って、あたご劇場が日本映画の最盛期と言われる昭和30年代の大手4社の文芸大作映画を上映したのを観たばかりということもあるかもしれないが、昭和の時代の女性文芸映画と今どきの少女コミック映画を観比べて、若い女優がキラキラ輝いている点では遜色ないながらも、そこに描かれているもののあまりの落差に、何だか観ていて恥ずかしくなってくるような気がした。優秀映画として選抜された作品群と興収狙いの作品という違い、小説を原作とした文芸大作と大人気少女コミックの原作という違い、何よりも娯楽作品としてのターゲットの違いがあるにしても、あまりのことに愕然としてしまう。 だが同時に、新作2本の原作が少女コミックで、昭和の4本の原作が小説であることは、今の時代状況をよく反映しているし、昭和の作品が女性文芸映画と称しながらも原作者全てが男性作家であり、平成の2作は女性作家の手になるものであることも、今どきに相応しい対照だと感じる。 先に観たのは『近キョリ恋愛』だが、タイトルの「距離」を漢字で書くわけにはいかないと目されている層の今の若い女性における恋愛ファンタジーというものは、これなのかと少々暗澹たる気持ちで眺めた。 今が旬の小松奈菜にしても、山下智久にしても、山本美月にしても、持ち味が活かされていて画面ではオーラを放っているし、水川あさみも、新井浩文も、利重剛も、役者としては活かされていればこそ、余計に、枢木ゆに(小松奈菜)、櫻井ハルカ(山下智久)の人物造形とストーリーラインの粗雑さに気持ちが萎えてくるようなところがあった。 学業優秀で、誰もが「お前は大丈夫」という隙のなさと裏腹に孤独を抱えつつも、深いレベルでの理解と共感を示してくれる“親友”はきちんといて、思いもかけなかった恋に巡り合い、世界レベルに向かって大きく羽ばたき、障碍の大きかった恋も揺るぎなき成就を果たす物語というのはまだしも、この枢木ゆにのキャラクターに本当に自己投影し、櫻井ハルカに憧れるのかと思うと、そのあまりの作りキャラぶりとキャラ作りの方向性に、些か呆気に取られてしまったのだ。 設定も設定だし、顛末も相当なものだ。学年トップの断トツ成績優秀の枢木ゆにの弱点が平均以下らしい英語で、その理由が数学と違って言語・文法は理路整然としていないからだとか、というレベルの学年トップが、短期集中の勉強で伸ばした英語の学力で「これなら国公立でも行けるかも」と教員たちの評価を受けることと、カリフォルニア大学に留学というか進学して遺伝学の世界的権威とされる教授の指導を受けられるようになるということを同じ地平において違和感を催さずに「等しき憧れ」として観客が受容することを前提にしているのは、あまりにも学業というものを舐めているというか、そういうものとは程遠い「キョリ」にある客層を狙っているわけで、何とも情けない。 驚くのは、それでも、この作品が僕が観賞した時点で興行成績のトップにあるらしいのだから、マーケッティング的には作品づくりが間違っていないことが証明されていることだ。本作の出来自体よりも、日本の映画界のそういう状況のほうが遥かに哀しい。この余りにも隅々にまで行き渡りつつある反知性主義のようなものは、どうにかできないものだろうかなどと思った。 翌週にTOHOシネマズ高知で一番キャパの大きいスクリーンで観た『クローバー』は、女子率98%とも言うべき肩身の狭い環境で、たぶん僕が最高齢観賞者だろう。幼馴染の樋野ハルキ(永山絢斗)と離れた14歳以来、彼氏いない歴8年という22歳の新人OLを演じていた、20歳の武井咲がキラキラしている作品だ。 だが、今の若い女性における「Someday My Prince Will Come」ストーリーがこれで、星に対してであれ、四葉のクローバーに対してであれ、願うことがこれなのかと、その恋愛ファンタジーと人物造形のあまりにもの子供っぽさに『近キョリ恋愛』同様、唖然としてしまった。 観に行くほうが悪いと言えば、それまでなのだが、少しでも人間探求に関心を持ったことがあって、サディズムだとかマゾヒズムについて考えたことのある者なら、恥ずかしくてとても使えないような「ドS」だとか、「勝負下着」「犬以下」「バカ」「クソ上司」といった音声にすることの憚られるような言葉が頻出するなかで浮かび上がってくる言語感覚の鈍さや貧しさが風俗描出としてでなく、そのまま作品の貧しさに直結しているような気がした。 原作コミックは、むろん未読なのだが、チラシに書いてあった「900万部突破!ちょっと背伸びのオフィスラブのバイブル、待望の映画化!」を目にして、オバカ映画と笑ってて、いいのかなぁなどとゾッとしてしまった。なんだか見過ごせないような“頭の悪さの権化”のような作品だと思う。武井咲も夏菜も、とても可愛らしく映っていただけに、よけいに苛々した。 | |||||
by ヤマ '14.10.30. TOHOシネマズ8 '14.11. 3. TOHOシネマズ7 | |||||
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