日々のエッセイ

                  

    真っ白なレースは夏を思わせますが、セピアがかったアンティックレースは、ちょうど今
   ぐらいの季節に似合いますね。アンティーク屋さんで見かけたミニ・トルソーには、昔々の
   妖精がまといそうな小さなドレスが、控えめな様子で飾ってありました。
   アンティーク屋さんを見てまわるのは好きです。使いこんだ真鍮のドアノブだとか、
   細い筆記体でアルコールと描かれた透明なガラス瓶だとか、誰かが確かに大事に使って
   いた気配のようなものが残っていて。
    
               

                   
     散歩路で見つけた秋。古い壁に枝を伸ばす色づいた葉や、駐車場のすみで実っていた
     ベリー。どちらも秋の曇天の中で、際立って見えました。これからの季節は、空も樹木も
     人々の服装も、色を落としていきますが、そんな中でもよく目を凝らすと、自然の深い
     色が身近なところで輝いていたりするものです。
                   
   寒い日には家の中で、本のページをめくりながら幻想トリップは、いかがでしょう?
   この大型絵本は、『ねずみくんのチョッキ』シリーズでも有名な上野紀子さんが描く
   黒ずくめの少女が知らない場所へと連れていってくれます。 チコという名の、
   帽子を被ったやぶにらみの少女は、この本以前にもイラストなどで目にしていて、
   想像力をかきたてる存在でした。三年前に本として出されているのを最近知り、
   版元では売っていなかったので、ネット注文して愛読しています。
   ネットで本が買える時代になり、手に入りにくい本が手軽に探せるようになったのは
   嬉しいです。
               
  文豪・谷崎潤一郎が青年時代に書いた短編『魔術師』も、幻夢的なお話です。大正半ばの
  浅草公園、猥雑な繁華街の片隅にある見世物小屋で、夜な夜な妖しい魔術を披露する
  マジシャンは、「女から言わせれば絶世の美男、男から言わせれば空前の美女」であり、
  年齢も素性も不詳。その魔術に溺れていく様が描かれています。
  そういえば、私は卒業論文で大正期の谷崎を研究していたのですが、着飾った表現や、
  推理小説めいたトリックなど、わりと現代風で面白い作品が多い気がします。
  ビアズリー風な挿絵が、また雰囲気を盛り上げています。
                        
                 

   私自身、幻想物語を描くのは楽しみで、『まぼろしの住む家』は、そういう一冊です。
   家にまつわる不思議な出来事を集めてみました。
   この本は、カバーを外すと、別の絵が表われる(表紙の絵をぼやかした絵柄)
   工夫がしてあって、ちょっと怖さがアップします。
   『コスモス・マジック』という本も、カバーを外すと、まったく別の美しい絵が現れるように
   なっています。
   本のカバーを外す人が、いったい何人いるでしょうか?
   人に知られないようなところに手が加えられているのが、本づくりの醍醐味ですね
                                              2009年 11月

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