日々のエッセイ


    街路樹が色づきはじめ、風が吹くとやわらかな音をたてながら、黄色い葉が歩道に散って
   いきます。
  くもり空の朝など、街灯がまだ点っていて、家々の屋根に積もった落ち葉が光り、
   遠目に金箔みたいに見えて、美しい景色だなぁと眺めています。 すっかり秋ですね。




                        


     こんなに寒くなったのに、今年はどういうわけか、夜になるといまだに蚊が飛んできて、困ります。
    温暖化の昨今、越冬する蚊もいるそうですね。 詩人のまどみちおさんは、あの鬱陶しい羽音が、
    「金色に聴こえる」とおっしゃったそうですが、私はまだ修行が足りないのか、そんなポエジーに
    至らず、すぐに退治しちゃいますが。   蚊といえば、私の実家は代々木公園から歩けるところに
    あるので、夏の間はデング熱が気になりました。庭に出れば、いくら注意したって、何か所か
    刺されてしまうので。 ニュースに取り上げられていた頃は、代々木公園の門が物々しく
    閉鎖されていて、通行人も少なかったのですが、さすがに冬が近い今は落ち着いてきました。
    小さな小さな蚊が巻き起こした、今年の大きな騒ぎでした。

    秋の散歩に、夫の実家(高田馬場)の近くにある“人目を引く建物”あたりを歩いてみました。
    早稲田大学のそばで、閑静な通り沿いに建っている、下の写真のビルです。装飾過剰な感じで、
    スペインのガウディ建築を思わせますが、これを作った梵寿綱さんは本当に“日本のガウディ”と
    呼ばれているようですね。 近づき難い風変りなお名前ですが、本名は田中さんとのこと、にわかに
    親しみがわきます。



                           

       建物の名称は“ドラード和世陀”、早稲田の当て字ですね。上階は住居でしょうが、一階には
     ギャラリーや雑貨屋さんなどのお店が入っています。  ビルの入口の床には、
     長ーい舌を出した魔女(?)のモザイク。 この舌に案内されて、中へと導かれます。


                             

         私としては、斉藤隆介さんの名作『ベロ出しチョンマ』を連想してしまいます。
      タイトルがユーモラスなのに、とても悲しいお話でした。 江戸時代の千葉で、大凶作の年に
      お米を納められずに途方に暮れる百姓たち。主人公の少年・長松(チョンマ)の父親は
      名主で、百姓たちを代表して、将軍へ直訴へ出掛けるのですがーーー、反乱を企てた罪で、
      家族ごと捕まり、処刑されるのです。 磔られた、まだ、たった十二才の少年チョンマが、
      同じく磔られた幼い妹の恐怖を癒すために「ほーら、オラの長いベロを見ろ」と笑わせる場面が、
      クライマックス。  架空の村のお話ですが、悲惨な歴史は決して絵空事ではありません。



                              

       舌の先には、アールヌーボー調のアイアン扉が待っています。蝶の羽のような形。
     住民たちは、この扉をくぐって、どんな世界へ帰っていくのでしょう?


                                 
           エントランスの一番奥に、妖しげな右手が・・・。 これ、実は椅子なんです。
        指先のところに座るように出来ていますが、ちょっと堅そう。 自宅の鍵を
        探したり、買い物袋を置いたりするのに便利かも。


                                   

          住民の個別ポストは、十二支の絵柄になっています。 もうすぐ年賀状の時期だから、
       思わず羊を探してしまいました。 ポストは十五戸分あるので、十二支以外の動物は
       どれでしょう?



                                 



          外壁も見れば見るほど、いろいろな発見があります。 丸いウィンドウがクラシックな
       感じのお店。 三十年前の建築と聞きましたが、お手入れが良いのか、白い壁も
       きれいで、そんなに古い感じはしません。 ヨーロッパの建物などは、築百年なんて
       ザラですものね。

                                    

           和風なようで洋風な壁画。  人物にサイケデリックな雰囲気が漂っています。
                                      
         こちらも壁に施された立体彫刻。 胸のような、お尻のような膨らみを持つ女性。
        つぶらな瞳や薄く開いた唇も、あどけないようでいて、よく見ると妖艶

                                    

 
                                      
   
           丸窓の中のお店に置いてある古いレジスター。 アート雑貨を売るお店で、
        このレジスターの存在感が抜きん出ていました。使ってみたい。

             散歩の後は、いつものようにお茶の時間。
         ずっと紅茶派だった私ですが、最近は珈琲も好きになり、外で頼む時もわりと
         珈琲を選んでいます。コーヒーミルで豆をひいて、お気に入りのカップを片手に、
         この本を読めば、家にいながら、カフェ気分。

                       

          沼田元気さんの『喫茶店(カフェ)百科大図鑑』(ギャップ出版)という、全ページカラーの
       とても凝った本です。沼田さんといえば、こけし雑誌を出したり、乙女っぽい本を書いたり、
       “レトロで可愛い”ものを追求していらっしゃいますよね。 この本には、喫茶店の歴史や
       カフェマヌカンの制服、カップやナプキンやマッチなどの喫茶店に関わる小道具について、
       絵画的な写真と親しみやすい文で解説してあります。これさえ読めば、あなたもカフェマニア。

                        


          本の中には“お茶の時間”を描いた、様々なイラストレーター、漫画家の絵が
       挿入されています。 上の右ページは、宇野亜喜良さん。 その他に、林静一さんとか、
       谷内六郎さんとか、水木しげるさんとか・・・、お茶を飲む人を描いた絵って、見ていて
       なんだかホッとします。 この本はページの角が丸くカットされていて、それも可愛い感じ。

                           

          お茶のおともに“ふなっしーケーキ”は、いかがでしょう? うちの近所で売っていたので、
       つい買ってしまいました。中にちゃんと“梨汁”が入っていて、あのキャラのノリを思い出し、
       元気が出る味です。

                       

           今月のエッセイの最後に、お知らせを。
        ニューファミリー新聞で5年にわたって連載していた『メルヘンのある風景』という
        掌物語が、近々、文庫本になります。  連載は全部で106回、そのうちの
        34回分の小さなお話が集まっています。 家事や育児の合間に、気分転換で
        読んでもらえそうな話になっているのではと思います。
        刊行されましたら、またHP上でお知らせしますね。

                       それでは、寒くなりましたので、暖かく暮らしてください。
                                                  
                                                   2014年 11月


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