気温が下がってホッとする9月です。今年の夏は暑かったですものね。
ここ数年、9月になると参加させていただいている『絵封筒展』に、今年も
こんな作品を出しました。
夏から秋へ移っていく森をイメージ。 小松菜の茎やお芋を使った野菜スタンプが、
小さな子どもたちの間に広まっていますが、これもキュウリを使った超簡単スタンプです。
用意するのは、キュウリの端っこ。緑と赤のインクパッド。これでペタペタ
押していって、太目のペンで幹を描きこめば出来上がり。
森の木々の間にひらけたスペースに、’70年代っぽいノリで作った
即興詩を書いてみました。こんな詩です。
カッと照りつけていた太陽のまなざしが
優しく変わり、秋が来ます。風が柔らかくなります。
しまっておいたワイン色の口紅を鏡台に並べ
薄いセーターを引っ張り出します。
シャンソンをかけ、煮込み料理を作ります。
かかとの細い靴をはき、大勢でいるより独りの道を
歩きたくなります。
古いカセットに、いたずらに録音された古いニュースを
聴いて、時間が随分経ったことを知ります。
いつも通る銀杏並木がカラシに染まり
風景にセピア色のセロファンがかかります。
秋が来ました。
自由に、静かに、優しく生きたいと思います。
秋だから。
宛名は色画用紙を葉っぱ型に切って、住所などを書き、その上にうす緑の
トレーシングペーパーを重ねています。 切手は森に咲く花と、森で遊ぶウサギに
見立てて。 絵封筒って楽しいですよ。 難しく考えないで、身近にある物を使って
世界でたった一つだけの手紙を作って、誰かに送ってみませんか?
efuto(絵封筒)展 9月2日(火)から、9月7日(日)まで
ギャラリーウシンにて
所沢市小手指町1−22−13−102
問い合わせ先 細野敦子さん(04−2997−8720)
さて、最近、お金を払って購読したいほど充実したフリーペーパーが
街にさりげなく置かれていることがありますが、渋谷PARCO4階『オンリーフリーペーパー』
に、こんな素敵なマガジンがーーー。
灯台をこよなく愛する編集長(若き女性)が、灯台に関する知識と情報を、
12ページ・オールカラーの誌面にギュッと詰め込んだ、読み応えたっぷりな
マガジンなんです。 灯台っていうと“海の男”みたいな、どちらかというと
男性的なイメージがあったのですが、このマガジンは女性誌のような
オシャレな写真やイラスト満載で、専門的な灯台用語も、軽妙な記事により
楽しく身につく仕掛け。 堅くなり過ぎない、でも本格的なところがすごく好き。
『灯台どうだい?』というダジャレっぽいタイトル、一度聞いたら忘れられませんよね。
今、出ている第三号(アーリーオータム号)は、『灯台マニアの本棚』という特集が
組まれていて、灯台にまつわる国内外の本が紹介されています。 珍しい本も
いっぱい。表紙に描かれた様々な灯台を見ているだけでも、灯台への浪漫が
掻き立てられます。 ちなみに左ページ下段中央は、私の書いた『夜の学校』
(文研出版)で、載せていただけて光栄です。 灯台、いいですねぇ。
この間、初めて清澄白河駅(江東区)を降りました。そんなに遠い街ではないのに、
訪れたことがなかったなぁと思いつつ。 隅田川も近く、相撲部屋もあるせいか、
和風情緒なきれいな街。 ゴミの置き去り禁止の看板で、“ゴミ”のことを“護美”と
表記していて、それもまた美的。 駅にほど近いところには、よく整えられた日本庭園が
あります。
庭園につきものの池には、大きな鯉が何匹も泳いでいました。 そして亀も。
大きな亀もいれば、赤ちゃんみたいな小さな亀もいて、のーんびり泳ぐ姿に
癒されます。
庭園を出て駅にもどる静かな商店街を歩けば、歩道の杭も、和風なしつらえ。
松尾芭蕉がかつて、この地域から『奥の細道』の旅に出発した縁で、
街角にこんな箱も置いてあります 散歩の途中で頭に浮かんだ一句を、
投函してみましょうか? 風流ですね。
お料理屋さんかと思ったら、ここは公衆トイレでした。 トイレを探して
いる人がいても、通り過ぎてしまいそう・・・。
駅に近い便利な場所にある、レトロなアパート。石の階段なんて、珍しい。
しかも、部屋の扉がそれぞれ、旅館のような引き戸で、部屋番号の表記も、
旧字体が使われています。
入口脇の、ちょっとしたスペースも“昭和の建物”といった風情。 昔、取り壊される
前の代官山同潤会アパートを取材した時のことが、ふと頭をよぎりました。
古い建物が持つ、シンとして,儚い空気に魅かれます。
こんなところに住むと、不思議な物語が書けそうな気がしますが・・・。
アパートの張り紙に「最近、浮浪者が廊下で寝ていますので」と、平然と
記されていました。 いろいろな人が集まるアパート。
上の写真は、アパートから少し歩いたところにある、イギリス倉庫を
イメージした広いカフェ。 こちらにも古い物が賑々しく集まっていました。
スコーンが美味しいお店です。
駅の隣にある花屋さんには、大きな樹があって、表情の可愛いダンサー
人形が、その樹にたくさんぶらさがり、ゆらゆら気ままなダンスを踊って
いました。色とりどりのチュチュが、色とりどりの花のよう。
知らない街を歩くのは、知らない物に出会えて楽しいです。
先日、ふた昔ほど前に録音したラジオ・ドラマ『うたかたの日々』を
思い出して聴いてみました。 フランスを代表する恋愛小説と言われる
この幻想的な物語は、ボリス・ヴィアンの代表作。 お似合いのカップル、
コランとクロエの、女性のほうの声(クロエ)を岸田今日子さんが演じています。
岸田さんはもうお亡くなりになったけれど、あの独特な、けだるい口調は、
テープの中で生きていて、肺に睡蓮の花が咲く奇病にかかった女性を
悲しげな美しさで表現なさっていました。
その岸田今日子さんが晩年に書かれた“大人の童話”が
『二つの月の記憶』〈講談社)です。
紫とブルーの表紙が、夜の妖しげな雰囲気。カバーを外すと、型押しで
表紙とお揃いの、挑んだ目つきの少年少女が現れます。七つの、日常風で
ありながら、どこか違和感の漂う世界。 最初の物語『オートバイ』には、
不良仲間のバイクで夜中に家を飛び出していく少女を描いていますが、
その少女の正体がエキセントリックなのです。 発売当時の七年前に読んだ時は、
こんな人、絶対いないだろうなと思ったものだけれど、時が経って今は、こういう人、
普通にいるかも、という気がしています。
それだけ世の中も、エキセントリックになったということでしょうか。
月のきれいな夜に、読んでみたらいかがでしょう?
帯にコメントを寄せている絵本作家の佐野洋子さんも、もう会えない人ですね。
寒くなってきましたので、寝冷えにお気をつけて。
2014年 9月
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