日々のエッセイ


   メイポールというダンスをご存じですか? アメリカの絵本作家、アングランドの
  『はるになると』(文渓堂)という小さな可愛らしい絵本には、メイポールを踊る子どもたちの
  絵が描かれています。こんなふうにステップを踏みながら、みんなで一本のポールに、
  何色かのリボンを規則正しく結んでいくダンス。一曲、踊り終わった暁には、鮮やかな模様の
  ポールが出来上がっています。 ヨーロッパやアメリカでは、春の到来を告げる伝統的な踊りとして、
  親しまれています。
                      

   私も中学の体育祭で、これを踊りました。一学年が六クラスあり、A組は赤、B組は水色、C組はピンク、
  D組は黄色、E組はグリーン、F組は紫というクラスカラーのリボンを巻き付けていきました。
  踊り自体は一歩進んだら二歩戻り、三歩進んで・・・といった、スローモーなステップで、ちょっと
  退屈しながらやっていたのですが、最後には見事に編みあがった六色のポールが校庭に並び、
  花が咲いたように美しくて、びっくりしたのを覚えています。 今でも母校では、中学生が体育祭で
  踊っているそうで、長い年月、変わらず受け継がれているのにも、びっくり。

                  

   先月、ギャラリーウシン(埼玉・小手指)で約ひと月間、開かれていた『ブック・オーケストラ展』が
    無事終了しました。 スイーツがテーマの展覧会です。


   

私が担当したのは、美味しそうなスイーツが
出てくる本のセレクト。 10冊の本を選び、
解説をつけました。

写真の一番上の本は私の書いた『コスモス・マジック』
(フレーベル館)です。 主人公のミセスグレースは
行方不明になった夫を15年もの間、待っているの
ですが、不思議な家のお手伝いさんになり、そこの
小さな主人・ルウ君と話をすることで、夫の謎が少し
ずつ、解けていきます。 クッキーを食べながらの
雑談で、夫のてがかりをつかむ場面。
 飛行機型のクッキーは、やがてグレースの元を
飛び立つルウ君を暗示しているような。

壁のまん中の文庫本は『和菓子のアン』(坂木司さん)。
   年配者向けのイメージがある和菓子が、いかに
    夢あふれ奥深いスイーツかと教えてくれる
    ミステリー小説です。タイトルも「和菓子には餡(あん)」からきていて、洒落ていますね。

    下段の黒い机に開かれた本は『ライオンと魔女』(C.S.ルイス)。この本に出てくるスイーツは、
    先々月のエッセイでも触れましたが、ターキッシュ・ディライト。子どもを誘う魅惑のお菓子です。
                      高木あきこさんの『おやつのうた』      


     選書したそれぞれの本には、小野寺美樹さんが、色鉛筆、パステル、PCグラフィックなど、
     いろいろな手法でスイーツの絵を添えてくれました。

 

  

       倉片友子さんのポップなチョークアート。
     黒いボードに絵を浮き立たせる技法は、
     つやの出し方がポイントだとか。
     明るく、インパクトの強い作品群です。
     お店の看板などで広く見掛けるように
     なったチョークアートの世界。
     倉片さんによると、右のショートケーキの
     絵なら、下絵の描かれたボードを使えば、
     初心者でも一時間ほどで完成出来るとの
     こと。トライしたくなります。
      





大野加奈さんのスイーツがいっぱいの
蔵書票は、とっても可愛らしく、細かい部分に
楽しい発見がたくさんあります。こんなところに
あんな植物や動物が・・・。小さな絵の中に
物語が詰まっていて。
外国のおとぎ話の本に、そっと貼っておきたく
なる蔵書票。
女の子や男の子の表情や仕草が無垢で、
大切にしなくちゃと思わせます。







  
  
                    
           会場で、カリグラファーの五木田摩耶さんの蔵書票を購入したら、その場で「Rie」と
       名前を入れてくださいました。 ひと口にカリグラフィーといっても、イギリス式、フランス式、
       アメリカ式・・・と、国の言語によって使われるアルファベットの頻度の違いで、飾り文字の
       発達も変わってくるそうです。 五木田さんはフランス式。 長くフランスにお住まいだった
       そうで、読んでいらしたペーパーバックも、もちろんフランス語。 優雅でロマンティックな
       文字と絵の蔵書票が、会場では“水木しげる”漫画に貼ってあったりして、そのミスマッチ感が、
       堅苦しくなくていいなぁと思いました。


       期間中、私の『お話会』も開催していただきました。 スイーツをテーマに作った
      『半分だけのウエディングケーキ』という作品を、朗読いたしました。
       羊毛フェルト作家の松田富美子さんが、この日のために登場人物たちを創ってくださり、
       小さなラブストーリーを大きく盛り上げていただきました。 金色の七段ケーキ、うっとり
       するほど華麗です。

                   
      大金持ちのお嬢様と婚約した、ちょっと頼りないマロン君。結婚式のために特別注文
      された超豪華なウエディングケーキの警備を任され、さてさて、しっかり守り抜くことが
      出来るのでしょうか・・・?
                          
                           物語の真の主人公“七色うさぎ”
      
            お天気の良い休日に、お話会にお越し下さった皆様に感謝しております。


選書した一冊『赤毛のアンのお料理ノート』(文化
出版局)から、ギャラリーオーナーの細野敦子さんが、
指型ビスケットを再現してくださいました。
この本、なんと細野さんも持っていらしたとのこと、
30年近く前の本ですが、当時“赤毛のアン”ブームが
あったのですね。 私は良妻賢母なアンより、
冒険家のアリス派だったけれど、友人からこの本を
贈られ、中の写真の美しさに心惹かれました。



       今もNHK朝ドラマで、赤毛のアンがクローズアップされて
       いますね。  ビスケットは食べると、ほんのり甘く、
       口の中でスーッと溶け、優しい味が残ります。





          
          ギャラリーには“ふろしき王子”の愛称で
       親しまれている、よこやまいさおさんも

          いらしてくださり、風呂敷七変化の技を
       見せていただきました。
       一枚の布が、リュックになったり、ブックカバーに
       なったり、帽子になったり・・・、あっという間に
       こんな可愛いバッグも出来上がり。
       楽しくて役に立つ技ですね。
       風呂敷に限らず、染め物、旧字体など、日本文化の
       伝統にお洒落さを加え、現代に復権させようと
       頑張っておられる姿は頼もしいです。


                       

           展覧会の楽日に、オーナーさんからいただいた青い麦。忘れていた草の匂いがして、
        まっすぐに伸びる様子が清々しいです。 しばらく乾燥させるとドライフラワーに
        なるらしいので、今はベランダに吊るして風情を楽しんでいます。
        5月の空と、麦の青。 夏の足音がすぐそこに聞こえてきます。


                                              2014年 5月
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