日々のエッセイ


 旬のものを毎日のお料理に取り入れたい、秋ならキノコ類かな、
 デザートには葡萄・・・などと考えていると、街の中の風景さえも
 秋の味覚に見えてきます。
         
 この椅子は、巨峰みたい。文化服装学院(渋谷区)にある椅子
 ですが、座り心地は巨峰とは違い、少し固めでした。
           
           
 うちの近所の公園には、こんなベンチがあります。赤地に黄色い
 水玉というのが、キノコの定番イメージですが、ここにあるのは
 すべて緑のキノコ。住宅街の小さな公園にふさわしい、落ち着いた
 感じが出ています。
           
 子どもの頃に読んで、今も印象に残っている秋の漫画があります。
 1976年に季刊の『りぼん』に掲載された内田善美さんの
 『パンプキン・パンプキン』というお話。フィフィという女の子が
 空飛ぶかぼちゃを探しに、町はずれの幽霊屋敷に兄と一緒に
 忍び込み、物言うシャム猫の導きで、屋敷内の止まった魔法時間を
 目覚めさせてしまうーーーというような、不思議の国のアリス風な
 お話でしたっけ。
  夜の闇の中、一面のかぼちゃ畑の様子が、緻密な線で描かれて
 いて、幻想的でした。主人公たちが、地面に出来た月あかりの
 スポットから、異次元に落ちていく描写が良かったなぁ。
           
 幽霊屋敷に限らず、古い建物というのは、それ自体が物語を
 発信していますね。 古い家を見て歩くのは大好きです。
 滋賀県の近江八幡には、明治末期に英語教師から建築家に転身し、
 成功を収めたウィリアム・メレル・ヴォーリズの古い建物が
 たくさん残っていると聞き、行ってみました。上の写真は、
 記念館にもなっている昭和初期の家。訪れた日は扉が閉まって
 いて、外観しか見られませんでしたが、長い年月が見てとれる
 チョコレート色した木の壁を観られただけで満足。

 人通りの少ない近江八幡の道を歩けば、ヴォーリズの手掛けた
 小さな洋館たちとあちこちで出会えます。いずれも控えめな
 たたずまいで、古い町並みに溶け込んでいます。
        
 こんな日本風な瓦のすぐ横に、オレンジ色の洋館があっても
 調和が取れているのは、お互いにクラシックな雰囲気を尊重して
 いるからでしょうか? 建物見物に歩きまわっているうち、
 万歩計が2万歩近くをさしていました。
        
 歩き疲れた時に、道の端に“船乗り場”の大きな看板が。どこにも
 水など見えないのに、乗り場に寄ると、そこに細い水路が待って
 いました。琵琶湖で一番大きな内湖・西の湖のまわりに巡らされた
 水路だそうで、昔ながらの手漕ぎで90分かけて一周します。
 「日本一遅い舟だよ」
 と、船頭さんが言うように、6人乗れば満席になるくらい小さな
 舟が、人力でゆったりゆったり進みます。手をのばせば、すぐ
 水面。人工のものが何も見えない、自然のままの風景。風の音、
 鳥の声、草のそよぎ・・・普段、気にとめない音が、ここでは
 気持ちの良い音楽になって耳に届きます。
          
 町の中からは全然見えなかった水路は、進むにつれ広くなり、
 やがて小さな湖ほどの場所にたどり着きます。何百年も昔の
 人たちも、こうして舟遊びを楽しみ、同じような景色を眺めて
 いたのだろうなと思いながら、静かで豊かな時間を過ごしました。
   
         
 ところで、滋賀に来たら会っておきたい人(?)といえば、
 ゆるキャラとして全国的に知られる“ひこにゃん”でしょう。
 一日に三回、彦根城に登場するというので、時間を合わせて
 城へ向かうと、木陰にすごい人だかり。そこに、ひこにゃんが
 いて、のんびりした仕草で鈴を鳴らしたり、風車を回したり。
 可愛かったです。スターでした。帰り道、“ひこにゃんドラ焼き”
 を買いました。美味しかったです。
           
 猫のパッケージがユーモラスなお米の袋。これは対馬(長崎県)へ
 旅した友人から頂いたもので、佐護川の平野で作られた
 “佐護ツシマヤマネコ米”です。絶滅の危機にある天然記念物・
 ツシマヤマネコが住んでいる土地なので、お米の売り上げの
 一部がヤマネコ保護のために使われるそう。
 袋をしばる時にはねあがる両端が、ちょうど耳に模されて、
 立体的になっているところに工夫が見られます。

 気候の良い季節、外へ出てアクティブに過ごすのも、家の中で
 あたたかな秋の陽射しに包まれて過ごすのも、どちらもいい
 ですね。 秋の恵みがたくさん届きますように。
 
                    2013年 10月

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