日々のエッセイ

 雨の季節になりました。梅雨の晴れ間は貴重だから、ベランダに傘を
 干し、初夏らしい軽装で、街の風景を眺めに行きましょうか?
 オープンテラスのカフェでは、久々に屋外に出されたテーブルが、
 お客さんたちのにぎやかなおしゃべりを待っているようです。
 
              

 雨あがりの空は、澄みきって、いつもより遠くまで見渡せそう。
 高いところに上れば、もしかしたら富士山まで見えるかも・・・。富士山は、
 世界遺産に認められましたね。日本のシンボルである山が、これからも
 大事に守られるというのは嬉しいですね。

              

 富士山の噴火にまつわる噂は、もう昔から言われ続けていますが、
 こんなふうにティッシュでモクモクなら、恐れることはありません。
 外国人観光客の多い雑貨屋さんで売っていた、日本グッズです。

 ふだん歩かない道を通ると、素敵なお店を通りすがりに見つけたりして、
 うきうきした気分になれます。飯田橋駅(千代田区)にほど近い路地を、
 目的地の近道になるかなと思って通ったら、小さなビルの入り口に
 こんな看板が。


                

 どうやら、マリオネットの専門店のようです。ショーウィンドウにも、
 たくさんのマリオネットたちが飾られていました。子ども向きの
 可愛らしい人形というよりも、大人っぽい印象の、海外の劇場が似合い
 そうな個性派人形ばかり。 入り口から伸びる狭くて薄暗い階段は、
 昼間なのにひっそりしていて、ちょっと入り難い感じでしたが、そこがまた
 秘密めいた“人形の家”らしい雰囲気。興味しんしんで、入ってみました。


                   
 

   日本にもこんなにたくさんの操り人形が集まった専門店があるんだ、
  と思いました。それも目立たない路地裏に。アルルカンやドレスの娘、
  動物や怪物・・・いろいろな人形が、動き出したくてたまらない顔つきで、
  とりあえず、おとなしくしています。 夜、店の電気が消されたら、
  一斉に踊り出すというのが、物語でよくあるパターンですが、ここに
  来れば、それも現実味あるお話に思えてきて。

                  
     こちらのバイオリン弾きは、お店ではなく、上野(台東区)の公園で
   演奏を披露していたマリオネットです。切なそうな顔つきと、繊細な
   手つきが、名演奏家ふうでした。どんな曲を聴かせてくれるの
   でしょう? 聴きたかったのですが、操り手の準備に時間が
   かかりそうで、諦めて通り過ぎました。
   
                

     操り人形が出てくる物語で、真っ先に思い浮かぶのは、
   ポール・ギャリコの『七つの人形の恋物語』(王国社)です。
   人の生き方を見詰め、それを詩情豊かに綴るポール・ギャリコの
   作品は、哀愁をまとった寓話的なものが多いのですが、これも
   その一つ。
   小蠅という通り名(ムーシュ)を持つ、女優志願のやせっぽち娘は、
   ストリップ小屋でさえ雇ってもらえず、絶望の末セーヌ川に身を投げ
   ようとした時、人形芝居『キャプテン・コック一座』の七体の人形たちに
   引き止められます。
    純真なムーシャと人形たちの無垢な会話が、お客さんたちの評判に
   なり、ムーシャは座員に迎え入れられますが、陰鬱な座長の
   ミシェルはムーシャの純真さを憎み、彼女を精神・肉体の両面で
   打ちのめそうとします。
                 
   夜には侮辱的な扱いを受けるムーシャですが、昼になると
   人形たちが代わる代わる、彼女を優しく慰め、ムーシャは元気を
   取り戻すのです。
    憎しみしか知らずに大人になった中年男のミシェルが、ムーシャと
   出会い、人形を使って愛を伝える過程が、悲しいほど滑稽で美しい
   物語です。  建石修志さんの鉛筆画は、怖いくらいドラマティックで、
   パリの夜の空気を漂わせています。

   人形が主人公の物語、実は私も書いています。
   『あの子を探して』(愛育社)という短編集の中の、
   「腹話術のからくり」というメルヘンです。機会があったら、読んでみて
   下さいね。

   そういえば、操り人形と言えば、『ピノキオ』も忘れてはいけま
   せんね。 うそをつくと鼻が伸びる木の人形。ピノキオは、
   イタリアだけでなく、世界中で有名なお話だから、ご存知の人も
   多いでしょう。 だけど、詳しいストーリーは? となると、「鼻が
   伸びる」「くじらの中で、おじいさんと再会する」「最後に本物の
   人間になる」というポイントくらいしか覚えていない人も、また多い
   でしょう。(私もそうでした・・・)
    それで、今月の19日から30日まで、ピノキオなどの、古典的な
   児童文学の名作を、あらすじやエッセイ、絵や造形作品などで
   紹介する『BOOK展・伝えたい物語たち』というのを行います。
           


             BOOK展 伝えたい物語たち

  ギャラリーウシンにて
   〒359−1141 埼玉県所沢市小手指町1−22−13−102

    2013年6月19日(水)〜6月30日(日)
   11:00〜17:00  月曜日と火曜日が休廊
        (6月29日の土曜 午後2時から お話会を開催
     予約・問い合わせ  090−9389−6779 細野さん)




 展示としてご紹介する本は、
 『ピノキオ』のほかにも、『青い鳥』
 『メアリー・ポピンズ』など。
 左の絵は『みつばちマーヤの冒険』
 の主人公、マーヤです。巣を飛び
 出して冒険に出掛けるくらいだから、
 怖いもの知らずで、気が強く、
 プライドの高い女の子(?)の蜂。
 絵にも、そんな雰囲気が出ているの
 では? 絵を担当してくれたのは、
 18歳のイラストレーター、
 小野寺美樹さん。昭和時代の
 少年漫画家たちを尊敬している
 彼女の絵は、デジタルで描かれて
 いても、どこか素朴なタッチです。


  
  日本では『みなしごハッチ』というアニメーション(数年前には映画にも
  なりましたね)と混同されることがありますが、そのアニメと原作との
  関係やエピソードなども、展示として紹介する予定です。



  素敵な雨傘を持っていると、
  雨の日も楽しくなるものですね。
  写真は、しっとりした小雨に
  似合う赤い番傘です。
  私は出掛ける時はいつも、
  日傘兼用の軽い傘を携帯して
  いて、陽射しが強くなっても、
  急な雨が降っても、
  困らないようにしています。

   
    雨空が続きますが、くすんだ気分にならずに、これからやって来る
    まぶしい太陽を思って、雨も楽しんでくださいね。

                        2013年 6月

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