日々のエッセイ

      道にハラハラと落ちてくる葉っぱも、色づいてきました。
   運動会などの行事が多い十月と、クリスマスでにぎわう
   12月に挟まれて、静かに時間が経っていく11月。
         
  寒くなって、コートの襟をたて、一人歩きが似合うような
  ひっそりした11月でも、人が集まるところには連日、
  たくさんの人が押しかけ、秋の憂いなんか吹き飛ばすほどの
  活況です。長い復元工事を終えたばかりの『東京駅』も、
  その一つ。
         
  百年前の姿に戻った駅舎は、赤レンガに風格が漂い、
  王冠を戴いたようなドーム型の屋根が左右に控え、
  日本の駅の中の”王様”に相応しい顔つきです。
            
  写真を撮っていたら、後ろにいた観光客風なおじさん二人
  連れが、こんな会話を交わしていました。
         「ここが東京の玄関だよ」
         「いんや、日本の玄関だ」
  上の写真は、広い駅舎のまん中に構えた、駅の玄関口です。
            
  ドームの内側も、とても綺麗。見上げると白い鳥の
  レリーフが八角屋根の隅ごとに羽を広げています。下から
  見ると、鳩かなと思ってしまいますが、実は二メートルも
  ある大きな鷲だそうです。
         
  駅の中にあるポストも、このドーム屋根がついていて、
  東京駅ならでは。ここで出すと、きっと消印も特別な
  絵柄なのでしょうね。
  東京駅には、ステーションホテルも併設されていて、
  こちらもリニューアルされ、ピカピカです。
  昔はホテルの窓から、ホームが見下ろせて、なんとも
  不思議な感じがしたのですが、今はどうなっているの
  かしら?
  私がジュニア小説を書いていた頃、担当の編集者さんが
  ここのホテルで結婚式を挙げ、披露宴に招かれたのが
  良い思い出です。美人だからウエディングドレス姿も
  とても綺麗だったなぁ。  長いこと会っていなかったの
  ですが、今年5月の『帖子さんの日曜書棚展』の時に、
  ギャラリーを訪ねてくださり、再会出来たのが嬉しかった
  です。東京駅のように、彼女もぜんぜん変わっていなかった。
          
  サキソフォンの音色が秋風に乗って、どこからか聞こえて
  きそうな景色。ここは、アートを眺めながら、のんびり
  散歩が出来る北浦和公園(埼玉)。
  写真は、噴水のまん中に設えられた彫刻で、『風の中へ』
  という題がついていました。
  この公園の中にある埼玉県立近代美術館では、日本の
  70年代商業アートの回顧展をやっていて、多感な年齢を
  その年代とともに過ごした私としては、是非見ておこうと
  出掛けました。パルコのポスターなど、あの時代は
  ピカピカに新しく見えた写真が、ノスタルジックなセンスに
  思えるのは、それだけ長い時が過ぎた証拠でしょう。
        
  これは、その時代の鉛筆削り器ではありません。屋外展示物
  の一つで、黒川紀章さんが作った『カプセルルーム』なの
  です。
  宇宙船みたいな丸い窓から、部屋の中をのぞくと・・・。
        
  こんな感じ。ベッドがあり、机があり、小さなバスルームが
  完備されています。ワンルームの原型のような、狭さを感じ
  させない機能的なデザイン。このカプセルルームがいくつも
  集まると・・・。
           
  こんな風なタワービルになります。ブロックを積み上げて
  作ったみたいな遊び心のある建築物。1972年のビル
  だけれど、今でも「近未来的」なんて言葉が合いますね。
  耐震のほうはどうなんでしょう? などと心配してしまう
  のは今の時代だからこそ。
         
  うちの本棚にある『奇妙な味の物語』(ポプラ社・五木寛之)
  は、挿画が1970年に亡くなられた伊坂芳太良さん。
  サイケデリックな画風は70年代の商業アートに強い影響を
  与えたようで、この展覧会の会場へ入ってすぐに、
  伊坂さんのポスターが飾られています。やはり70年代に
  活躍された漫画家の上村一夫さんも、伊坂さんも、女の人の
  顔が面長で、どこか浮世絵風。
         
  美術館の中で、思わず座りたくなる椅子と出会いました。
  『マリリン』というソファで、ものすごく柔らかいのかと
  思って座ると、わりと固めでしっかりした感触。元気の
  出る椅子です。

  さて、秋は食慾の秋でもあり、料理も秋の食材を使った
  温かいものを作りたくなりますね。煮物を作るとわりと
  評判が良いので、これからの季節はコトコト煮物に精を
  出しましょうか。
           
   友人が刺繍してくれたパディントンベアのエプロンは
   何年も前からのお気に入りで、大切に使っています。
   子どもの頃は、パディントンの絵本が好きでした。
          
  偕成社から出ているパディントンの絵本シリーズが好きで、
  ダッフルコートを着て、カートを引きずって歩く姿が
  可愛いなぁと思いました。ずっと開いていなかった
  『バディントン・サーカスへ』という絵本を何十年ぶりかで
  開いてみたら、古い本の匂い・・・。

  深まる秋、あたたかい服をまとって、ゆっくりとした
  時間を過ごしてくださいね。
                  2012年 11月

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