五月の第二日曜日は、母の日です。お母さんにカーネーションを贈った
人も多いでしょう。 下の写真も、カーネーションの花束ですが、鳥の形に
アレンジ。なんの鳥でしょう?
トキです。学術名は、ニッポニア・ニッポンと言って、日本を象徴する鳥で、
このほど36年ぶりにヒナが誕生したことが、大きなニュースになりました
ね。 そのトキに会いに、佐渡へ行ってみました。本物のトキは、佐渡に
しかいないのです。
佐渡へは、カーフェリーで渡りました。船に乗るのは好きで、時間が
かかっても平気。岸に橋が架かって、その揺れる橋を渡る時や、
出航合図のドラが鳴る時は、ワクワクします。昔の映画なんかに、色とり
どりの紙テープを投げて、乗船する人と残る人とが、別れを惜しむ場面が
ありますが、今はどんな出航の際にも、テープ禁止だそうですね。
船が動き出しても、いつまでも甲板にしがみつくウミネコが、可愛かった
です。ウミネコとカモメの違いは、足の色。どこかの港で、知らない
おじさんが歌をうたうように「カモメピンクで猫黄色」と教えてくれたのを
覚えていたので、すぐ見分けがつきました。
佐渡の両津港に着くと、佐渡おけさの像が出迎えてくれます。
大きな像です。佐渡に来たんだなぁと実感出来ます。
町を歩けば、トキが目につきます。
遊歩道や橋の飾りにもトキ、トキ、トキ。
本物の朱鷺は、トキの森公園で会えました。遠くのゲージを双眼鏡で
のぞくだけですが、羽を開いて飛んだ時に見えた、羽の裏のトキ色が
えもいわれぬ良い色で、うっとり。和風な薄いピンク色。着物にありそう
な色です。
これが本物。
遠いので、私のカメラでは、よく撮れませんでした。
佐渡と言えば、トキ、そして金山。 金山も見て来ました。
坑内は暗いし狭いし、苛酷な仕事場だったことがよくわかります。上の
坑道は手掘りだそうで、気の遠くなるような作業です。それだけに金の
鉱脈を見つけた時は大変な喜びだったでしょう。
金山を見た後に振舞われたお茶は、金箔入り。レモンの味がしました。
その昔、佐渡には都からの流罪でやってくる格の高い人たちもたくさん
いて、その一人、世阿弥も、こんなお茶を飲んだかもしれません。
足利義教に疎まれ、佐渡にやってきた世阿弥は、この時もう七十歳を
超えていたのですが、歴史館で雨乞いの舞を踊る姿は、背筋がシャンと
していて、能面をつけると若者のようでした。もちろん人形ですが、実際の
世阿弥もこうだったのでは、と思わせます。なにしろ、日照り続きの空を、
自分の舞で雨空に変えてしまったほどなんですから。
同じ歴史館に、佐渡の鳥として、もう一つ有名な『瑞鳥』がありました。
佐々木象堂が作った瑞鳥は、皇居の宮殿の棟飾りになっているそうで、
昭和天皇在位60年の記念切手にデザインされています。幸福を招く
鳥ということで、この像に触ると良いことが・・・。たくさんの人が触れた
らしく、ところどころ色が変わっていました。私も信じて、触ってきました。
両津港に戻る前に、小木港のそばの、宿根木という小さな町へ寄って
みました。船大工が多く住んでいた地域で、築百年以上の木造の家が、
今もそのまま残っています。
世捨て小路という名前のついた
狭い狭い通り。向こうに海が見えます。反対側の突き当たりには、
神社があり、着物の子どもが裸足で飛び出してきそうな雰囲気。
船の舳先みたいな家。
どこを走っても、すぐに海へ出られる佐渡は、やっぱり島なんだなぁと
実感します。地図で見る独特な形の島に、今、来ているのだと思うと、
不思議な感じ。シーズンにはまだ早く、人が少ないので、町を静かに
散歩出来ました。
話は変わりーーー。
今年の中学入試で、吉祥女子中学校(東京都)と、
香蘭女学校中等科(東京都)の国語に、私の著書『うす灯』の中の
『重たい鞄』を使って下さったとの連絡をいただきました。
この物語には、ちょうど中学に入ったばかりの少女たちが
出てきます。謎めいた美しいクラスメートが持つ、重たげな鞄の中に
何が入っていたのか・・・。問題はなかなか難しそうです。
今月のお勧め本は、上の『光車よ、まわれ!』(筑摩書房)。
ずいぶん前に、岩崎書店の編集者さんから頂いた本で、1973年の
作品ですが、今も他の出版社から、挿絵が変わって文庫で売っていま
す。 私は、この司修さんの得体の知れない感じの絵が好きです。
日常の生活が、ある日から少しずつ奇妙な方向に動き出し、恐るべき
結末へ向かおうとするのを、小学生のグループが阻止する冒険ファンタ
ジー。学生運動が盛んだった60年代の余韻がまだ残っていて、デモや
機動隊など、子どもの会話にフツーに出てくるところが時代を感じさせ
ますが、仲間と団結して、大きな敵と戦うストーリーへのワクワク感は
普遍です。個性的なメンバーが集まったグループで、何か一つのことを
成し遂げる物語を、いつか私も書いてみたい・・・と思っています。
2012年 5月
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