日々のエッセイ

 今年のボージョレ・ヌーヴォの解禁日は、11月17日。
 会社に勤めていた頃は、その日にみんなでワインバーに寄って、
 届いたばかりのワインの味を楽しんだものですが、今はもっぱら
 家でグラス一杯程度の日々。それでも美味しいワインを見つけると、
 嬉しくなります。
               

  友人から頂いた“ワインの香りのあぶらとり紙”は、勝沼(山梨県)の
 ワイナリーで売っていたそうで、絹素材を配合した柔らかさと、ほのかに
 漂うワインの香りが、普通のあぶらとり紙とは一味違って、リフレッシュ
 効果バツグン。 ワインといえば、自著『うす灯』(偕成社)にも、ワインを
 題材にした物語があります。
            
  『幻想ワイン』というタイトルで、年老いた生真面目なソムリエと、百年
  前のワインから飛び出してきたワインの妖精との束の間の恋物語。
  挿絵の東逸子さんが、ボトルのふちにちょこんと座っている妖精を
  描いてくださって、とてもキュートです。『うす灯』という短編集は、
  骨董品屋を舞台にした、子ども向きとはいえない内容なのですが、
  「小学生の頃に読んで、今も好き」と言ってくださる方が多い作品です。

       秋の公園を散歩しながら、
  遊歩道に面した素朴な雰囲気のギャラリーに、初めて入ってみました。
  『林檎の木』(習志野・千葉県)というお店で、“仏蘭西風”をテーマに、
  懐かしい感じのフランス雑貨が所狭しと飾られていました。
             秋らしいキノコの本。
  フランスといえばワインもそうですが、やっぱりエッフェル塔がシンボル。
  こんな瓶をテーブルに置くだけで

   仏蘭西風な食事が演出できそう。そんな時は、食後の読書も
  フランスものを。ジャン・コクトーの
  『エッフェル塔の花嫁花婿』(求龍堂)は、その昔、ページ毎の挿絵が
  気に入って買った本です。コクトーは詩人であり、画家であり、映画
  監督であり、脚本家であり・・・マルチな才能を誇った芸術家ですが、
  この本の序文には、コクトーの演劇への熱い思いが綴られています。
  「台本も、装置も、衣装も、音楽も、演出も、振り付けまでも、すべて
   一人の手で成されるのが理想的だとは思うが、あいにくこんな万能
  選手は存在しない」と語り、 その万能選手に代わるものが「友情に
  結ばれた一団」と答えています。優れた芸術家たちとの交流を重んじた
  コクトーらしい言葉です。  表紙の顔は、なんだかコクトーによく似て
  いますね。
                

   この本の検印紙も、一枚の絵画のような佇まい。検印紙の貼って
  ある本も、今では珍しくなりました。

  さて、フランス続きで、もう一冊。 フランス在住の切り絵作家、
  蒼山日菜さんの作品集『レース切り絵』(河出書房新社)は、いったい
  どうやって作ったんだろうと驚いてしまうほど精密な絵です。
  黒と白のコントラストの中、浮かびあがる馬車や妖精や蝶の
  ドラマティックなこと!  しだれ桜の絵に“櫻シャンデリア”という題が
  ついているのも素敵です。

           
  11月は文化祭のシーズン。学生さんたちの中には、展示や
 模擬店の用意で忙しい人も多いでしょう。私も大学時代はテニスの
 サークルと漫画研究会を兼部していて、張り切って過ごしたのを
 思い出します。
                

 漫画研究会では、文化祭に合わせて同人誌を発行するのですが、
 その表紙を描かせてもらった年がありました。上の写真の号です。
 もっと上手な部員がたくさんいたのに・・・と、今見ると、ちょっと
 恥ずかしいです。 でも、部誌には、毎回欠かさず作品を載せて
 いました。この号には、イギリスのSF作家・チャールズ・エリック・メインの
 『アイソトープ・マン』を下地にした漫画を描きました。 
 放射性同位元素(アイソトープ)を多量に浴びた男が、事故で心臓が
 7秒間停止し、蘇生した後には、その男の世界だけがアイソトープに
 よって、現実の時間より7秒、先に進んでいるという話。
                
  舞台を日本の養護学校に移し、友だちと会話のかみ合わない少年を
  登場させ、担任の女教師が、彼の会話が必ず、ひとテンポ先回りして
  いると発見するストーリーに仕上げ、拙い絵で臆面もなく発表して
  いたものです、若さゆえ。

                       部誌の裏表紙には
                         ワインを描いていました。ワインで
                        始まった今月のエッセイ、ワインで
                       お開きにしましょう。また、来月に!

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