この間までは六時を過ぎても、まだ明るかったのに、今は夕暮れが
ストンと夜に変わります。すっかり秋ですね。夜のほうが元気な私に
とっては、これからの季節は歓迎です。
町で見かけたカボチャの飾り。今にもイタズラをしでかしそうな顔で
ユラユラ揺れていました。最近はハロウィンの仮装のためのグッズも
たくさんお手軽な値段で売っていますね。子どもだったら、魔女に
化けて、町をねり歩くところなんですけれど。
宇野千代といえば「私は死なない気がする」という名言を残して、
98歳で亡くなった作家ですが、『大人の絵本』(角川春樹事務所)は、
恋に生きた宇野さんの艶やかで物悲しい雰囲気が満ちた、
掌小説集です。 季節に例えるなら、きっと秋の本。
たった三ページちょっとの物語の中に、男女の機微や情念が感じ
られ、まどろっこしい語り口調でありながら、背すじが寒くなるような
迫力におののきます。
銀座の街で知り合いの男性を見かけた“私”が、彼の家族と共に、
喫茶店でひとときを過ごす『雨』というお話があります。休日の
繁華街で、買い物を楽しむ彼の家族は、幸せそのものに見えるの
ですが、テーブル越しの短い会話から、ぎこちなさが浮き彫りに。
彼は、若い後妻に必要以上に気を遣い、妻は血のつながらない
小さな息子に遠慮し、息子は感情を消して黙りこむ・・・。
テーブルを包む張り詰めた空気を“私”はじっと観察し続けます。
やがて皆で外へ出ると、“雨”はまだ止まず・・・。
詠み終えた後に、ひんやりとした雨の感触が残りました。挿絵は、
宇野さんと一時期、一緒に暮らしていた画家の東郷青児さんによる
もの。アンニュイな女性の絵が、文章と良いハーモニーを奏でます。
さて、先月末から、下総中山(千葉県)のストーリーテラーカフェにて、
童話講座が始まりました。古い木の家のぬくもりを生かして、お洒落に
改造されたカフェの二階が、教室です。壁がグルリと本棚になって
いて、国内外のアーティスティックな本が美しく並んでいるので、
どれも手に取って読んでみたくなります。 木の看板も良い感じ。
一時間半の講座は、和気あいあいと過ぎ、講師の私も大いに
勉強させていただきました。
(一回ごとの参加も可能ですので、ご興味のある方は、このエッセイの
バックナンバー・7月のページから、アクセスしてください)
下総中山界隈は、風情のある
ところで、町案内所も上の写真のように、古い民家が利用されています。
中には、井戸も。 ショッピングセンターの
多い便利な町なのに、少し歩くだけで、遠くまで来たような、のどかな
気分になれるのです。
お寺に脱ぎ捨てられた下駄さえも、物語めいて。
夏が長かったせいか、遅くまで
咲いている彼岸花。その赤い色と同じ橋が、法華経寺の入り口に掛かって
います。よく見ると、ザクロの形をしていました。
参道の商店街には、こんなケーキ屋さんの壁画も。見るからに
美味しそう。老舗ばかりじゃなく、若いお店もいっぱい。
参道内の、こちらのお宅は、
軒先のポストが可愛らしくて、郵便屋さんも手紙を届ける時に、笑顔に
なれそう。ポストは箱じゃなくたっていいんですねぇ。
それでは皆さん、秋を楽しんでくださいね。
2011年10月
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