日々のエッセイ
 

 すっかり夜行性の夏を過ごしています。出掛けるのは、日没後。
 夏の夜は涼しくていいなぁ、などと思いながら。 でも本音は、太陽
 ギラギラの夏も楽しみたいです。日中に外へ出られない理由は、
 顔の皮膚トラブル。春ごろに、小さなカブレがあったのですが、
 そのうち治るだろうと、ほおっておいたら、顔全体がまっ赤にはれあがり、
 水で洗顔するだけでも発疹が出る始末。それが夏じゅう続いて、
 皮膚科に行ったものの治らず、とうとう日焼け止めや、化粧品を一切
 使わない生活を送ることにしました。だから、太陽を避け、モグラみたいに
 暮らしています。真夏に顔に何も塗らないなんて、はじめての経験です。

              
  とはいえ、雨の日なら外出もOKだろうと思い、車を飛ばして、
  河口湖(山梨県)へ。優しい音色に癒されたくて、オルゴールの森へ
  行ってみました。すごい台風で高速道路の前が見えにくいのが難点
  でしたが、皮膚には安心。 河口湖畔に佇むヨーロッパ風な洋館や
  教会、色鮮やかな花が咲き乱れる庭園が、敷地内にあります。
  普段なら富士山が望めるらしいのですが、横なぐりの雨のため、
  何も見えないのが残念。
            
  館内には珍しいオルゴールが揃っていますが、一番目を引いたのは、
  上のお城。ヘレンキムゼー城の優雅な舞踏会を再現した、オートマタ
  (音楽に合わせて踊る西洋のからくり人形)で、かなり大きいのです。
               
 オルゴールの音色に合わせ、ワルツを踊る人形たちが、お城の中に
 きれいに整列していて圧巻。壁の向こうの小部屋では、宮廷音楽家
 たちが、上の写真のように可愛い仕草で演奏をしています。
             
 昔懐かしい、蓄音機の形をしたオルゴール。これも、本物の蓄音機と
 同じくらい大きなものです。
              
  オルゴールの話をしていたのに、なぜ果物市場の場面に? と
  疑問に思う方、慌てないで。 この果物は、食べ物じゃありません。
  すべてオルゴールなんです。 果物の底のほうに、小さなネジが
  ついていて、それをまわすと、音楽が流れ出す仕掛けです。
  食卓のカゴに、本物の果物と混ぜて置いておくと、面白いかも?
              
  オルゴールの森には、ピエロのオルゴールで知られる、
  むらいこうじさんの展示ブースもあります。もう二十年近く前ですが、
  代々木上原(東京・渋谷区)に、むらいさんのミュージアムがあった
  時に、取材させていただいたのを思い出します。幻想的なオルゴールの
  数々に、うっとりした覚えが。その時に、おみやげに頂いたCDは、
  今も聴いています。レット・イット・ビーや、イエスタデイ・ワンスモアなど、
   馴染みのある曲が収められていて、オルゴールの音色で聴く
  ポピュラーソングは、また違った印象です。
   涼やかで優しいオルゴールの音色は、心をリラックスさせてくれる
  と思うのですが、同行の2名が、「オルゴールを聴くと、寂しくなって
  ウツ気分になる」と
言っていたので、びっくり。人によって、感じ方が
  違うんだなぁと発見したし、それほどオルゴールの音色は心に作用
  するんだなぁと感心もしつつ、止まない台風の中、帰途につきました。

                
  八月だからこそ、読みたい本のご紹介。 ホラー短編集です。
  こわい話で涼しくなりましょう。と言っても、スプラッターではなく、
  ひんやりとした美しい余韻が漂う、アメリカ・イギリスの短いお話を
  集めたもの。『八月の暑さのなかで』(岩波少年文庫)は、どれも秀逸
  だと思います。 エドガー・アラン・ポー、ロアルド・ダール、サキ・・・と、
  作者を並べただけでも、ホラー好きな方は期待に胸踊ることでしょう。
  中でも印象深いのは、「ハリー」という作品。イギリスの女流作家、
  ローズマリー・ティンパリが六十年ほど前に発表した物語なんですが、
  ぞくぞくしますよ。
              
   可愛い幼い少女の話で、少女は外国ではそう珍しくない養女。
   そこからもう、物語は始まっていて、親たちには見えない“謎の
   おにいちゃん”が妖しく、結末へと引っぱっていきます。文章に
   無駄がなくて、人間の心を怖がらせる要素が巧みで、まさに
   正統派ホラーといった感。  その他の短編も全て、毛色が違い、
   おもしろいです。一冊で、いろんな怖さを味わえる、ホラー標本
   みたいな本。
             
  ニューファミリー新聞(千葉県ニューファミリー新聞社)で、
  新しい童話『ゆめみ荘ご一泊』の連載を始めました。定年退職をした
  ご夫婦が、ゆめみ荘という民宿を始め、そこで起こる不思議な出来事を
  毎回、掲載します。一回目は、この新聞社のウェブページで、
  7月22日の京葉版を開くと、三面に載っていますので、ご興味
  ありましたら、ご覧になってくださいね。 どんなお客さんが来て、
  どんなことが起こるのか考えるのが、楽しみです。
  編集部のほうで毎回、描いてくださるイラストも、楽しみなんです。
               
             
   ヨットのステンドグラスは、品川のホテル(東京都)で見掛けたもの。
   夏なのだから、海、ヨット、青空、そういう風景が恋しいけれど、
   顔がマトモになるまで、ステンドグラスの内側で夏を眺めるつもり
   です。それもまた、夏の思い出?
                               2011年 8月

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