日々のエッセイ

     先日、「秋に読みたい本」について取材を受け、秋らしいものって
    何だろうと考え、パッと浮かんだのが、レイ・ブラッドベリの短編集
    『10月はたそがれの国』でした。  ブラッドベリは、一時期大変な
    人気でしたが、今の若い世代は知らない人も多いみたいですね。
    奇妙な味の短編は、独特な世界観があって良いのですけれど。
                
    タイトルに10月という文字が入っているからという理由だけでなく、
    作品群の底に流れるライトな暗鬱さが、肌寒い季節に似合います。
    自分の家を“全宇宙”と教えこむ母親とその息子の話、事故が起きる
    たびに集まってくる同じ顔ぶれの野次馬の話、ミイラ作りの盛んな
    異国を訪れた仲の良い夫妻の悲劇・・・、物語は登場人物の交わす
    言葉によって、どんどん不穏なほうに傾いていき、読者はセピアの
    モヤがかかった“たそがれの国”に迷いこんでいくのです。
    原題は『The October Country』ですが、“たそがれの国”という
    邦訳が利いています。
                
    ト音記号の形をしたパンは、赤坂(東京・港区)で見つけました。
    音楽の秋、みなさんはどんな曲を聴いて過ごしていますか?
    創作の際に、曲を流したほうがアイディアが湧くという人もいますが、
    私は断然、無音派。静かな中で書くのが好きです。
    音楽といえば、昔、私が好みそうだからと同僚が録音してくれた曲が
    あり、それは『フランス組曲』というバッハの名曲でした。
    チェンバロの音が耳に優しく、以来、よく聴いています。
    “フランス”という言葉がつくものは、わりと趣味に合います。床まで
    つづく両開きの“フランス窓”、ペーパーナイフで開けて読む
    “フランス装”の書物、フランス刺繍にフランスパン、そして
    フランス人形・・・。
               
    こんな人形たちを、町のウィンドウで見かけました。本八幡駅(千葉
    市川市)の近くです。あたたかそうな服をまとった小人たちの姿は、
    まさに童話の世界。ここは、人形作家・早野たづ子さんの創作教室
    だそうです。 早野さんとは三年ほど前でしたか、取材でお目に
    かかったことがあります。もともと絵を学んでいらして、お子さんが
    生まれたのを機に人形作りを始められ、お孫さんが出来てからは、
    更に表情豊かな人形たちを発表されています。
    一瞬一瞬のあどけない仕草をとらえた人形は、どうやって作るのか
    不思議なほど“自然”です。
                
    姪の家へ遊びに行ったら、テーブルの上に薬の瓶が。どこか
    具合が悪いのかと心配したら、なんとこれ、ラムネ菓子だと教えて
    くれました。その名も、『シアワセニナール』。
    効能書きがまた面白い。  これを服用すると、
         ピンチのときでも“不幸中の幸い”になる
         いちいち幸せな気分になる
         四つ葉のクローバーが見つかりやすくなる
         なぜか小鳥が肩にとまる
         国と国との間に国境がなくなる
    そうですよ。お試しあれ。
    最近、私が感じた小さな幸せとは、近くのスーパーマーケットで
    買い物をしたら、合計金額とお財布の中身が最後の一円まで、
    ぴったり同じだったこと。
    からっぽのお財布と、いっぱいの荷物を抱えた帰り道、なぜか
    すっきり幸せでした。
    この薬のような“なーんちゃって商品”には、目がないほうです。
    私の机を見回すと、板チョコの文庫本カバー、ポッキーの
    ボールペン、落花生の消しゴムなどなど、おいしそうな物が
    たくさんあるんですよ。
                 
     小さな子と読みたい秋の絵本を紹介します。ふくざわゆみこさんの
    おおきなクマさんとちいさなヤマネくんシリーズの中の、秋らしい
    一冊。 おおきなクマさんは小さなものが大好きで、小さなヤマネ
    くんは大きなものが一番と思っているところが、ないものねだりの
    人の心を映しています。大きな種をもらったヤマネくん、小さな種を
    もらったクマさん、それぞれの畑には、いったい何が実るの
    でしょう?  最後のページには、かぼちゃのランタンが描かれて
    います。
                
     町でも、かぼちゃの飾りが目立つようになってきましたね。
     ハロウィーン祭りも、すっかり定着しました。 私がハロウィーンを
    初めて知ったのは小学生の頃で、当時欠かさず買っていた
    『Snoopy』という月刊誌の十月号に、畑でカボチャ大王の出現を
    待ちわびるライナスの漫画が必ず載っていたからです。その頃は、
    カナ表記が今とは違って、“ハローウィン”と書いてありましたっけ。
                                           
                          2010年  10月

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