日々のエッセイ

   入学、進級、入社、引越しなど、新しい環境に飛びこむ四月です。
  今年の桜は、見ましたか? 私の住む町には、川沿いに桜並木が
  あって、春になるとベンチが並べられ、屋台が軒をつらねます。
  夜まで続く桜の祭り、提灯のあかりが川面に揺れ、桜吹雪が降り注ぎ、
  行き交う人の頬も上気して、春爛漫。
      
       

  真新しい制服を着た学生さんを見ると、自分の学生時代をふと思い
 出します。中高一貫の女子校で髪型やら服装やら、規則が厳しかった
 けれど、今となっては良い思い出。
  母校の前を通る機会は、今でも時々ありますが、私が通っていた頃と
 何ひとつ変わっていない校舎に、気持ちだけタイムスリップ。三つ編で、
 薄くつぶした鞄を下げた私が、たくさんの夢を抱えながら歩いていくのが
 見えるようです。その夢のいくつが、叶ったでしょうか?
               
  校舎の一部、細長い建物は、“白塔”と呼ばれていて、学年末になると
  その名前を冠した学園誌が配布されたものです。生徒たちが文や絵を
  寄稿して出来た雑誌。中高生の頃は、自分の文章を誰かに読んで
  もらうなんて、とんでもないことと思っていたので、一度も投稿せずに
  卒業しました。それもまた、懐かしい思い出。 
                       
  今年の私立中学校の入試問題に、自著『また、あした』(偕成社)が、
  採用されたようで、見せていただいたら、設問が結構難しかったです。
  選択問題は、深く読んでみると、どれも当てはまりそうで。
  学校といえば、テストは切っても切り離せないもの。卒業したての頃は、
  「明日、定期テストなのに何もやってない!」という焦る夢を見たもの
  ですが、さすがに今はもう見なくなりました。
  上の写真は、『また、あした』の裏表紙。この形の学生鞄も、見掛けなく
  なりましたね。
                
     少女の頃に好きだったマリーローランサンの展覧会が、
   佐倉(千葉県)でやっていると聞いて、春の穏やかな日に出掛けて
   みました。思ったより小さな展示だったけれど、淡いグレーと
   淡いピンクの溶けた絵は、春らしい優しい空気を漂わせていました。
   そういえば、初めて原書で読んだ本は、マンスフィールドの

    『園遊会』で、マリーローランサンも挿絵を付けていましたっけ。
   主人公ローラが「ライフ イズ・・・」と、口ごもりながら、初めて知った
   人生の悲哀を訴えるラストシーンが、今も心に残っています。
                    

    その美術館の庭で見た白鳥。人によく馴れているようで、手を
   伸ばせば触れそうなくらい近くに寄ってきます。ふわふわとまっ白な
   羽。柔軟な細い首。昔話では、王子や王女の化身となって登場する
   ことが多いのも、うなずける優美な姿です。
    

     こちらは、可愛いネズミさん。この帽子や洋服を見ただけで、
   「あ、あの絵本のキャラクター!」とわかるかたも、たくさん
   いらっしゃるでしょうね。
   そうです、ロングセラー絵本『ぐりとぐら』(福音館)の主人公たちです

   柏(千葉県)のギャラリー『grue』のオーナーさんが、大切にされて
   いる宝物を特別に見せていただきました。これは絵本作者のかたが、
   ご自分で作られた人形だとか。ヒゲもしっぽも、表情も仕草も、絵本の
   ページから抜けだしたよう。 『ぐりとぐら』といえば、大きなタマゴで
   作ったケーキが、ぷっくりふくらんで、香りまで伝わってくる場面が
   とても好きです。
             
  ケーキで思い出す、もう一つの好きな絵本は、これまたロングセラーの
  『しろくまちゃんのほっとけーき』です。見開きに、ホットケーキが焼ける
  過程が順に描かれていて、実に美味しそう。 ぽたあん、どろどろ、
  ぴちぴちぴち、ぷつぷつ、やけたかな・・・という具合に、添えられた
  言葉も楽しく、読み聞かせにはぴったりですね。
       さて、私もおやつの時間にしましょう。
       もちろん、ホットケーキを焼きますよ。

                                     2010年 4月
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