「んじゃ、頼んだぞ」



俺は電話を切って牧野が待つ店へと急いだ。

―――――――――― 準備は全て整った。

あとは計画通りに事が進むことを祈るだけだ。

待ってろよ、牧野。

今日こそは俺からのプレゼント、

何が何でも受け取ってもらうぜ。






プレゼント大作戦 6 〜司視点〜






カラン♪ コロン♪



店のドアを開け中へと入った。

真っ先にカウンターの中にいた村上と目が合う。

その昔、俺が中等部にあがるまで道明寺ウチのSPをしていた村上。

道明寺ウチの中でも強面で知られたコイツが

SPを辞めてコーヒー屋をやると聞いたときは本気で大笑いしたが・・・・・

なかなかどうして、今では立派なコーヒー店のマスターだ。

その村上が、『いらっしゃいませ』 と上ずった声で話しかけてくる。



――― ばかっ もっと普通に出来ねーのかよ ――



俺はそれ以上悟られないようにと

そっけない返事だけを残し、牧野の座るテーブルへと進んでいった。





注文を取りにきた女にブルマンを頼む。

その後は牧野と気の利いた会話をしようとするものの ・・・・


だめだっ!!


気が散って集中できねぇ。

正面にいる牧野が何だか不安げな顔をしているようにさえ見えてくる。

普通に ・・・・ そうだ、普通に振舞うんだ。

そう思いながらも、俺の目はあちらこちらの景色を捉えていた。










 「司様、お久しゅうございます。以前と変わらずお元気そうでなによりです」



暫くすると村上がコーヒーをトレイに乗せて俺の前に現れた。


・・・・・ なっ?! おまえ自らこの役をやるつもりか? ・・・・・


まさかの事態に少し動揺したものの、俺はあえて冷静さを装って応えた。



 「おぅ、まあな。 っつーか村上・・・・ おまえは歳食っておやじになったな」



目の前で・・・・

何やら牧野が豆鉄砲くらったみてーな顔をしてるが

今の俺には、その顔を茶化す余裕はねぇ。





村上がカップソーサーに手を掛け、テーブルへ置こうとする。



・・・・・・・



――――― おいっ!! 手が震えてんぞっ!!



次の瞬間



 「きゃっ!!」



カップはソーサーごと村上の手を離れ

牧野の膝へと落ちていった。
















 「あつっ!!」


牧野が立ち上がる。

『もっ・・・申し訳ありませんっ!! 』 と 村上が牧野のスカートを拭きながら謝っていた。



村上・・・・すまねぇ・・・・



俺は心の中で謝りながらも慌てた様子で牧野に対応する村上に言い放った。



 「おい・・・ テメェ・・・・」


 「もっ・・申し訳ございません・・・」



普段の俺なら―――

こんなことをされて黙っているはずがねぇ。

もっと・・・怒鳴ったほうがいい・・・のか?

一瞬躊躇した。

その隙をついて牧野がすかさず言う。



 「だっ・・大丈夫です!! 大丈夫だからっ! ね?道明寺?!」



争いごとを好まない牧野。

こいつの反応は ―――――――――― まずまずの計算どおりだ。

しかし、ふっと気づく。

自分の反応を考えていなかった・・・。

俺は・・・どうしたらいいんだ?

確かに、村上にコーヒーをこぼすよう指示したのは俺だ。

しかも自分ではなく、牧野に。

牧野の反応は予想どおり。

俺は――――

俺の反応は――――――





 「なっなんだ・・・ 村上もあれだな・・・。 腕が落ちたな」


 「 「 ・・・・ へっ?」 」



牧野と村上が、驚いた顔でこっちを見ていた。



・・・・・・・



なんだっ!! なに言ってんだ俺はっ!!

牧野も・・・そして村上も・・・

当然、俺がもっと怒鳴ると思っていたのだろう。

つーか、腕が落ちたなって何だよっ!!

まっ・・・まずかった・・か?



すると俺の予想に反し、2人はホッとしたような表情になると

『申し訳ございません』  『いえいえ、大丈夫ですから』 と

2人のやり取りに戻っていった。


ふぅ・・・


大丈夫か? 上手く誤魔化せたみてーだな。

・・・・ったく・・・

なんでこんな手の込んだめんどくせーことしなきゃなんないんだよ。

牧野が素直にプレゼントを受け取れば

こんなことしなくても済むっつーのに・・・・・。



 「なっ・・何よ・・」



どうやら ――――――――

知らない間に俺は牧野を睨んでいたらしい。

あいつがオドオドしながらこっちを見ていた。



 「・・・あっいや・・・大丈夫か?」


 「・・・・うん」



コーヒーをこぼされて ”平気” な奴がいるわけねぇ。

まったく・・・

こいつのお人好しは度を越えている。

まあ、そんな牧野だからいいんだけどよ。




テーブルの横では、まだ村上が謝っていた。

クリーニング代を払うという村上に対し 『もういいですから』 と繰り返す牧野。



 「・・・よくねぇ。クリーニング代くらいもらっとけ」


 「・・・でも・・」


 「でももヘチマもねぇ。いいから貰っとけ」



俺がそう言うと、牧野はしぶしぶ村上からクリーニング代を受け取った。









その後、村上は俺の分のコーヒーを入れ直すと言ったが、それを断り店を出ることにした。

ここでの目的は果たした。 長居は無用だ。

『ちょっと・・・変なことしないでよ?』 と睨みを利かせる牧野を先に行かせレジへと向う。

そっと村上にアイコンタクトを送ると、村上はニッコリ微笑み

小声で 『お役に立てて嬉しいです』 とウインクを返してきた。

牧野のコーヒー代と俺のこぼれたコーヒー代

そして牧野に渡したクリーニング代の合計を支払い


村上・・・・ サンキュ・・・


そう心の中で呟いてから
俺は扉のところで待つ牧野のところへと戻って行った。




















 「とりあえず歩くか・・・」


 「・・・・・・うん」



外に出た後、俺の予定通りの提案に小さな声で頷いた牧野。

スカートについたコーヒーのシミが、店内にいた時よりもさらに目立つ。

それも本人は気づいているのだろう。

少し俯き加減に歩き、元気がなかった。



・・・・やりすぎか・・・?



そうも思ったが、ここまで来てしまった ――――

もう後には引けない。

俺は覚悟を決めて口を開いた。



 「・・・おいっ」


 「ん・・?」


 「シミ・・・目立つな・・」


 「あぁー、うん・・・」


 「よっ・・よしっ!! 服買おーぜっ」


 「えっ? いっ・・いいよ!!」


 「その辺の店で俺が買ってやるから。遠慮すんな」


 「べっ別に遠慮なんかしてないし!!」


 「そんなシミだらけの服じゃ恥ずかしいだろ」


 「・・・・・・」


 「ってか、たとえお前が平気でも、俺が嫌なんだよ」


 「・・・でも・・」


 「ゴチャゴチャ言ってんな。 いいから来い!!」



そう言って、牧野の手を取り

目の前の店へと入って行った。




よしっ!!――――




――――計画通りっ!!!!




まあちょっと――――

やりすぎかも知んねーけどな・・・






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