彼らの選択 ACT12


オーエン校長の不安は正に的中していた。
野宿する間も惜しんで馬を走らせた結果、少年たちは予定よりも相当早く洛帝山に到着してしまったのだ。
ここまで来る間には、ろくろくモンスターにも出会わなかった。たまに現れても騎士見習い少年らの腕でも片づけられるレベルの相手ばかりだったので、ミゲルは消化不良を起こしていた。
そびえ立つ洛帝山を見上げ、登ってみたいと言い出したのは誰だっただろう。
学校黙認の伝統である肝試しにおいて、この山を制覇したという話は聞いたことがない。それは一種の伝説となるに違いない────
本来なら止める立場にいるミゲルが誰よりもそう思っていたのだから、始末が悪い。結局十三人の少年たちは馬を捨て、徒歩で険しい山路を登り出した。

最初は順調だった。
ある程度まで行ったら引き返そうとミゲルも思っていた。が、向かってくるモンスターはこれまでになく強く、ミゲルは実戦の面白さを知ってしまったのだ。
また、後輩たちが彼に頼っているというのも気分が良かった。
さすがにここのモンスターは見習いの少年たちでは歯が立たなかった。そんなモンスターを鮮やかに倒していくミゲルに賛辞が集まったのは当然と言える。
調子に乗って次第に奥まった道を進んでいると、突如天候が変わり、雷雨に見舞われた。
仕方なく岩陰に身を寄せ合って雨足が弱まるのを待った。そのうちにどんどん日が沈んでいってしまったのである。
そこまで来てミゲルは後悔した。
相当の距離を登ってしまった────下りるのは暗闇だけに倍も時間が掛かるだろう。となると、今日中にロックアックスに戻るのは不可能だ。そればかりか、無事に洛帝山を下山できるかも怪しい。
山を下りさえすれば、野営でも危険は少ない。現に昨夜も問題なく過ごした。だが、洛帝山で野営となれば話が変わってくる。あのレベルのモンスターが闇に紛れて襲ってくれば、仲間を守って闘い抜くのは至難だ。
誰よりも不安を感じているのはミゲルだったが、仲間たちを見て首を振った。騎士を目指すものとして流石に泣き出す者はないが、いずれも心細そうにミゲルを見つめている。ここでは彼が柱なのだ。
「……大丈夫だ、ゆっくり下りよう。ろうそくは残っているな? 二人で一本ずつ持て」
「は、はい…………」
「おまえ、先頭に立っていけ」
「ぼ、ぼくですか?」
「ああ。おれは最後からいく。知っているだろう、しんがりが一番大変なんだぞ?」
「そ、そうですね」
互いに寄り添うように、少年たちは歩き出した。しかし、太陽が照っていた時とは条件が違いすぎる。彼らの歩調はいっこうに進まず、微かな物音にさえ、いちいち飛び退っている。
ミゲルは歯を食いしばった。
どうしてこんなことをしてしまったのだろう。自分は上達した剣の腕を過信して、後輩たちを危地に落としてしまった。
後悔の合間に微かにカミューの顔が過った。
多分、あいつは笑うだろう────微かな侮蔑を込めた眼差しで。
そんなことは耐えられない。ミゲルは剣を握り直し、のろのろとした行進を見守った。

 

 

 

「どうやら懸念が当たってしまったようですな」
山の裾野に各々の手綱を結ばれて所在なげにしている十三頭の馬を発見し、自馬の鼻面の向きを変えながらローウェルが言った。
色々なルートで洛帝山を目指した騎馬兵が殆ど同時に到着し、渋い顔で首を振るのを見たカミューは深い溜め息を吐いた。
「────見てみろ、雨が降ったようだ。どこまで登ったかわからないが、雨をやり過ごして下山することができない程度には洛帝山を征服したらしい」
松明を手にした騎馬兵がカミューの言葉に頷いた。ローウェルが低く切り出した。
「申し訳ございません、カミュー様。実はこの二・三日、ミゲルは何と言うか……、情緒不安定気味でして」
「────?」
「そわそわしているかと思うと、深刻な顔をして考え込んだり……それで休みを取らせたのですが……」
────あの日からかとカミューは思ったが、頷くだけにとどめた。
「別におまえの責を問う気はない。考えてみれば、オーエン校長は我々よりずっと長くミゲルと付き合っている訳だ。見立てが正しいのはやむを得ない」
「はい…………」
「それより、早いところ見つけてやらねば……基本的には一本のルートしかないはずだ。迷うことはないだろう。多分、モンスターや闇に手子摺っているだけだ。行くぞ」
カミューは先頭になって馬を進ませた。走らせるには足場がぬかるんでいる。まして眠っているモンスターを刺激しかねない。よって、早足で山路を行くしかないが、いずれも選りすぐった乗馬の名手だ。並みの乗手よりははるかに進みは早い。
ふと横に追いついたローウェルが、松明を掲げながら低く囁いた。
「ミゲルの処分を致しますか?」
まだ見つかってもいないものをとカミューは苦笑したが、ローウェルはこうした先へ先へと考えるところが美点の男だ。
「これは騎士士官学校の伝統行事だろう?  わたしたちが口を挟む問題じゃない。まあ……ミゲルには戻ったら騎馬闘技場の草むしりでもさせるかな」
「草むしり……、ですか」
ローウェルは吹き出しそうになった。
「それは────案外似合っているかもしれませんな」
「さすがにあそこの雑草を全部むしったら、肝試しなどする力もなくなるだろうさ」
「第一部隊の訓練も相当厳しくしたつもりですが……奴の体力は底無しですな」
「────……そういうところも似ている」
は、と聞き返すローウェルにくすりと笑うと、カミューは馬の速度を早めた。

 

 

 

その頃、ミゲルたちはいずなに襲われていた。
このモンスターの攻撃力はミゲルの腕とほぼ同レベルだった。だが、彼は初めて後ろに他人を守って闘うことの難しさを感じていた。あれほど可愛く思っている後輩たちを一瞬憎んでしまうほど、我が身を盾にして闘うという現実は厳しかった。
いずなの攻撃は速い。
かわそうとしても、背後で少年たちが震えていることを思うと、彼らを危険に曝すことができないために、自分の剣で受けるしかない。
何とか二体のいずなを撃退したものの、疲労は限界にきていた。
「ミゲル先輩……あ、あれ────!」
仰天したように叫ぶ少年の声に顔を上げると、そこにはアサシンが三体も並んでいた。
────これまでか。ミゲルは青ざめた。
一体ずつ現れるモンスターなら互角に闘えた。だが、夜になってモンスターも群れて現れるようになったのだ。疲労困憊している自分に、この相手は倒せない。ちらりと弱気が頭をもたげる。 
だが、後ろで掠れた声を洩らしている年下の少年のことを思い出すと、死んでも負けられないと奮い立った。
自分ははからずもこの一団のリーダーとしてここにいるのだ。彼らを守る義務がある。踏み出した足はよろめいた。手当をしながらの行軍だが、ミゲルの全身は傷だらけだった。
「くそう、来い!!」
アサシンは相手の力量を計るように、僅かな距離を置いてミゲルと対峙している。打って出る力は残っていない。できれば戦いを回避して行ってしまってくれと祈るミゲルだった。
けれど願い空しくアサシンは戦闘体勢に入った。弾みをつけて飛びかかるべく、モンスターの全身が緊張に包まれた。
────まさにそのとき。

 

「────下がれ、ミゲル!」
唐突に呼ばれた名に、ミゲルは反射的に従った。数歩飛び退った彼の目前に、真っ赤な光が走った。
「あ……──── 」
燃え上がる炎がモンスターを巻き込み、周囲を赤々と照らした。暗闇に輝く炎は、いまだかつて見たこともないほど美しく頼もしかった。壁のように一列に並んだモンスターを焼き尽くし、静かに燻りながらおさまっていく紅蓮の炎にしばし見とれる。
それから背後を見遣ったミゲルの目に飛び込んだのは、馬上から紋章の力を放った騎士団長だった。
「カ、 カミュー様────」
「カミュー団長だ…………」
少年たちの緊張は一気に切れたらしい。彼らはミゲルの背後からよろめくように零れ出ると、騎馬部隊にまろびるように駆け寄っていく。馬から下りた騎士たちが、手荒く頭を撫でていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい…………」
騎士見習いである立場をすっかり忘れて、ただの子供に戻ってしまったように泣いている少年たち。苦笑しながら、そのいずれもが大きな傷を負っていないのを確かめる騎士たち。
ミゲルは呆然と歩み寄ってくるカミューを待った。
正面に立ったカミューは、鋭い一閃で少年の頬を打つ。静かな闇に響いた音に、一同が一斉に注目した。
「────何故殴ったかわかるか、ミゲル」
「…………お、おれがこいつらを連れてこんな真似をしたから……」
「肝試しをしたことを責めているのではない。力を過信したことを言っているのだ」
カミューは厳しく言った。
「この山のモンスターでも倒せる────、そう思ったから登ったのだろう。おまえ一人なら煩く言うつもりはない。だが、おまえは本気で彼ら全員を守れると思っていたのか?」
「……………………」
「背後を庇いながら闘うのは難しいことだ。今のおまえにそれができると思うのか」
「おれは────」
「おまえが死ねば、次は誰が死ぬ! それを考えたか? そんなこともわからないほど、おまえは抜けているのか!」
誰もが驚いた。
カミューの叱責は滅多に見られるものではない。特に、幼い少年たちは優しげな団長のきつい口調に仰天したようだ。彼らは一斉に走り寄ってきた。
「カミュー様! ぼくが登りたいって言ったんです」
「違います、ぼくです!」
「ミゲル先輩はぼくらを守ってくれました。本当です! ぼくら、少しも怖くなかった……!」
嘘だろう、と騎士らは苦笑った。ならば、助けが来た途端泣き出すことはあるまい。彼らなりにミゲルの戦意を損なわないよう、必死に堪えていたのだ。
カミューも取り囲んできた少年の精一杯の弁護に言葉を詰まらせた。ふと息を吐くと、いつもの静かな口調に戻った。
「……ミゲル、自分の腕に自信を持つのは悪いことではない。だが、戦いには多くの条件がある。あるいは退くことこそ勝利となることを覚えておけ」
「逃げることが、ですか……────?」
「他人の為に死ぬことはた易い。だが、残された者を思えば、生き延びることこそ価値となるときもある。おまえが盾となって死んだなら、残された彼らは一生自責を背負って生きることになる。おまえが今日、そうした危険を彼らに与えたのだということを生涯忘れるな」
ミゲルは真摯にカミューを見つめた。
ひとたび燃え上がった炎は、すぐに消え去ったように思われた。だが彼は、カミューの中に静かに燃え続けている炎を見た。
「────すみませんでした……」
素直に詫が溢れた。
できることなら泣いてしまいたかった。思い上がっていたと言われても無理もない。確かに力を試したかったのは事実なのだ。
カミューは答えず、微かに笑んだ。それから部下に向けて命じる。
「一人ずつ見習いたちを乗せて下山する。松明を見習いに持たせろ。モンスターはやり過ごすよう心がけるように。往路同様、間隔を保つことを忘れるな」
「はっ!」
騎士たちは自分の馬に少年たちを一人ずつ引き上げ、後ろに乗せた。残されたミゲルは促すように首を傾けたカミューに戸惑った。
「馬は得意か?」
「い、いえ────まだ……実はあまり……」
「ならば、おまえが手綱を握れ。いい機会だ、ついでに騎馬訓練をしてやろう」
「そ、そんな 」
「不満か?」
「────いいえ!」
騎士に叙位されていないものは正式には騎馬を許されていない。少年たちがこっそり馬を持ち出したことも罰則に当たるのだ。カミューと一緒というのが微かに引っ掛かったが、ミゲルは急いで鐙に足をかけた。
カミューが背後に回り、鞍に手を掛け軽やかに乗り上げた。ミゲルは密着する騎士団長の存在にほのかに動揺した。
「……しかし、見事に自己流だな────何だ、姿勢がなってないぞ」
どんと背中を叩かれ、姿勢の矯正を受けたミゲルは、一列になって進み出した馬を見遣った。
「……我らはしんがりだ。おまえは半分以上素人だし、遅れるだろうからな」
言われて少々憮然としたが、もっともなので言い返せなかった。
「……何であんなに間隔を空けるんです?」
「道幅が狭い。それにぬかるんでいるしな、こうした状況で万一早駆けの必要に迫られると互いが邪魔し合って進めなくなる」
カミューはくすりと笑った。
「────座学で学ばなかったか?」
「そ、そうだったかな……」
「やれやれ」
先程の怒りを納めた後は、カミューはミゲルの知っている素顔を微かに覗かせていた。それがミゲルをほっとさせ、同時に胸を締め付けた。

────どうしたのだろう。
自分は何故、こんな気持ちになるのだろう。

あのとき、炎の魔法を放って助けてくれた青年騎士団長────助けられたことよりも、その姿の気高いまでの輝きに目を奪われた。
カミューが炎の魔法を使うことは聞いていたが、実際目にするのは初めてだったし、その威力も凄かった。ただ一撃で強敵のアサシンが全滅したのだから。
だが彼の姿がその炎よりもなお明るく、頼もしく、そして美しく見えたのは何故だろう。ずっと見たかったものを見たような気がしたのはどうしてなのだろう────
「あの魔法…………」
「ん?」
「火の紋章ですか?」
────我知らず、彼は丁寧な言葉遣いを選んでいた。
「いや、烈火の紋章だ。『火』の上位紋章さ」
「へえ────か、買ったんですか…………?」
「いや、生まれつき持っていたらしい。ついでに教えてやるが、マイクロトフは『騎士の紋章』付きで生まれた」
ぷっとミゲルは吹き出した。
「生まれつきって─────」
「……宿してなくても変わらない気がするがな」
違いない、とミゲルは笑った。
身体はあちこち痛んだが、気分は爽快だった。張り飛ばされた頬までが、心地良い熱を持っている。
「馬は集団で走る習性があるからな、よほど遅れない限り前の馬についていく。道もある程度選ぶから、そうそう方向を定めてやる必要はない。要は馬を信じてやることだ」
カミューは背後から講義した。
ミゲルは必死になって馬を操った。案の定、前を行く馬との距離は開き始めたが、時折カミューが手を伸ばして力を添えてくれたので、それほど大きく引き離されることはなかった。
ふと、カミューが背後を振り返った。その目が微かに細められる。
前を行く馬の持つ松明の光だけでは背後は暗闇だ。しかし、彼の磨ぎ澄まされた感覚に警鐘が鳴っていた。
ミゲルは不意に強く密着してきた騎士団長にぎょっとした。
カミューの手が手綱を操り、馬の速度を上げた。耳元に感じる青年の温かい吐息に狼狽えて、ミゲルは慌てて身体を引く。しかし目に入ったカミューの厳しい目に、今度はどきりとした。
「────どうしたんです?」
カミューは答えず、代わりにユーライアの鞘で馬の尻を打った。馬は早足から駆け出す寸前まで速度を上げた。
「エルトナー!」
彼は直前の騎士を呼んだ。すかさず騎士が速度を落としながら振り返る。
「はい!」
「伝令だ、一気に先頭まで駆けろ!」
「は?」
「全速で山を下りる、急げ!」
「は、はい! おい、しっかり掴まれ!」
理由はわからなくても、命令には服従するのが騎士の掟だ。エルトナー騎士は後ろに乗る少年に短く命じると、僅かに列を逸れて、走る騎馬隊の横を叫びながら駆け抜いていった。
「伝令! 全速前進! 全速前進だ!!」
いずれの騎士も驚いたように横を過ぎてゆくエルトナーを見たが、即座に手綱を握り直して緊張を高めた。先頭が速度を上げなければ、一列に走っている部隊の速度は上がらないのだ。
エルトナーが叫びながら視界から消えると、ミゲルは改めてカミューを見た。が、彼はもうミゲルがそこにいるのを忘れたように、一心に手綱を操っている。
────舌を巻くほどの馬術だった。足場の悪さをものともせず、前方の松明の小さな光だけを頼りに距離を詰め、エルトナーの前を走っていた馬に追いついた。まだ全速前進を始められない騎士が、僅かに馬を寄せてカミューに顔を向けた。
「如何なさいました、カミュー団長?!」
「────何か来る」
カミューが鋭く言った時だった────背後に巨大なモンスターが現れたのは。鈍い青灰色に光るモンスターは、宙を飛びながら次第に彼らに接近しつつあった。
「な……何だあれは?!」
気づいた騎士が声を上げる。この洛帝山にいるはずのない、見たことのない種類のモンスターだった。
「あれは…………フライリザード────ティント市のあたりに出没するモンスターだ」
カミューの言葉に騎士が息を呑む。龍に似た姿を持つそれは、いかにも禍々しい生き物だ。
「…………いや、フライリザードだが変種のようだ。話に聞くより大きい」
その間にも刻々とモンスターは距離をせばめている。冷静に分析しているカミューに、ミゲルが狼狽しながら怒鳴った。
「は、早く紋章で────!!」
「────無駄だ。あれは火には無敵なんだ」
「そ、そんな!」
距離はあったが、攻撃が始まった。フライリザードの吐き出す青白い炎が、カミューらのすぐ横に落ちた。
「うわっ!」
ミゲルが悲鳴を上げる。さしもの少年も、こんなモンスターは見たことがない。
「しっかり手綱を握れ!」
カミューの叱咤に、ミゲルは慌てて離しかけた手綱を掴んだ。ようやく数頭前の馬が走り出す気配がある。
「カミュー団長、どうかお先に────!」
言いさす騎士に、カミューは鋭く叫び返した。
「子供が乗っているのだぞ! こちらを気にせず、さっさと行け!」
「は、はい!」
騎士は苦しげに唇を噛むと、一気に速度を上げた。
しんがりが危険だとは知っていたが、ミゲルは飛んでくる炎の攻撃にいちいち驚いていた。カミューは後ろに目があるかのように、その一撃一撃を左に右にと巧みにかわしながら馬を進める。
しかし如何せん敵は速く、あっという間に距離を詰められた。この速さなら、あるいは先頭を行くローウェルにさえ追いつきかねない。
カミューは咄嗟に計算した。
────盾となる必要がある。少なくとも、子供を乗せた馬がすべて下山するだけの時間は。
モンスターは縄張り意識が強い。何故ここにはぐれフライリザードがいるのかわからないが、恐らく山を出てまで追いかけようとはしないだろう。
彼はミゲルに囁いた。
「死んでも手綱を離すな、ミゲル」
「え…………?」
「決して後ろを振り向かず、前だけを見て行け」
最後にそう言って笑う気配がした。はっとして、命令に背いて振り返りかけたとき、背後にあったカミューの存在が消えた。必死に巡らせた目に映ったのは、馬から飛び降りながら剣を抜いているほっそりした姿だった。
「────カミュー……団長!」
ミゲルは絶叫した。
言ったではないか────火は無効なのだと。
ならば、あの化物に物理攻撃だけで立ち向かおうというのか。回復のアイテムも持っている気配はない────なのに。
「誰か! 待ってくれ、おい────!!」
カミューが飛び降りた一瞬、ミゲルの操縦で馬の速度が落ち、前を行く馬と間が空いてしまっていた。少年の悲痛な叫びは、だから前方の騎士には届かなかったのだ。
「カミュー団長……────!!」
少年の絶え入るような叫びは、カミューにも届くことはなかった。

 

 

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決定打はビンタでした(笑)
ミゲル君のMは伊達ではなかった……
でも受けじゃないです(死)

次回副題 『赤騎士団長は逃げられない!!』
(BGM:対ボス戦希望)

 

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