それじゃ、元気で────

 

短い言葉を残して彼は旅立とうとした
手に携えるは愛剣とごく僅かの身の回りの品
遠い昔、おそらく初めてこの地を訪れた
そのときと変わらぬ様相で

 

一切の未練もなく
何がしかの執着もなく
彼は風のように去ろうとしていた

 

見回りが交代する最も人目を避ける時間
身を隠すに相応しい 月のない夜だった

 

微笑んだ白い貌は何処までも美しく
別れを紡ぐ唇は 甘い息を吐いていた

 

暗い渇望を現実のものにせんと
目論む意識に気づくことなく
彼はあまりに優しく笑んでいた

 

差し出した両の腕に 別れの抱擁を予想したのか
彼は無防備に歩み寄った
その身に拳を入れたとき
琥珀を過ぎったものは何だったろう

 

 

焦がれ続けた赤い花は
そうして呆気なく掌に零れ落ちた────

 

 

 

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