少女は狂気を抱いて生まれた

由緒ある家の繰り返す近親結婚の果てに
具現した狂気は幸福な家族模様を失墜させた

父母は娘を愛しながらも外聞を恥じ 恐れた

彼らは財にものを言わせ
屋敷に娘の箱庭を作った

そうして世間から葬られた娘には
閉じた世界がすべてとなった

白い壁は少女の失意を反射させ
木霊となった彼女の叫びは
小さな身体に澱となって降り注いだ

いつしか身食いする獣のように 
彼女の狂気は我が身に向かい
地獄と化した箱庭は 父母を恐怖に陥れた

ある日 食事を運んだ母は
娘が永遠を手に入れたのを知った

白い壁を埋め尽くした赤い花
そして床に仰向く少女────
額に咲いた鮮血の花が
なおも花弁を広げていた

事切れた少女は あどけない笑みを浮かべ
己が咲かせた花の中に
無邪気に戯れる幼女のようだった

骸を前に父母は祈った
次なる生は解放された幸福に包まれんことを

やがて一家はその地を後にし
悲劇の痕跡は塗り潰された
けれど箱庭に淀む歴史は
今も掠れた悲鳴を紡ぎ続ける────

 

 

 

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