青騎士団の位階者執務室で、マイクロトフは副長と頭を突き合わせ、即位式に参列する各国要人を迎える手筈を確認していた。
式典の前日朝にはすべての要人がロックアックス入りする。城内客間の部屋割りを含めて、礼を失さぬよう、最大の留意を要する作業だ。
ミューズ市国のアナベル代表には、先に特使フィッチャーに約したように、街に入った瞬間から護衛として随従する市国兵に相当するだけの騎士を付けねばならない。
トゥーリバー連邦は、三つの種族からなる複雑な国家だ。種族別に自治権を持つ上、コボルトと呼ばれる民の結束と軍事力が抜きん出ているため、国の代表とされている「人間」種族の影が薄い。即位式にも、このコボルト族の指導者が出席するあたり、現在のトゥーリバーにおける種族の力関係が知れる。
サウスウィンドウ国は、少し前に首相が失脚したばかりだ。これに代わる指導者の選挙を控えているため、式典には同国で第二の権威を持つ通商大臣が代理参席する。
マチルダ同様、王制を執るティント王国からは、坑夫に絶大な人気を誇り、マイクロトフも憧れていたグスタフ・ペンドラゴン国王が直々に足を運んでくれることになっていた。
更に、近ごろ帝国制が打ち破られて共和国が樹立した東南のトランからは、国の平定に追われる初代大統領に代わって、重鎮たる将軍職の一人がやって来る。式典参列の前に、改めて国交を結び直したい、との大統領の希望が伝えられていた。
「国賓草遇でお珪えするのは以上で最終決定ですな。残るグリンヒルですが……当たり障りのないところで、大臣級の人物が参席されるのではないかと」
「トランは旧帝国時代、サウスウィンドウやティントと戦った歴史があったのだったか。感情的な齟齬があると困るな、重々気を付けねば」
マイクロトフが言うと、副長も頷いた。
「各代表をお迎えする部屋は、棟を分けるよう配慮してございます。ですが……出来ますものなら、これまでの蟠りを捨てて向き合っていただけたらと思われます」
「新しく誕生したトラン共和国は、旧帝国とは別なる存在だ。サウスウィンドウもティントも、戦火を交えた当時とは指導者も変わっている。そこを理解し合えると良いな」
それほど広大とは言えないデュナン地方一帯だけでも、これだけの国家がひしめいている。北方にはハイランドが、領土拡大を狙って虎視眈々と機を窺っているのだ。せめて交流のある国同士だけでも円満な関係を保ち、巨大な脅威への抑制となれば、とマイクロトフは思う。
彼らはマイクロトフの即位を見届け、今後の友好関係を確認するために訪れるのだ。故に、彼らにも多少は示しておく必要がある。
マチルダは、近い将来、王のいない国になるのだと。
けれど変わらず平和を願い、護るために剣を振るう誇り高き騎士団が統治する国になるのだ、と。
「正式な晩餐とは別に、各国の代表たちと内輪で話す時間を持ちたいものだ」
マイクロトフが呟くと、意図を察したふうに副長は予定表を捲りながら微笑んだ。
「マイクロトフ様がお望みなら、叶いましょう。失礼ながら、新たなマチルダの統治者の素養には誰もが興味を持っておいででしょうから」
値踏みのため、あるいはもう少し正直な感情から、「個」としてのマイクロトフを知りたがる筈だ───副長の指摘には説得力があった。
再び彼は続けた。
「野宿を始めた式典見物希望者らの様子も、ある程度は見回らねばなりませぬな。ロックアックスの外にアナベル代表殿に付き従ってきた兵が駐屯するとなると、場所も用意せねばなりませんし」
マイクロトフは微かに眉を寄せた。
「フィッチャー殿に、ロックアックス内での警護は任せろと大言を吐いたが……今や騎士の手はいっぱいいっぱいだ。困ったな、あのときはそうするのが最善と思ったが……」
すると副長はくすりと笑った。
「とは申しましても、市軍兵が大挙ロックアックス入りするような事態は芳しくありません。マイクロトフ様が約束された通り、騎士が代わるのが自然です。それに……、アナベル代表殿を案じられる副代表の御気持ちも、分からぬとは申せませんし」
「そうだな、……分かる」
どれほど信じていても───たとえ当人に疎まれてでも、案じずにはいられない想いならマイクロトフにも覚えがあった。言葉少なに同意する皇子が過らせた青年を察し、副長は努めて朗らかな語調で続ける。
「マチルダ内で「万一」を生じさせるくらいなら、多少の負担は被っても手を打っておく方が望ましゅうございます。いずれの国も大切な同盟国ですが、殊にミューズは、対ハイランドとの構えにおいて古くからの最大の盟友ですし」
「そうだな」
「各国代表の御到着時には、街門までマイクロトフ様御自ら出迎えに参上しては如何でしょう。「騎士を従える指揮官」として、今後に向けての意志表示の一つになりますぞ」
「それは良いな。特に、アナベル殿の到着は楽しみだ。即位の祝いに馬をくださるとの話だし」
昨日、巡回に出ようとしたとき、マイクロトフの愛馬は厩舎を離れるのを嫌がった。宥めすかされ、結局は命令に従ったが、如何にも渋々といった様子だった。
理由はどうやら、同じ房に暮らすようになった美しい雌馬らしい。主人に置き去りにされてしまい、そんな己を知っているのか、カミューの馬は元気がない。彼女にすっかり魅了されたマイクロトフの愛馬は、毛繕いをしてやったり、好物の果物を進呈したりして、しきりに慰めようとしているのである。
分けられてしまった主人らの代わりと言わんばかりの様相で寄り添い合う愛馬たちを見ていると、片方を巡回に連れ出すのも躊躇われる。そんな訳で、アナベルから贈られるという馬を、密かにアテにしているマイクロトフなのだった。
「恋とつとめ、ですか……馬もつらいところですなあ」
副長が苦笑したところで、扉脇で、それまですっかり彫像のように固まっていた男が呟いた。
「……皇子。誰か来るぞ」
「ゲオルグ殿?」
はっと二人が顔を上げるや否やの瞬間、恐ろしい勢いで扉が開いた。
転がり込んできたのはグランマイヤーとゴルドーだ。日頃は犬猿の仲であるのを忘れたように、並んで息を切らせているところから察するに、どうやら例の知らせが届いたらしかった。
「殿下、マイクロトフ様、一大事にございますぞ」
身を屈め、両手で膝を押さえてグランマイヤーが呻く。
「ワイズメル公が……グリンヒルのアレク・ワイズメル公主殿が、逝去したとの知らせが───」
それきり言葉が続かない。室内には異様な静寂が落ちた。
マイクロトフは、こうしてグランマイヤーが駆け込んでくる瞬間を何度も想像し、予め知っていた素振りを見せぬよう、それなりに心掛けていたつもりだ。
しかし、その場にゴルドーが同席するのは想定外だった。すべての禍の中心に位置すると思われる男、平静を保てるようになるまでは決して顔を合わせたくなかった白騎士団長。予期せぬ対面にマイクロトフは表情を選びかねた。
が、それがかえって効を奏したようだ。彼の無表情は完全なる自失と取れ、宰相や白騎士団長の目には、よもや既にワイズメルの死を聞いていたとは映らなかったのだ。
「驚かれるのも無理はありません。我らも同じです。たった今、グリンヒルから使者が着きました。一昨日、観劇を終えた後、公は突如として体調不良を訴えられ、看護の甲斐なく、そのまま亡くなられたそうで……」
聞くなり、ゲオルグと副長の目が細められた。
───そう来たか。
グリンヒルは公主の死を病死で通そうとしている。
国主が暗殺された。本来なら、大々的に悲劇を報じてもおかしくない事件である。周辺の友好国は、国主を討たれたグリンヒルに同情し、事によっては犯人確保や報復に助力を申し出る筈だから。
それを敢えて「病死」とするのは、明るみになってはまずい事実があるからだ。ワイズメル当人こそが「報復」によって殺されたのだと、周囲に知られては困るからである。
大至急を要する筈の知らせが今になったのは、そのための画策に追われていたからだろう。おそらく今頃は、公都に箝口が敷かれている。暗殺現場を目撃したものたちに、余計なことを口にせぬよう、念入りに指示が施されているに違いない。マチルダ騎士が事実を知り得て、報を寄越してくれたのは、実に幸運だったとマイクロトフは考えた。
「まったく、何故このような時期に急に……」
ゴルドーが困惑しきり、といった面持ちで唸る。「計画」における最大の協力者を失ったのだから、当然だろう。グランマイヤーが苦しげに説いた。
「テレーズ公女の御婚儀が迫っているとあって、国内貴族が祝辞を述べるため続々と公都に訪れていたようで……。酒宴続きの疲れが祟ったのかもしれませんな」
成程、とゲオルグや副長も頷いた。
そこそこ納得のいく脚本だ。真相を知るものには陳腐な筋書きだが、グランマイヤーやゴルドーは使者の言葉に疑いも持っていないようである。
副長に椅子を勧められたグランマイヤーは、どっかと腰を落とすなり、握り締めていたため皺くちゃになった文を差し出した。
「国務大臣からの書簡です。このような事情ですゆえ、御婚儀の話をひとたび白紙に戻していただけまいか、そのように請うております」
「ここまで固まった話を、この切羽詰まった時期になって反故にせよとは、勝手きわまりない言い分だ!」
同じく椅子に座り込んで、押し殺した声で吐き捨てるゴルドーを、グランマイヤーが忌ま忌ましげに睨み付けた。
「予期せぬ事態に右往左往しているグリンヒルに対して、何が何でも約束事を遵守しろと迫る方が無情なのでは? テレーズ公女は、公の一粒種ですぞ」
「それをマチルダに嫁がせると決めたのもワイズメルだ!」
ぴくり、とマイクロトフが眉を上げた。文を副長に回しながらゴルドーを見据える。
「おれの婚約者であった人を「それ」呼ばわりしないでいただきたい。グランマイヤー、おまえの言う通りだ。婚姻の儀は中止、そのように手配を始めてくれるか」
どのみちマイクロトフが王位から退くなら、他国の姫との結婚は意味を為さない。その旨を弁えているグランマイヤーは、即座に受諾した。
この場に自身の味方はいない、そんな空気を感じ取ったらしく、ゴルドーが落ち着かなげに視線を彷徨わせる。程なく彼は扉脇に置かれた椅子に座り込んでいる男に気付いて眉を顰めた。
「……マイクロトフよ、この者は? 相変わらず部外者を騎士団に引き込んでいるのか」
そこで初めてゲオルグが立ち上がった。妙に畏まった会釈をし、親しげとも言える口調で切り出す。
「お初にお目に掛かる。ゲオルグ・プライム……一介の剣士だが、皇子に滞在を許されたゆえ、厚情に甘えている。御見知り置きを」
ゴルドーは無論、パチパチと瞬くグランマイヤーでさえ、名に聞き覚えがあった。マイクロトフが、我が事のように誇らしげに言い添えた。
「そう、かの高名な「二刀要らず」のゲオルグ・プライム殿だ」
「何故そのような者がロックアックスに……?」
殆ど呆然といった調子でゴルドーが言う。これにはゲオルグが笑みながら応じた。
「それはもう、世の野次馬と同じ、マチルダの新国王の誕生をこの目で見ようと思いまして。ところが、街でひょっこり我が剣の弟子が皇太子殿下の世話になっているらしいと聞き及び、訪ねてみたところ、生憎と当人は城を出ているとのことで……摺れ違わぬよう、戻りを待たせていただくことにした訳で」
「剣の弟子……?」
「カミューです、叔父上」
胸の透くような一瞬だった。予想通り、ゴルドーは唖然とした。
未だカミューの消失が伝わっていなかったのは幸いだ。手駒と信じる青年の思いがけぬ行動に狼狽を隠せないゴルドーの反応を、期せず目の当たりに出来たのだから。
「あの男……、城を去ったのか?」
「去った、と申しましょうか……マチルダの他の村も見学したいと希望されましたので、マイクロトフ様が退城を許可なさったのです」
副長が答えると、ゴルドーはますます息を荒げた。
「彼はおまえの……学友、だったと記憶しているが、「二刀要らず」の弟子だと……?」
「はい、叔父上。グリンヒルで学問をおさめた後、ゲオルグ殿に師事して剣腕を磨いたそうです。叔父上も、前にカミューとお会いになったとき、佩刀しているのに気付かれた筈ですが?」
これまで幾度も煮え湯を呑まされたゴルドーを相手に、優位に話を展開させるのは心地好い。いずれ企みの全てを暴き、罪を償わせてやる、そう思えば泰然にも拍車が掛かった。落ち着き払ったマイクロトフを前に、ゴルドーは必死に状況を整理しているようだった。
「して、殿下。如何致しましょう、マチルダとしてもワイズメル公の葬儀に参列せねばなりませんが……」
問い掛けるグランマイヤーに、マイクロトフは考え込む演技を打った。
「即位を控えたおれは弔事に出向けないし、ここはやはり叔父上に行っていただくのが最良ではないかと思うが」
するとゴルドーが打ち据えられたが如く目を剥いた。
「わし、だと?」
「はい。我がマチルダでは、白騎士団長は皇王と合わせて両輪と称される国の柱。縁戚として結ばれようとしていた隣国主の葬儀に臨むには、この上ない人選です」
ところが、これにはグランマイヤーが顔をしかめた。
ワイズメルとゴルドーの関係を知らぬ彼は、これを機に、ゴルドーが残されたグリンヒル要人らとよしみを結ぶのを恐れたのである。
はっきりと否を浮かべて何事か言い出そうとする前に、しかしゴルドーの方から拒絶がもたらされた。
「いいや、それは違うぞ、マイクロトフよ。テレーズ公女との婚儀をはじめとして、より密接にワイズメルと交渉してきたのはグランマイヤーだ。皇王空位の間、外交面を一手に担ってきた宰相こそ、国の代表として赴くに相応しい」
こんなふうにゴルドーに持ち上げられた覚えのないグランマイヤーは、戸惑いを隠せぬ表情で、「これはいったい?」と言いたげにマイクロトフを見遣る。マイクロトフや副長も、このゴルドーの言い分には行き詰まってしまった。
葬儀参列を口実に、暫くゴルドーには留守にして貰うつもりだった。グランマイヤーには皇王制廃止の方に集中して欲しかったし、一石二鳥の策と思われた。
けれど、赤騎士団副長が案じていたように、カミューの消失を知ったゴルドーは、ここで動いてはならないと保身の本能をはたらかせたようだ。日頃は完全に見下しているグランマイヤーを持ち上げてまでの残留意向に、一同はそれ以上の対抗手段を思い付けなかった。
マイクロトフは無念でいっぱいになりながらゲオルグへと視線を投げた。小さな、だが力強い首肯に励まされ、グランマイヤーへと向き直る。
「行ってくれるか、グランマイヤー」
「はい、殿下。憚りながら殿下の代行を務めさせていただきましょう。ただ、そうなりますと……」
───皇王制廃止に関する議論を中断せねばならない。
傍らの白騎士団長の反応を窺って語尾が細る。察した副長が明るく言った。
「問題ございませんでしょう、グランマイヤー様。既に動き出した事案ですゆえ、ほんの少しばかり先延ばしになったところで、障りがあるとは思えませぬ」
そこでゴルドーが微かに身を震わせた。
「事案……マチルダ統治の根本を覆すという、あの話か」
「おや、ゴルドー様ももう御存知でおられましたか」
飄々と言って退けた副長に、きつい眼差しが注ぐ。
「斯様な大事、耳に入らぬとでも思うか。知っておるぞ、貴様がわしを差し置いて政策議会に出たのも、な」
これにはグランマイヤーがすかさず割り込んだ。
「それは違うぞ、ゴルドー殿。わたしが彼に「是非に」と出席を請うたのだ。最も殿下の傍近く仕える騎士、殿下の御心情を弁えた人物として、意見を求めることもあろうかと」
ぴしりと反論したグランマイヤーに、更なる憎々しげな瞳が向かう。
「そのような国政の変容を沙汰する議会にわしを招聘せぬとはどういう了見だ。蔑ろにされるのは我慢ならん」
「これは異なことを」
座のすべてが自らの側にある。グランマイヤーは自信たっぷりに、溜め込んだ憤懣をぶちまけた。
「確かに白騎士団長は国を支える両輪の一つ。然れど、国政の方向をさだめるのは皇王陛下、空位の今は、議会がその役目を委ねられている。しかも昨日の議会は殿下の御意向を議員らに説いた最初の場、白騎士団長を招かずとも、これを蔑ろにしたと取られるは心外ですな」
いいぞ、とマイクロトフは心中で声援を贈った。
その通りだ。
出過ぎているのは寧ろゴルドーの方なのに、本人がそれを忘れ果てている。正に、王が不在だった弊害の最たるものであろう。
ゴルドーも、旗色の悪さを悟ったように口惜しげに言葉を呑み込み、努めて話題を変えようと試みた。
「して、供回りはどの団から出すのだ?」
ゴルドーがグリンヒルへ行く。随従のため、配下の白騎士も減る。最善と思われる想定が破れてしまった。
グランマイヤーが赴くとなれば、話は変わってくる。彼に白騎士団員を付き添わせるのは芳しくない。宰相に護衛をつけろと提案したカミューの言葉が過り、青騎士団副長は思案に暮れた。
城内、目の届くところに在る間はグランマイヤーも安全だ。当人にもそうとは知れぬよう、味方騎士が行動に留意している。万一にもゴルドーの牙に掛からぬようにと、密かに宰相を護っているのである。
しかし、マチルダの外に出てしまえばそれも難しい。周りをゴルドー配下の騎士で埋めるような状況は、何としても避けたい。余るつとめを抱えた部下を過らせてマイクロトフは口篭ったが、代わりとばかりに副長が口を開いた。
「……ゴルドー様さえ宜しければ、我々の方でつとめさせていただきましょう」
団名を濁して「我々」としたのは、赤騎士団副長とも相談せねばと考えたからだ。
片やゴルドーも、思考を総動員して申し出を吟味しているようだった。盟友ワイズメルが失われた今、思いのままに動く部下を一人でも傍から離したくないという心が勝ったか、彼はやがて厭味混じりに応じた。
「宰相殿は、そちらと懇意にしているようだし、妥当だろう」
「然様ですな、ゴルドー殿。誠実かつ真摯……まこと信頼に足る騎士たちゆえ、随従してくれるならわたしも心強い」
この痛烈な意趣返しには、ゲオルグが堪らず吹き出し掛けた。彼はちらりとマイクロトフへと目を向ける。「ここにも一人、良い味方がいるではないか」と言いたそうな眼差しであった。
マイクロトフはゴルドーに視線を移した。
「次の閣議にはおれも参席します。皇王制廃止に向けての具体的な動きを論じ始めねばなりませんから。その折には叔父上にも出席していただきたいと思います」
「う、うむ……相分かった」
そう答えるしかないゴルドーの瞳には、混乱と疑念、焦燥といったものが揺れ動いている。とどめを刺したのは、無頓着なまでに明るいゲオルグの呼び掛けであった。
「そう……、ゴルドー団長殿。御時間が許すようでしたら、是非とも手合わせいただけますかな? マチルダ騎士と言えば、周辺他国の追従を許さぬ優れた剣士の一団。その指導者たる白騎士団長殿を前にしては、憚りながら腕試しの虫が騒ぎますな」
ぐっと言葉に詰まって紅潮する男の姿に、マイクロトフをはじめ、副長も宰相も、溜飲の下がるような心地を抑えられなかった。
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