護る力のない人間には大切なものを持つ資格がない。
そう言ったきり、カミューは会話を打ち切った。凝った表情は閉ざした扉のようで、何とか続きをと望むマイクロトフを冷たく拒絶するばかりであった。
結局、気まずい空気のまま、二人は新居となる西棟へと移動を始めた。減らされたとは言っても、書物は両手にずっしりと重い。だが、それ以上に俯きがちのカミューが気掛かりなマイクロトフにとって、寧ろ重いのは心だった。
ふと、問うてみる。
「そう言えば、何故おまえが伝令に?」
「たまたまだよ」
彼が集めた書物はあまりに多岐に渡るものだったので、書庫のどの棚から引っ張り出されたものなのか、青騎士にも把握し切れなかった。そこでカミューも一緒に中央棟にある書庫へ行き、記憶を探りながら指示を出したのである。
すべてが片付いた後、自らの所持品や残る書物を移そうと東棟に向かっていたところ、青騎士団副長からの決定を伝えようと急ぐ騎士に皇子の所在確認を受けた。宰相やグリンヒルの使者と懇談中である皇子を訪ねるのは、若い騎士には非常に憚られる行為らしく、そこでカミューが代役を申し出たという訳だった。
もっともこれは、カミューとしても査察の任を逸早く知ることが出来て幸いだったのだが。
「……で、尋ね歩いてみたら、皇子様が鼻の下を伸ばして女性と戯れていたという訳さ。邪魔して悪かったね」
「なっ……」
それまで沈んだ様子だったというのに、再びカミューは普段の調子を取り戻している。その高低差について行けず、マイクロトフは顔を歪めた。
「た……、戯れてなどいない! あれはエミリア殿に揶揄われていただけで……」
「おまえは揶揄い甲斐がありそうだからね」
くす、と笑ってカミューは肩を竦める。話題はおまえのことだったのだ、そう言ってやろうかとマイクロトフは思ったが、更なる失態を招きそうなので何とか抑えた。
横暴をはたらいてたと誤解されずに済んだのなら、ほっとしても良い筈なのに、何か物足りない心地が残る。それは無関心のように思われたのだ。
「夕食はエミリア殿と取ることになった。おまえも一緒にどうだ?」
「何故わたしが? 毒見でも部屋の外で番でもするが、グリンヒルの使者殿と食卓を囲む立場ではないよ」
───御身分の違いから、遠慮なさっておられるとか。
ぽっかりとエミリアの言葉が脳裏に蘇る。慌てて足を止めてカミューを覗き込んだ。
「だが、おまえはワイズメル公主の推薦状を得てここに来たのだから、まるで無関係という訳ではなかろう? それに」
小声で言い添える。
「……護衛としてではなく、誘っているのだが」
カミューも足を止めた。ほんの少しだけ顔を傾けてマイクロトフを窺ってから苦笑する。
「やっぱり遠慮するよ。公主と面識はないと言っただろう? 推薦を受けたからといって、グリンヒルの人間と親しくせねばならないという理由はない筈だ」
妙だな、とマイクロトフの胸に小さな違和感が点滅した。
以前、ミューズの特使が訪れたとき、カミューは会食に快く応じた。「ミューズには何度か行ったことがある」などと語り、特使と会話を弾ませていたのだ。
特使フィッチャーの人柄もあったろうが、あのときのカミューは心から会食を楽しんでいたように見えた。同時に、ミューズという隣国の動向に鋭く探りを入れるのも忘れなかった。つまり、実に有意義な時間であった訳だ。
なのに、この頑なな固辞はどうしたものだろう。グリンヒル領内で貴族を助けた縁から今回の任に推挙されたという話だが、公都は良く知らないと言っていた。ならば好奇心旺盛な彼のこと、関心を持っても不思議はないのに。
「カミュー、おまえはグリンヒルの人間に好意を持っていないのか?」
するとカミューは琥珀を見開いて小さく唇を歪めた。
「極端な発想だな。会食で話題に上るだろう祝い話に、どう対処したら良いのか分からないだけさ」
今度はマイクロトフが強張る番である。その件について、無意識にカミューを遠ざけておきたかった自身に気付いて戦慄いた。
「おめでとう、……と言って欲しければ言うし、聞かなかったことにした方が良ければ、そうするけれど?」
静かな声だった。マイクロトフは弱く頷き、「後の方で頼む」とだけ絞り出した。
またしても気まずい沈黙を道連れに、再び並んで歩き始めた二人が渡り廊下を経て中央棟に入ったところ、前方から数人の青騎士がやって来た。軽く礼を払ったのは第一隊長である。
「丁度良かった、探しに伺おうとしていたところです」
それから皇子が両手に下げた荷物を鬱然と見遣り、部下に顎を刳った。
「……代わって差し上げろ」
自団長ともあろう人物が人足の真似事か、とでも言いたげな口調である。速やかに従った騎士らが荷を受け取ろうとするのを断り、マイクロトフは笑んだ。
「大丈夫だ、このまま部屋まで運ぶ」
「団長が宜しくとも、こちらが気になります」
青騎士隊長が首を振り、配下の騎士たちも困ったように眉を顰めている。そうまで言われては甘えるしかなかろうと荷を床に置く。青騎士は先を争うように書の束を掴んだ。あぶれた若い一人がカミューに向き直る。
「カミュー様、宜しければカミュー様のお荷物も……」
「査察について、少々打ち合わせておきたいのです」
騎士隊長が遮るように口を挟み、それから揶揄気味に付け加える。
「代わり映えがなくて申し訳ないが、此度も我々、第一部隊が随従させていただくことになりましたので」
彼は脇に丸めた紙面を持参していた。皇子らの視線に気付いて、ああ、と表情を緩める。
「東の居室におられるかと思ったので。地図です」
カミューは微笑んで頷いた。助力を申し出た騎士に荷袋を譲り渡す。
「そちらの荷物も、すべて客間の方へ頼むよ。適当なところへ置いておいてくれるかな」
「承知致しました、カミュー様」
若い騎士は荷を受け取りながら丁寧に会釈した。一同が東棟へと向かい出すのと同時に騎士隊長は周囲を見回す。
「……さて、と。何処か空いている部屋で───」
そこで言葉が途切れた。男の視線を追ったマイクロトフもまた、知らず息を詰めた。
視界の最奥には広い階段が構えている。石段を踏み締め、ゆっくりと降りてくる巨体。
髪、そして顔半分を覆う髭は白い。だが、これを老いと見紛うものはないだろう。男はぎらつくような精気に溢れ、身体つきは豊満ながら、武人として一廉の経験を積んだ人間であるのが見て取れる。
腰にはマイクロトフの大剣ダンスニーを上回る幅広の剣。白い鞘には細かな彫りが施され、相当に値の張る品と窺われた。
背後に従えているのは四人の白騎士だが、彼らとは一人異なる衣服に包まれ、それはマイクロトフが着る騎士装束ほどの華やぎはないが、細部に念のいった意匠が施され、重厚な威厳を放っている。
男は最後の一段を降り切らぬところで薄い眉を上げ、頬髭の奥の唇を引いた。
「これはこれは。久しいな、我が親愛なる甥殿よ」
「……叔父上」
低く返すマイクロトフに、カミューがはっと目を瞠る。あまり城内を歩き回る質ではないと聞いた人物、甥である王位継承者の命を狙う白騎士団長ゴルドー。
全身に緊張を漲らせながらも、青騎士隊長が一歩引いて礼を取る。カミューも倣うようにマイクロトフの斜め後ろに下がり、相手からは見えぬ位置で愛剣の鞘を掴んで固定した。
男はわざわざ最後の一段を降りずにいる。そうしてマイクロトフを見下ろす高さに留まるあたりに慢心と厭味が溢れていた。
「同じ城で暮らしているのに、最後に会ったのは幾月前だ? 薄情な甥め、たまには訪ねて来れば良いものを」
薄ら寒い愛想の影に不遜がちらつく。相手の元に出向かず、呼び付けるというのは本当だったのだな、とカミューは心中で嘆息した。
同時に、マイクロトフが無表情に、淡々と相対しているのがカミューには不思議だった。これまでの諸々を考えれば、皇子は掴み掛りたいほどの憤懣を溜めている筈だ。
配下の青騎士を暗殺犯に仕立てあげようとした卑劣、赤騎士団への不当に過ぎる扱い。自らへの害意以上に、誇り高きマチルダ騎士団を貶められた怒りは大きいに相違ない。
なのに堪えている。純白の手袋に包まれた手を、震えを隠すためにきつく握り締めながら。それは年長者、親族である男に対する精一杯の自制なのだと、やがてカミューも気付いた。
「……どちらかへ行かれるのですか?」
押し殺した声が問うと、ゴルドーは一瞬答えを探すように視線を泳がせる。
「いや、グリンヒルから使者が来ていると聞いてな。この者が非礼をはたらいたそうだな、詫びに行くところだ」
ゴルドーの後ろにいる白騎士はエミリアと争っていた男だ。マイクロトフと目が合った途端、騎士は慌てて顔を背けた。
「使者は休息を取っています。それに、既に当人から陳謝は為されたのだから、叔父上が出向かれる必要はありません」
詫びに行くというのが真意かどうかはともあれ、ゴルドーとエミリアを対面させるつもりは毛頭ない。きっぱりと言うと、ゴルドーは幾許か表情を硬くし、マイクロトフを睨み付けた。
「女が来たそうだな。しかも供も連れず……。火急の用件ではなかったのか?」
「私的な文を届けてくれたのです。グリンヒルの正式使者という訳ではない」
マイクロトフは必死だった。これまでゴルドーと顔を合わせるときは、大概グランマイヤーが一緒だった。両者の間に緩和剤として宰相が立ってくれた御陰で、マイクロトフは殆ど言葉を発せずに済んでいた。
だが、今は一人だ。如何に弁術に優れたカミューと言えども、初対面のゴルドーが相手では、援護は期待出来ない。
一人で戦わねばならないのだ。この、自分を飲み込もうとしている男の威圧に、真っ向から立ち向かうときなのだ。
「私的、か」
ふむ、とゴルドーは顎髭を扱いた。
「今から仲睦まじくしているとは何よりだ。王家の血を絶やさぬためにも、公女には早々に子を産んで貰わねばならんからな」
皇子の肩が引き攣るように震えるのを見たカミューの胸にすとんとそれは落ちた。さっき騎士らが運び去った文書の中に、その事件は記されていた。
数十年前、素行不良で知られる若い王族──皇王の従兄弟だった──が、政策議員の娘に手をつけた。それを知った議員が婚姻を求めたところ、「たかが臣の身で」と逆上し、議員を負傷させたのだ。
結局、彼は乱心の廉によって生涯幽閉という措置を受け、惨めな一生を終えたという。ゴルドーはどうやらその二番煎じを狙っているらしい。わざと挑発的な会話を仕掛けて、マイクロトフを怒らせようとしているのだ。
良くも悪くも彼は剣士だ。もしも勢いで剣でも抜こうものなら、十分に騒ぎになる。
無論、マイクロトフの性格は誰もが知っているから、乱心とは判断されないだろう。けれど不名誉な噂にはなるかもしれない。思うように謀殺を果たせぬ男は、そんな姑息な意趣返しに訴えているのである。
マイクロトフは辛くも自制を通した。そんな様子に落胆したように、ゴルドーは僅かに目を細める。
「まあ、良い。もののついでだ、グランマイヤーにでも会ってこよう」
「……え?」
「奴め、未だに即位式典の警護の任命書を寄越さぬ。幾ら何でもこれは遅かろう。苦言の一つも言ってやらんとな」
冷たい汗が背を伝った。
これはまずい。宰相には青騎士団が警備の中心を担わせたい意向があるが、これをゴルドーに認めさせるだけの理由が用意出来ずにいると聞いたばかりだ。
今、ゴルドーをグランマイヤーに会わせる訳には断じていかない。マイクロトフは己を奮い立たせた。
「その件なら、たった今、おれが済ませてきたところです」
「何?」
怪訝げに睨まれるが、きつく男を見返し続ける。
「グランマイヤーも何かと多忙の身。騎士団が式典を警備するのは当然のしきたりなので、つい後回しになってしまっているとか……。なれど、参席者の一覧も整ったので、近日中には任命書を出すと詫びていました。重ねての苦言は無用です」
傍らの青騎士隊長が無言のまま大きく頷いて賛同を示した。それを見たゴルドーは、ここで訪問を強行すれば己の狭量を露見させると思い至ったようで、渋い表情ながら首を振った。
「……ならば待つとするか」
独言気味に呟いて、やや顔つきを改める。
「ところで、マイクロトフ。最近、騎士の真似事に興じておるようだな。色々と趣向を凝らしているようだが……どうした風の吹き回しだ。即位を控えた皇太子には他にやることがあるのではないか?」
マイクロトフはぎくりとした。やはり見過ごしてはいなかった。ゴルドーは居を構えた中央棟から滅多に動かないが、謀殺の対象が着実に仲間を集めていることは報告されていたらしい。
これにはどう答えたものか、言葉に窮した。すると初めて青騎士隊長が口を開いた。
「畏れながら、ゴルドー様。皇太子殿下は青騎士団長の称号も持つ御方。騎士団長としてつとめに参じられるは、「真似事」でもなければ「趣向を凝らした遊び」でもないと心得ます」
現に、と低く付け加える。
「……前皇王陛下は、御即位の前日まで騎士と共につとめに臨んでおられたと聞き及びますが」
ゴルドーは怯んだように身を反らした。
「無論、マイクロトフが己の本分を弁えているなら良い。ただ、叔父として案じているだけだ」
忌ま忌ましげに騎士隊長を一瞥し、次にカミューへと目を止めた。ひっそりと侍した端正な青年。ゴルドーはにんまりと唇を緩めた。
「その者が噂の学友とやらか。名は何という?」
カミューはふわりと顔を上げ、優美なマチルダ式の礼を取った。
「カミューと申します」
「甥殿よ。遊学時代に然迄親しい友人がいたとは、とんと聞いておらぬが」
これまた厳しい探りだ。マイクロトフは動揺する心を抑えて毅然と言い放つ。
「叔父上にはそうした話をお聞かせする機会がありませんでしたから」
儀礼的な遣り取りは交わしても、個人として心許したことはない。話を持ち出す場などなかったではないか───そうした遠回しな反論はゴルドーにも通じた。不快げな表情で、彼はカミューに視線を戻した。
「部外者を騎士団内に立ち入らせるのは、幾ら学友でも厚遇に過ぎるのではないか? わしには白騎士団長として、芳しく思えぬな」
痛いところを突かれて口篭るマイクロトフを庇うようにカミューが切り出した。
「申し訳ございません、わたしがマチルダ騎士になりたいと希望したものですから……。殿下が、騎士とは如何なるものかを直に見聞出来るよう計らってくださったのです。どうか、このまま留め置いていただけぬものでしょうか」
震えて掠れる弱い言上。心許なげな、何とも憐憫を誘う声音である。普段のカミューの話し口調を知るマイクロトフと青騎士隊長は、唖然としそうになるのを懸命に堪えねばならなかった。
美しい青年の儚げな様相に、ゴルドー配下の白騎士らも居心地悪そうに互いを窺っている。当のゴルドーは、ここぞとばかりに陰湿な笑いでマイクロトフを射竦めた。
「たいそうな美形ではないか、マイクロトフ」
「は? はあ……」
「これではおまえが心動かされるのも無理からぬな」
意図を掴みかねて眉を顰めたマイクロトフは、次の一節に息を止めた。
「噂では、学友殿はグラスランドの出だそうだな。重々気を付けよ。どれほど見目が良かろうと、所詮は蛮族。金目のものを盗まれるくらいなら良いが、彼の地の人間ならば、房事で相手を蕩かし、誑かすくらいは平然として退けよう。良いか、決して不用意な約束事などしてはならぬぞ」
斜め背後のカミューがどんな反応をしたのか、マイクロトフには分からなかった。ただ、血が冷えるような感覚に支配され、仁王立ちで叔父に対峙した。
「取り消されよ、叔父上! この者への侮辱は、おれへの侮辱と受け止めます。彼は……カミューは、大切な友人です。生涯傍に居て欲しいと願う大切な友なのです! 彼を卑しめるのは、マチルダ皇太子であるおれを卑しめるも同じこと。今ここで、第一王位継承者として不敬を宣言しても宜しいか!」
広々とした大廊下に響き渡る大音声。白騎士団長と皇太子の会話中とあって、少し離れたところで足を止めて待していた騎士たち、更には怒声に驚いて飛んできた騎士たちで周囲は埋め尽くされた。
不意にゴルドーは顔を歪めた。一段下に居並ぶ騎士らは赤・青、両騎士団員。そろそろと近寄ってきた彼らが、皇子を先頭にして自らを攻めようとする敵兵であるかのような、そんな怯懦に駆られたのだ。
マイクロトフの宣言にも驚愕していた。これまで彼の口から「不敬」の二字が出たことはない。騎士団を支配する白騎士団長が唯一上座に仰ぐのは皇王である。現皇王が不在の今、王位継承者であるマイクロトフがそれに準ずるのは明文化こそされていないが衆知の認識だ。
これまで不遜な物言いを重ねては「親族の気安さ」と免罪符を掲げてきたゴルドーだが、今度ばかりはマイクロトフに先手を打たれた格好である。
縦しんば不敬罪が適用されても、逃れる自信がゴルドーにはあった。議員の半数は手のうちだ。彼らに撤回を要求させれば、時期が時期だけに、事を荒立てずに納めようとグランマイヤーは配慮するだろう。
けれど、万一にも拘束されようものなら全てが水の泡だ。ゴルドーとしても大切なこのときに危険は冒せなかった。
「いや、すまぬ」
打って変わった猫撫で声で彼は言った。
「おまえの身にもしものことがあっては、と……つい言い過ぎた。今はただ独りの身内ではないか、叔父の老婆心と聞き流してくれ」
「…………」
「カミューと言ったな。然迄親しい仲とは思わず、失言だった。騎士を目指しているなら、存分に見聞して回るが良い。今後とも甥を頼むぞ」
滑稽なまでの変貌ぶりで面倒見の良い叔父を演じる白騎士団長。カミューは薄く笑んだ。
「……いいえ。わたしの方こそ無理を認めていただき、感謝致します」
再び周囲が見惚れる礼が払われるのを見届けるや否や、ゴルドーは弾かれたように踵を返す。
「さてと、戻るか。マイクロトフ、なかなか堂々とした態度が板に付いてきたようではないか。叔父として、おまえの成長が嬉しいぞ」
白騎士団長の悪意を知った今、騎士一同には無様で醜い芝居でしかない。が、沈黙を守るだけの礼節ははたらいた。ゴルドーがしがみつく権威の椅子も、皇子の即位で失われる。それまで精々吠えているがいい、といったあたりが彼らの総意だったかもしれない。
「実にお見事な啖呵でした。やはり団長は人の上に立たれる御方だ」
青騎士隊長が言えば、集まってきていた騎士らも次々に賛同の首肯に出る。皇子に付き従うように並び立った自身らの存在が、どれほどゴルドーを脅かしたかも知らぬまま、一歩も引かずに友の尊厳を護り通したマイクロトフを称える明るい顔の輪。
マイクロトフは、突き動かされるように溢れ出た言葉を反芻して、それが己の真実であると確信した。
そしてカミューは、表情を消したまま、満足げに息を吐いている男の横顔を静かに見詰めるばかりだった。
← BEFORE NEXT →