鈴木 良雄
まず、プレイヤー自身が楽しみたかった音楽
"FOR YOU"
海野 雅威(p), 鈴木 良雄(b), CECIL MONROE(ds)
2006年6月 スタジオ録音 (ONE : FNCJ-1001)

新しいレーベルの誕生だ。この"ONE"レーベルは「誰よりもジャズを愛する4人の男たちが設立した」レーベルだそうで、その4人の発起人の中にはこの鈴木良雄、プロデューサーの伊藤潔、ディストリビューターの五野洋、そしてタモリの名が含まれている。
「チンさん」こと、鈴木良雄はほぼ僕らと同世代。かつて、若かりし頃には活きの良い演奏を聞かせてくれたものだ。その代表例が本田竹曠とのトリオ・アルバム"THIS IS HONDA"(JAZZ批評 386.)であろう。ここでは26歳の若々しいプレイが堪能できる。
翻って、このアルバムはベテラン・鈴木の丁度、還暦を迎えた2006年の録音である。それ故、ジャケットも真っ赤に染めたのであろうか?
演奏曲目はGERSHWIN, RODGERS, A.C.JOBIMなど有名どころのスタンダードを中心に鈴木のオリジナルが2曲。

@"WHAT KIND OF FOOL AM I" 鈴木のベースがテーマを執る。やわらかくてふくよかな音色だ。鈴木もいぶし銀とか言われる年齢になってしまった。海野(うんの)のピアノはタッチが綺麗でころころと良く転がる。海野は1980年生まれというから録音時、未だ26歳だ。丁度、先に紹介した本田竹曠が"THIS IS HONDA"を録音した時の年齢と同じだ。タッチが綺麗というのは大きな武器になると思う。今後の活躍を期待したい。
A"SOON" イントロを聴いていると"ON GREEN DOLPHIN STREET"を想起させ、テーマの1小節目では"LOVE FOR SALE"を思い起こさせる。2度騙しの曲なのだ。
B"FALLING IN LOVE WITH LOVE" 極めてオーソドックスに2ビート〜4ビートを刻む。快いスイング感をどうぞ。おおっ!ここにはRED GARLANDがいるぞ!
C"FOR YOU" 
この曲と次のDが鈴木のオリジナル。この曲は哀愁を帯びたいい曲だ。
D"ROULETTE" 
E"WITCHCRAFT" 
F"SUMMER NIGHT" 
G"TRISTE" 
H"I SHOULD CARE" 
テーマは2ビートで始まり、アドリブの2コーラス目から当然のごとく、4ビートを刻み出す。まあ、指でも鳴らしながら聴いて欲しいジャズだよね。
I"DARN THAT DREAM" 
ミディアム・スローのバラード。しっとりとした海野のソロ・ピアノがいいね。

鈴木良雄のベースはピアノから転向しただけあって、良く歌うのが身上だ。海野のピアノは気負いもなくナチュラルな感じ。RED GARLAND的節回しもあり、なかなか楽しませてくれる。
5月末の窯焚き(薪による窖窯焼成 その10.)の最中はこのCDを含めて2007年上半期の「厳選アルバム」を10枚ほど持参して聴き入っていたが、そういう中にあってこのアルバムはナチュラルで、聴くと「ほっと」する。これが、奇を衒わずにオーソドックスな演奏に徹したベテラン鈴木の狙いだったのかもしれない。
「音楽とは古いとか、新しいとかいうことではなくて、ただいい音楽か、悪い音楽か、ということだ」というDUKE ELLINGTONの言葉が紹介されているが、これがこの"ONE"レーベルのコンセプトになっているようだ。更には、「まず、プレイヤー自身が楽しめる素敵な音楽を制作していきたい」とある。まさにそういう流れで作られたアルバムであることを実感する。

ところで話は変わるが、この窯焚きの期間に聴いた、謂わば、2007年上期(とりあえず、5月まで)のベスト・アルバムはINAKI SANDOVALの"SAUSOLITO"(JAZZ批評 401.)で窯元の栗原氏と意見が一致した。美しいタッチと「間」、そして豊かな歌心。心を洗い、心に染み入るジャズである。   (2007.06.02)



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独断的JAZZ批評 416.