独断的JAZZ批評 412.

BILL EVANS
無人島に持っていくとするならば?
"YOU MUST BELIEVE IN SPRING"
BILL EVANS(p), EDDIE GOMEZ(b), ELIOT ZIGMUND(ds)
1977年8月 スタジオ録音 (WARNER BROS. : 8122-71719-2)

今年の3月20日にあった武蔵野市民文化会館でのGIOVANNI MIRABASSIのソロ・コンサート(JAZZ批評 402.)の会場で配布されていたパンフレットに、こんなインタビューが掲載されていた。
MIRABASSIに対する質問で、「もし無人島に漂流するとしたら、どんなレコードを持っていきたいですか?」 この答えのひとつとしてBILL EVANSの"YOU MUST BELIEVE IN SPRING"が挙げられていた。すなわち、このアルバムである。
因みに、そのほかのジャズ・アルバムというとCHARLIE HADENの"FIRST SONGS"、MILES DAVISの"SKETCHES OF SPAIN"、ERIC DOLPHYの"IT'S MAGIC"が挙げられていた。
このBILL EVANSのアルバムは1977年の録音でEDDIE GOMEZとELIOT ZIGMUNDがサポートしている。翌年にはハーモニカのTOOTS THIELEMANを加えて"AFFINITY"(JAZZ批評 330.)を吹き込んでいるがベースにはMARCJOHNSONが参加し、ドラムスはこのアルバムと同じZIGMUNDが参加している。
EVANSが肝硬変に肺炎を併発して世を去ったのは1980年の9月15日だから、これら2枚のアルバムはその2〜3年前の演奏ということになる。"AFFINITY"でもそうだったが、ピアノと電気ピアノを交互に使い分けているのもこの時期のEVANSの特徴的なことだ。
前掲(JAZZ批評 411.)のMANUEL ROCHEMANは明らかにEVANSの影響を受けていると思うし、意識もしているようだった。

@"B MINOR WALTZ ( FOR ELLAINE)" 
EVANSの書いた美しいバラード。
A"YOU MUST BELIEVE IN SPRING" 
やはり、この曲がこのアルバムのピカイチでしょう。GOMEZのベースも良く歌っているので、電気的増幅音がどうのこうのという気にならない。
B"GARY'S THEME" 
C"WE WILL MEET AGAIN (FOR HARRY)" 
これもEVANSのオリジナルで甘く切ないテーマだ。
D"THE PEACOCKS" 
E"SOMETIME AGO" 
ここまでの6曲はしっとりした佳曲ばかりで比較的大人しい感じ。
F"THEME FROM M*A*S*H (SUICIDE IS PAINLESS)" 
EDDIE GOMEZのベース音というのは木の香りがしない。電気的増幅に頼るあまり本来のアコースティック・ベースの音色が損なわれているのは残念だ。"MODINHA"(JAZZ批評 396.)におけるGARY PEACOCKのアコースティックな音色と比べると不満が残る。

BOUNUS TRACKS 
このボーナス・トラック3曲はボーナスとは言えない。最初からない方が良かった。こういうのを「余計なお世話」という。アナログLPとして録音したものをCD化すると演奏時間が短いので余白を埋めるボーナス・トラックの登場と相成るのであろうが、これは余分だ。本来のアルバムの良さを殺している。ピアノと電気ピアノを併用しているのもこのトラック。ドラムスはバタバタうるさいし、ベースは無機質な速弾きをこれでもかってくらい披露しているし、もう、何をかいわんやである。
G"WITHOUT A SONG" 
H"FREDDIE FREELOADER" 
I"ALL OF YOU" 

MIRABASSIは無人島に持っていきたいアルバムとしてこのアルバムを選んだ。1959年〜1961年のRIVERSIDE 3部作を選ばずに1977年のこのアルバムを何故選んだのかは不明だが、MIRABASSIにとって厳選の1枚なのだろう。ちょっと、僕には理解しがたい部分があるが・・・。
そう、同じ質問をされたとすると僕は何を持っていくだろうか?EVANSのアルバムから選ぶという条件付で言えば、僕は1968年録音の"ALONE"(JAZZ批評 298.)を選ぶだろう。「そこはかとない美しさに溢れたアルバム」で、EVANSらしさが一番出たアルバムだと思うからだ。   (2007.05.06)



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