KEITH JARRETT
欲を言えば、一度でいいから、ライヴハウスのような小さな空間でこのトリオを聴いてみたいものだ
"東京公演"
KEITH JARRETT(p), GARY PEACOCK(b), JACK DE JOHNETTE(ds)
2007年5月8日 (上野)東京文化会館 大ホール

KEITH JARRETT TRIOの東京公演に行ってきた。上野の東京文化会館というのは初めて行くコンサートホールだ。今回、購入したのはSS席、しめて、12,000円なり。いつも思うのだが、生のコンサートに行くのと、CDを5〜6枚ほどゲットするのとどちらに価値を感じるのだろうか?
ジャズはその即興性ゆえに一瞬のプレイを切り取る音楽と考えれば、ライヴが望ましいだろうが、当然のことながら当たり外れはある。その点、CDは録音メディアなので何回も聴くことも可能だし、気に入らなければ中古の買取に出すことも出来る。結構、これは悩ましい問題で、いつもチケット予約するときになると苦悶する。端的にいって、ライヴ・コンサートの価格が少々高くなりすぎたのではないか?せいぜい、CDの3倍程度までには抑えて欲しいものだ。この点、武蔵野市にあるスイング・ホールは3,500円程度の価格で、しかも、180名程度の小ホールということで、ジャズを聴くには最高の舞台となっている。どうしても、そこと比較してしまうので、こういう愚痴がこぼれてしまうのだ。

今回、僕のゲットした席はSS席といっても18列目。1階ホールのほぼ中央あたりだ。この場所でもSS席なのだ。価格を上げるためにあえてSS席と呼んでいるのではないかと勘ぐってしまう。そのうち、SSS席なんていうのが出来たりして!尤もそれに見合っただけの演奏価値を見出せれば、なんら問題ない。結局のところ、リスナー自身がその価値を見出せるかどうかにかかっているということなのだ。前回、KEITHのコンサートに行ったのが2004年の4月(JAZZ批評 196.)だったから、かれこれ3年ぶりになる。丁度、この日、5月8日はKEITHの62回目の誕生日だったという。PEACOCKは72歳になるし、DE JOHNETTEでさえも65歳になっている。このトリオを聴けるのは、そうそういつまでもないと思うと、「後悔先に立たず」で聴いておこうという気になってくる。何しろ、現代のジャズ界を代表する不世出のピアノ・トリオだと思うからだ。

演奏曲目は以下の通り。(鯉沼ミュージックのブログから転載させてもらった)。


前半の部
@"ON GREEN DOLPHIN STREET" 
A"DOXY" 
おっと!懐かしいブルースだ。
B"?" 
印象に残るスローバラードだった。
C"JOY SPRING" 
D"BOUNCING WITH BUD" 
E"BASIN STREET BLUES" 
いつもながら、KEITHのピアノは良く歌っているし、PEACOCKのピチカートは72歳とは思えないほど強靭だし、DE JOHNETTEのスティック・ワークは配慮が利いている。「老獪な」とまでは言わないが、「老練な」演奏だとは思う。その分、渾然一体となったパワーが減少した印象を持った。
後半の部
F"IT'S ALL RIGHT WITH ME" 
20分間の休憩を挟んで、雰囲気が一変した。「スイッチが入った」という感じ。3者の一体感、緊密感が堪能できるようになった。
G"A RAGGY WALTZ" 
H"I SHOLUD CARE" 
I"BALLAD OF THE SAD YOUNG MEN" 
これは意外な演奏曲目で、「えっ!」と思った。「へエ!こういう曲もやるのか!」 JOE CHINDAMO(JAZZ批評 118.)やJOHN HARRISON V(JAZZ批評 167.)の名演もあるので、機会があれば聴いてみて欲しい。

アンコール
J"GOD BLESS THE CHILD"
 繰り返されるリフの中で微妙にスティック・ワークを変化させていくDE JOHNETTE のドラミングに唸った!
K"WHEN I FALL IN LOVE" お馴染みのスタンダード・ナンバーで幕を閉じる。

全体を通しての印象としては、若干、迫力に欠けるかなあという気がした。ただ、これは大ホールということが大いに影響しているかもしれない。アコースティックな演奏をするにはこの会場はあまりに大き過ぎるのではないか。かといって、電気での増幅を大きくすれば、本来の演奏価値を損なってしまうだろう。この辺は興行としての採算もあるのだろうが、演奏が犠牲になっては本末転倒というものだ。

色んなことを言っても、流石は流石である。一級品であることは間違いない。多分、また東京公演があれば何をおいても行くことになるのだろう。
まあ、欲を言えば、一度でいいから、ライヴハウスのような小さな空間でこのトリオを聴いてみたいものだ。   (2007.05.12)



独断的JAZZ批評 413.